震災10年「震源域取り囲むように地震活発な地域」警戒継続を
東日本大震災の発生から10年となりますが、マグニチュード9.0の巨大地震の影響は、今も続いています。専門家の分析では、震源域を取り囲むように地震活動がなおも活発な地域があり、特にプレートが沈み込んでいる「日本海溝」の外側では、地震の頻度が巨大地震前の10倍以上になっているところもあるということです。
専門家は「地震活動が活発な状態は長い期間続くことが考えられ、強い揺れや津波への警戒を続けてほしい」と呼びかけています。
この情報は2021年3月に更新されました
目次
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巨大地震の前10年間とこの5年間 地震活動を比較
地震のメカニズムに詳しい、東北大学の遠田晋次教授は、マグニチュード1以上の地震のデータを使って巨大地震の前10年間とこの5年間の地震活動とを比べ、地域ごとの変化を分析しました。
その結果、巨大地震で大きくずれ動いた岩手県から宮城県の沖合では、地図が青色に。場所によっては巨大地震前の10分の1以下まで地震が減ったことがわかります。
一方、その周辺では活発な状況を示す黄色や赤色がみられます。
高い津波もたらす“アウターライズ地震”
特に、太平洋プレートが沈み込んでいる「日本海溝」の外側で地震活動がとりわけ活発で、場所によっては巨大地震前の10倍以上になっているところもあります。
この領域で起きる地震は「アウターライズ地震」と呼ばれ、プレート境界で起きた1896年(明治29年)の明治三陸地震から37年後の1933年(昭和8年)、マグニチュード8.1の昭和三陸地震が起き、東北の沿岸に大津波が押し寄せて死者・行方不明者は3000人を超えました。
遠田教授は、今後、昭和三陸地震のような規模の大きなアウターライズ地震が起きるおそれがあると考えています。
震源が陸から離れていることから、地震の規模に比べて揺れがそれほど強くなりにくいため、警戒が必要だと訴えています。
2月の地震も巨大地震の影響か
2月、福島県沖では最大で震度6強の揺れを観測する地震が起きましたが、遠田教授は、巨大地震のあと福島県沖の一帯で地震活動が活発な状況が続いていたことから、2月の地震も巨大地震の影響で起きたとみています。
遠田教授は、福島県沖に限らず、岩手県沖から千葉県にかけての沖合では、こうした強い揺れを伴う地震にも引き続き警戒が必要だと指摘します。
関東地方でも活動は高止まり
関東地方でも地震活動は高止まりしています。
茨城県や千葉県付近、東京湾、それに房総半島の沖合などでは巨大地震の前と比べ、地震の多い状態が続いています。
専門家「揺れと津波への備えを」
遠田教授は、「マグニチュード9の巨大地震は、直後は広範囲に影響を及ぼしたが、10年たって『もうすぐ終わる』ということはなく、長い期間、地震活動の活発な状態が続くことが考えられる。小さい地震が多いということは、大きい地震が起きやすい状況も続いているということで、強い揺れや津波への警戒は今後も続けてほしい」と呼びかけています。
注:
時期によって地震の検知能力に差はありますが遠田教授は、全体の傾向には影響ないとしています。
東北沖の地震回数
気象庁によりますと、東日本大震災が発生した2011年から去年までの10年間に、東北沖の巨大地震の余震域で観測された地震の回数は57万207回でした。
これは震災の前の2010年までの10年間に観測された地震の回数、18万8766回と比較すると、およそ3倍に増えたということです。
マグニチュード5以上の地震の回数で見ると、去年までの10年間に1012回発生し、震災前の年の10年間と比べておよそ5倍に増えました。
2011年以降の地震の回数を年別に見ると、巨大地震が発生した2011年は13万5794回でしたが、よくとしの2012年以降は、増減を繰り返しながら緩やかに減少傾向になり、去年は、4万8438回でした。
2011年と比べると9万回近く減少していますが、震災の前の年までの10年間の年平均回数・1万8876回と比較すると、引き続き多い状態となっています。
10年前に巨大地震が発生した東北から関東の沖合にかけての「日本海溝」沿いの領域では、今後もマグニチュード7以上の大きな地震が高い確率で発生すると評価されていて、気象庁は注意を呼びかけています。
気象庁の鎌谷紀子地震情報企画官は「巨大地震の余震活動は大局的には減ってきているものの、先月の福島県沖の地震のように、時折、大きな地震が発生している。このような状況は今後も長い間続くと考えられ、地震活動には十分に注意をしてもらいたい」と話しています。
全国の地震回数は約1.7倍上回る
東日本大震災が発生した2011年から去年までの10年間に、全国各地で発生した地震の回数も、震災をもたらした東北沖の巨大地震や2016年の熊本地震などの影響で、震災の前の年までの10年間をおよそ1.7倍上回りました。
気象庁によりますと、2011年から去年までの10年間に、日本列島やその周辺で発生した地震の回数は、205万1547回でした。
震災の前の2010年までの10年間の123万7312回と比べ81万4235回多くなり、およそ1.7倍に増えました。
年ごとの数で見ると、▽巨大地震が発生した2011年が最も多く30万3824回、▽2016年が28万6406回、▽2017年が26万9428回、▽2018年が22万1847回などとなっています。
このうち、▽2016年には熊本地震が発生し、▽2018年には北海道胆振東部地震が発生しています。
マグニチュード5以上の地震の回数で見ると、去年までの10年間に2065回発生し、震災の前の年の10年間と比べて1.3倍に増えました。
2011年以降の地震の回数の推移を見ると、巨大地震が発生して以降、緩やかな減少傾向にありますが、時折、2011年に近い回数まで達している年もあります。
去年の地震回数は21万3358回で、2011年と比べると9万回余り減少していますが、震災の前の年までの10年間の年平均回数・12万3731回と比較すると、引き続き多い状態となっています。
日本海溝周辺 繰り返す地震
東北から関東の沖合には、陸側のプレートの下に海側のプレートが沈み込んでいる「日本海溝」があり、この周辺では10年前に東日本大震災をもたらした巨大地震のように繰り返し地震が発生しています。
政府の地震調査委員会は、2019年2月、この「日本海溝」沿いで今後30年以内に地震が発生する確率を推計しました。
M9の巨大地震は「ほぼ0%」
10年前に東日本大震災をもたらしたような、岩手県沖南部から茨城県沖の領域全体が一気にずれ動くマグニチュード9程度の巨大地震は平均で550年から600年に一度の間隔で発生し、前回の地震から時間があまり経過していないため確率は「ほぼ0%」とされました。
一方で、マグニチュード7から7.5程度の大地震が発生する確率は、いずれも高くなっています。
領域ごとの発生確率は
青森県東方沖および岩手県沖北部「90%程度以上」
マグニチュード7.9程度の地震は平均で97年に一度発生しているとして確率は「5%から30%」とされました。マグニチュード7から7.5程度の地震は平均で9年に一度発生しているとして、確率は「90%程度以上」とされました。
岩手県沖南部「30%程度」
マグニチュード7から7.5程度の地震は平均で88年に一度発生しているとして、確率は「30%程度」とされました。
宮城県沖「90%程度」
マグニチュード7.9程度の地震は平均で109年に一度発生しているとして、確率は「20%程度」とされました。ひとまわり小さいマグニチュード7から7.5程度の地震は平均で13年から15年に一度発生しているとして、確率は「90%程度」とされました。
福島県沖「50%程度」
マグニチュード7から7.5程度の地震は平均で44年に一度発生しているとして、確率は「50%程度」とされました。
茨城県沖「80%程度」
マグニチュード7から7.5程度の地震は、平均で18年に一度発生しているとして、確率は「80%程度」とされました。
日本海溝寄りの地震
青森県東方沖から房総沖にかけての海溝寄りの領域だけが一気にずれ動く巨大地震は、陸地では激しい揺れを感じなくても大津波が襲うため「津波地震」などと言われています。マグニチュード8.6から9の地震は平均で103年に一度発生しているとして確率は「30%程度」とされました。
プレート内部の地震
青森県東方沖および岩手県沖北部から茨城県沖にかけての領域のうち、陸側のプレートに沈み込んだ海側のプレートの内部で起きる大地震でマグニチュード7から7.5程度の地震は、平均で22年から29年に一度発生しているとして、確率は「60%から70%」とされています。
日本海溝外側の地震
日本海溝よりも東、外側で起きる巨大地震も激しい揺れを伴わず津波を引き起こすことがあります。マグニチュード8.2前後の地震は411年に一度発生しているとして、確率は「7%」とされました。
専門家「改めて揺れ・津波への備えを」
福島県沖では、2021年2月にマグニチュード7.3の地震が発生し、福島県と宮城県で最大で震度6強の揺れを観測しましたが、陸側のプレートに沈み込む海側のプレートの「内部」で発生したとみられ、プレートの「境界」で起きる大地震とは違うメカニズムです。
このため、地震調査委員会の委員長で防災科学技術研究所の平田直参与は、日本海溝で起きる大地震の確率はこれまでと変わらないとして、家具を固定するなど、備えをより万全にしてほしいと話しています。
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