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ラグビースペシャル対談 五郎丸×リーチ×中村×山中

2か月後に迫ったラグビーワールドカップ フランス大会。過去2大会で躍進した日本代表は、今大会で何に取り組み、どんな結果を手に入れようとしているのか。

前々回の大会で南アフリカを撃破した「ブライトンの奇跡」の立て役者、五郎丸歩さんが、重要なカギを握る代表のベテラン3人に話を聞いた。(NHKラグビー取材班)

※インタビューは6月23日に実施

目次

    フランス大会の目標は「優勝」

    対談に臨んだのは、前々回、前回と代表キャプテンを務めたリーチ マイケル(34)、鋭いタックルが持ち味のバックスの要・中村亮土(32)、キックの名手・山中亮平(35)。代表経験の豊富な3人にフランス大会の目標から語ってもらった。

    五郎丸:2015年、19年のワールドカップで強い相手に勝ってきました。(今大会)チームとしての目標はどこに設定していますか?

    五郎丸歩さん。現役時代は日本を代表するフルバック

    リーチ:優勝だと思います。19年を経験したので、チームはどんどん強くなってきている。5、6年前だったら優勝するって言っても絶対不可能だった。でも、今は可能性がゼロじゃない。むしろ優勝できる幅がどんどん広がってきていると思います。

    リーチ マイケル選手(ポジションはフォワード第3列のフランカー)

    中村:リーチさんの言うとおり、優勝狙ってやっています。19年の時に決勝トーナメントに残った8チームの中で唯一日本だけが優勝を狙っていないチームだったと思うんですよ。そこから勝つマインドを作るっていう大切さを学んだ。やっぱり目標設定を優勝にしないと先は見えてこないし、結果は残せないと思うので。

    中村亮土選手(バックスのセンター)

    山中:同じく優勝です。優勝っていう目標設定をすることで、それに向かっての準備のしかたも変わってくると思います。チームの考え、マインドとかそういうところも優勝に向けてやっていけるので、高いレベルで準備できるんじゃないかなと思います。

    山中亮平選手(バックス最後尾のフルバック)

    合宿ではディフェンスを強化

    5月24日、日本代表36人と候補選手10人が発表された。6月12日から29日まで千葉で合宿が行われたが、最大の目的はディフェンスの強化。

    ジェイミー・ジョセフヘッドコーチは「合宿ではタックルの精度をナショナルレベルまで引き上げていく」と語っていた。

    五郎丸:合宿を千葉でやっていますけど、うわさに聞くと過去一番キツいという話です。いかがですか?

    中村:間違いないですね。ジムの中のタックルセッションがあるんですけど、1時間ずっと動きっぱなしなんですよ。(専門の)タックルコーチが来てやるんですけど、まあハードです。妥協できない。過去一番キツい1時間です。

    リーチ:あのセッションは確かにすごく大変。(五郎丸さんにも)1回経験してほしいです、タックル練習を(笑)。あれ、やばいよね。

    山中:めっちゃやばい。

    五郎丸:インドアでやるんですか?

    リーチ:インドアで、はだしで。(ぶつかった)音とかもすごい。

    中村:(チームメートの)ディラン・ライリーは、最初のセッションで脱水症状になってました(笑)

    厳しくなるタックルのルール

    五郎丸:今シーズンは、特に世界基準でタックルのルールがかなり厳しくなったと思います。そういったところも狙いですか?

    リーチ:ジェイミーHCはそう言っていました。世界のトップ4とかベスト8とか、より上に行ったらセットプレーとディフェンスです。これまで(強豪の)アイルランドやフランス、オールブラックス、オーストラリアとやってきているのは強みですが、ワールドカップに行ったら、そのでっかい選手がどんどん走ってくる。それを止めないといけない。

    昨年のフランスとの試合

    五郎丸:今大会はタックルに入る位置とか、レッドカードをまずもらわないというマネージメントも、すごく必要になってくるんじゃないかと思います。それはチームとして統一されている?

    リーチ:ホテルでミーティングキャンプやったときに、これがレッド、これがイエローというプレー映像をいっぱい見ました。みんなでチェックしました。でも最終的に決めるのはレフェリー。本当にもうグレーゾーンが多くて……。タックルの位置はいろいろ厳しくなっています。

    五郎丸:今回、優勝をターゲットにしています。具体的にこれから取り組んでいかなければいけないことは何ですか?

    リーチ:僕の場合はゲームマネージメントかなと思います。いかに勢いをコントロールできるか。僕たちはスキルもあって、戦術もよくて、フィットネス、力、セットプレーもよくて、あとは試合をどれだけコントロールするか。ベスト8に行ったらキッキングゲーム、規律の大事さ、ショットなのかモールなのか、自分たちの強みどうやって出すか。そこをフォーカスしたいなと思います。

    五郎丸:過酷な合宿の中でも、リーチ選手はダーツを宿舎に持ち込んでいるといううわさですが……。

    リーチ:はい、1回ハマって今もハマっていて、合宿に入る前は1週間練習して(笑)。合宿のチームルームで(中村)亮土と勝負したら、2回負けた。

    中村:たまたま勝ったんですけど、調子乗ってもう1回挑んだらぼろ負けしました(笑)

    五郎丸:山中さんもやったんですか?

    山中:僕はダーツやる元気もなくて……(笑)全然やってないです。

    リーグワン期間中 代表スタッフと密に連絡

    五郎丸:代表選手はリーグワンのシーズン中、代表スタッフからのコミュニケーションってあるんですか。もう少しこういう風にした方がいいとか?

    リーチ:はい、コーチ陣がまわってきました。(所属チームの拠点がある)府中にジェイミーHCが来て、怒られて。「こうして、こうして」って言われましたね。

    中村:ジェイミーHCとやるか、トニー・ブラウン(コーチ)とやるか。選手によって違うんですけど、だいたい1週間に1回。

    山中:オンラインでのミーティングもある。

    中村:オンラインミーティングと、2週に1回グラウンドに来て直接面談みたいな感じです。試合の振り返りと、こうしてほしいっていうのはずっと言われていました。

    山中:所属チームより、試合のレビュー(批評)をめっちゃくれます(笑)バックスは大体トニー・ブラウンコーチが担当なんですけど、僕だけジェイミーHCで、なんでだろうなと思いながら。

    中村:めちゃめちゃ目を付けられてた(笑)

    山中:すごくいいレビューもらったんで、リーグワンもいい試合できていました。個人的には。

    五郎丸:一番心に残っているレビューは何でしょうか?

    山中:ボールを持ってない時の動きをもっと上げてくれっていう感じでしたね。やっぱり試合が重なっていくにつれて疲労もあって、ちょっとさぼってしまっているところを見られていて。そこをもっと上げろと。特にティア1(世界の強豪)とやるには、そういうところが大事だって言われたんで、意識しながらやっていました。

    前回と今回のチーム作りの違い

    強化試合に臨む日本代表(2023年7月8日)

    五郎丸:これまでと比べて、チーム作りで違った部分はありますか。2019年までのプロセスと、23年に向かうプロセスの違いは?

    中村:大きく変わらない気がします。でも、今回の4年間は日本代表の試合がなかったり、コロナがあったり、なかなか集まる機会がなかったので、リーグワンのシーズン中のアプローチが多くなりましたね。シーズン中でもちゃんと日本代表としてコミュニケーションを取っていくのは、今までになかったと思います。

    リーチ:15年から19年にかけてチームカルチャーもガラッと変わった。15年の時はすごく厳しくて、サンダル禁止、ルールも全部きっちりあった。19年になって選手主導になった。選手が決めて、やる。19年までのベースが今でも生きている感じはある。本当にプロフェッショナルになってきたよね。

    前回からどのようにモチベーションを上げたか

    五郎丸:(自国開催で初のベスト8を達成した)19年の大会から23年に向けて、どのようにモチベーション上げてきましたか?

    スコットランドに勝利し、初のベスト8進出を決めた日本代表(2019年)

    リーチ:僕はそもそも、(前回の)ベスト8という目標が嫌いだった。ジェイミーHCが「ベスト8を目指す」って言ったとき、「もっと上に行きたい。優勝目指して頑張りたい」と思った。そうしたらジェイミーHCは「違う、ベスト8にして達成できる目標にしよう」と。でも大会が終わったときに、達成感がゼロじゃないけど、ちょっともの足りなかった。このチームの可能性はまだまだ引き出せると思った。そうしたらもっと次、次と思って、(負荷をかけたら)体が壊れた(笑)

    中村:19年から20年はけが多かったですよね。

    リーチ:動けなかった。復活して作り直して、いまは絶好調。

    五郎丸:中村選手はどうですか?

    中村:僕はもう、(19年の決勝トーナメント初戦の)南アフリカ戦の敗戦がめちゃめちゃ悔しくて。終わった瞬間からもう悔しさがにじみ出てきて、勝ちたいという思いがすごく湧いてきたんですよ。(その後)世界一のセンターになりたいっていうのを公言して、あえて自分にプレッシャーをかけて、今に至ります。あの試合がなかったら、日本代表でもう1回やりたいっていう欲も、選手としてもっともっとやりたいという欲もなかったと思います。

    五郎丸:山中選手は?

    山中:19年は31歳でした。もう代表はないのかなっていう気持ちもあったんですが、やっていくうちに調子が上がってきて。(ポジションが)フルバックに変わって、フルバックの経験をどんどん積んで楽しくなっていた。もっともっと高いレベルでやりたい、やっぱり日本代表でプレーしたいなっていう気持ちがずっとあって、続けられている感じです。

    南アフリカ戦に敗れた後の日本代表

    フランス大会 カギとなる「初戦」

    五郎丸:(日本は)優勝をターゲットにしてます。まず1次リーグを考えたときに、最初の山場は(2試合目の)イングランド戦と思ってるんですけど、違いますか?

    リーチ:初戦のチリ。先のことを考えたら負け。僕はチリだと思う。

    中村:僕もチリですね、はい。

    リーチ:合わせてない?(笑)

    中村:そんなことない、そんなことない(笑)

    山中:僕もいろんなところで言っています。初戦が大事だって。

    五郎丸:たしかに19年振り返ったときに、(初戦の)ロシア戦っていうのは、みんながなんとなく勝てるだろうなと。それは代表選手がどう思ってるじゃなくて、世の中の風潮ですよね。勝てるだろうなという思いがありましたけど、やっぱり苦しい試合になりました。ワールドカップでそんなに簡単な試合っていうのはないので。

    リーチ:チリって南米で、初めてのワールドカップという感情もあるし、国民にプライドをもたせたい。その感情で挑んで来るから、中途半端におれら勝てると思ったら絶対負ける。

    チリとの初戦が行われるフランスのスタジアム・ド・トゥールーズ

    五郎丸:チリ代表が一番強みとしている部分はなんですか?

    中村:正直まだ分析してないんでわからないですけど、開幕は難しいゲームになるので、自分達のラグビーをどれくらいできるかっていうのをフォーカスするべきだと思っています。日本のラグビーは速くて、スペースにボール運んで、全員でアタックするっていうカルチャーがあるので、そこにフォーカスしてやりたいなと思ってます。

    大会への意気込み

    五郎丸:最後の質問です。この2023年フランス大会、それぞれにとってどんな大会にしたいですか?

    山中:僕はもうこの大会でラストっていう覚悟でやっているので、ラグビーやってきた中の集大成だっていうふうに言っています。それぐらいの気持ちで今回の大会に臨みたいなって思ってます。

    中村:どんな結果でも受け入れられるくらいのベストな準備をしたいなと思います。それこそ、1次リーグで負けようが、自分がやりきったって思えるような大会にしたい。それがいい結果になれば、日本にとっても間違いなくいいことなので、まず自分ができるベストな状態を作るっていうのを、この期間で作っていきたい。

    リーチ:毎回同じ。まず日本代表が強いと証明したい。そして、いろいろな人に良くしてもらってるから、その恩返しの気持ちが120パーセントぐらい。もうピッチに立ったときに無双できるくらいの状態を作りたい。そういう状態でやりたいなと思います。どんな大会になるか分からないですけど、優勝からぶれずにやりきりたいなと思います。

    五郎丸:エベレストの山頂に登って、日本に帰ってくることを期待しています。ありがとうございました。

    リーチ・中村・山中:ありがとうございました。

    フランス大会・1次リーグ(日本時間)

    ▽9/10(日)日本 × チリ(トゥールーズ)
    ▽9/18(月)日本 × イングランド(ニース)
    ▽9/29(金)日本 × サモア(トゥールーズ)
    ▽10/8(日)日本 × アルゼンチン(ナント)

    日本代表の過去2大会の結果

    4人のプロフィール

    ○五郎丸歩(ごろうまる あゆむ)
    現役時代は日本を代表するフルバック。正確なキックが持ち味で、日本代表通算711得点は最多記録。2015年のワールドカップで、強豪・南アフリカからの歴史的勝利に貢献し、大会のベストフィフティーンに選ばれる。プレースキックの際、両手を体の前に合わせる独特な「五郎丸ポーズ」で大きな注目を集めた。福岡市出身

    ○リーチ マイケル
    ポジションはフォワード第3列のフランカー。15歳で来日し、札幌山の手高校や東海大でラグビーに取り組む。ワールドカップは前回大会まで3大会連続でメンバー入りし、2015年、2019年と2大会連続で代表キャプテンを務めた。攻守にわたって体を張ったプレーと、たぐいまれなリーダーシップで日本の躍進に欠かせない存在。ニュージーランド出身。東芝ブレイブルーパス東京所属

    ○中村亮土(なかむら りょうと)
    ポジションはバックスのセンター。帝京大5連覇時のキャプテンで大学時代に日本代表としてテストマッチを経験。フィジカルの強さを生かした強力なタックルと、キックパスを効果的に使った視野の広いプレーが持ち味。ワールドカップ前回大会では、バックスの中心メンバーとして日本のベストエイト進出に貢献した。鹿児島市出身。東京サントリーサンゴリアス所属

    ○山中亮平(やまなか りょうへい)
    ポジションはバックスの最後尾、フルバック。1メートル88センチと体格に恵まれ、高校時代から全国優勝を経験して脚光を浴びる。飛距離のでるキックを持ち味に、判断力にも優れ、もともとは司令塔・スタンドオフとして活躍。ワールドカップ前回大会でフルバックとしての才能を開花させ、日本の躍進に貢献した。大阪市出身。コベルコ神戸スティーラーズ所属

    日本代表