マツダ人事担当者に聞く

電気自動車だけで“脱炭素”は可能ですか?

2021年04月14日
(聞き手:石川将也 堤啓太)

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世界的な脱炭素の動きに、自動運転。自動車メーカーはいま、大きな変革期を迎えています。業界としてCO2を削減することはできるのか、次世代の車の開発はどうなっていくのか。マツダの人事担当者に聞きました。

カーボンニュートラル

学生

よろしくお願いします。1つ目のニュースですが、まずはカーボンニュートラルについて説明して頂けますか?

カーボンニュートラルとは、CO2の排出量と森林などによるCO2の吸収量がバランスすること、つまり、CO2の排出量が実質ゼロになることをいいます。

マツダ
黒西さん

答えてくれたのは、マツダ人事本部の黒西潔さんと小栗栖康正さんです。

なぜこれを選ばれたのでしょうか?

いま地球温暖化が大きな問題になっているからです。CO2排出量の大きい順でいくと、電力会社、工場の操業、3番目が自動車で、排出量を減らしていかなければならない状況です。

気候変動について話し合う国連の会議でパリ協定が結ばれ、今世紀後半のカーボンニュートラル実現のために、排出削減に取り組んでいく必要があります

各業界でCO2の排出量を実質ゼロにしようという動きがあります。

取材はオンラインで行いました。

学生
石川

自動車業界にとっては難しいんじゃないですか?

ではお聞きしますが、カーボンニュートラルというと、自動車業界ではどんなキーワードが出てきますか?

燃料電池車とか電気自動車とか。

マツダ初の電気自動車「MX-30」 国内ではことし1月に発売

業界全体では電気自動車(EV)に流れていきそうですが、車をすべて電気自動車にすれば問題が本当に解決するのかというのが、マツダの問いかけです。

どういうことでしょう?

電気自動車は電気で走るわけですから、走るときには一切CO2を出しません。

でも、電気自動車が走るための電気を火力発電所で発電していればCO2は出ますし、精製したガソリンをタンクローリーで運ぶときもCO2は出ます。

確かに。

だから、タンクに燃料を注いでから走るまでのタンク・ツー・ホイール(Tank to Wheel)という考え方ではなくて、燃料採掘から車両走行までのウェル・ツー・ホイール(Well to Wheel)という考え方でCO2を下げていきたいと考えています。

自動車業界全体がそういう考え方をしているんですか?

はい。業界全体でウェル・ツー・ホイールでのCO2削減がキーワードになりつつあります。

補足しますと、ノルウェーでは電気の90%以上が水力発電で、発電所からCO2がほとんど出ません。そのうえ自国の電気の供給量が必要量の6倍あり、他国にも電気を売っています。

ノルウェー

このような国では、電気自動車が走ってもCO2排出量はほとんどゼロです。

なるほど。

でも、日本では電気のおよそ7割が火力発電所で作られていて、中国も7割ぐらいが火力発電です。

めちゃくちゃCO2出しているんですね。

こうした火力発電の国で電気自動車が走ってCO2の排出量がゼロになることはありません。

いま日本には8000万台くらいの車があって、それを全て電気自動車にすると、全国で原子力発電所ならプラス10基、火力発電所であればプラス20基を作らないといけないと言われています。

マツダ
小栗栖さん

いまより電気が必要になるんですね。

地球温暖化という課題を考えたとき、その国の発電状況などに合わせながら、エンジンの効率を上げてCO2の排出量を減らすか、電気自動車を作って減らすか、2つの方法があると考えています。

車を作る過程でもCO2は出ますよね?

そのとおりです。車を作る、原材料を調達する、車を廃棄してリサイクルするという過程も含めてCO2を減らしていこうという考え方があって、ライフサイクルアセスメントと呼ばれています。

もう少し具体的に説明していただけますか?

ウェル・ツー・ホイールは、燃料の流れだけです。工場で車を作るところや、材料を準備するところから、アセスメントに取り入れていかないと不十分です。

マツダ本社工場

例えば、電気自動車に使われるリチウムイオン電池を作るときには、すごくCO2が出ます。

そこで、車を造るところから最後にリサイクルするところまで含めて考えていこうというのが、ライフサイクルアセスメントです。

カーボンニュートラルの実現のための具体的な取り組みは何かありますか?

私たちはユーグレナさんやファミリーマートさんなどと次世代バイオディーゼル燃料の普及拡大にむけたプロジェクトを推進しています。

使用済食用油と二酸化炭素で育つ小さなミドリムシなどからバイオディーゼル燃料を製造して、自動車などで利用しようというものです。

ミドリムシ!

ミドリムシは5億年前から地球上にいる生物と植物のハイブリッドのようなもので、過酷な状況でも光合成によって酸素を増やすことができます。

燃料を作るためにミドリムシを培養しますが、このときに光合成で大気中の二酸化炭素が吸収されます。

燃料を燃やして走るとCO2は出ますが、作る際の吸収量とバランスがとれればカーボンニュートラルになります。

EVに全部すればいいと思っていましたが、地域や環境によって変えていかないといけないでんですね。

20年後も、世界では8割以上の車がガソリンエンジンだけの車やハイブリット車のように、エンジンを持った車だと予想するリポートもあります。

エンジンの効率をどんどん上げてCO2を減らす開発を続けていきながら、電動化技術も随時導入していきます。

同時に、次世代液体燃料の可能性を追求していきます。

地方創生

続いてのニュースは地方創生ですが、なぜこれを選ばれたんですか?

われわれが、本社が広島県にある企業だからです。

マツダ本社(広島・府中町)

広島は中国地方最大の都市で、広島県の人口は270万人くらいです。マツダの仕事に関わっている人が多くいます。

地方で大きな存在となっている企業として、どのように地域に貢献できるかを考えています。

地方に本社を置く意義はなんですか?

マツダに限ったことではありませんが、自動車メーカーが拠点を構えれば、その周りには、関連会社や飲食店など、色んな会社が増えていきます。

雇用があるから人が集まり、町ができあがり、税金も納められて、さらに発展していきます。

つまり、企業の拠点を地方に置くことによって、町の発展につながっていくと思っています。

本社工場 マツダの国内工場は広島県と山口県に立地 

逆に、企業が地方から離れると、雇用も減って人も減るので、地方都市に本社を置くことは意味があることだと思います。

なるほど。

2019年度のマツダの販売台数は142万台くらいですが、このうち、日本での販売は14%で、残りの86%は海外でした。

海外での販売がはるかに多いですが、製造の6割は広島県と山口県でなんです。それだけ雇用につながっているということです。

地元に支えて頂いているところもすごくあって、共に生きていくというのが一番大事です。

マツダの製造ライン

地方との共生ということですね。

雇用の創出以外の面で、地域に貢献していることはありますか?

広島県三次市では、人口が減って鉄道が廃線になったり、バスの本数が減ったりしている地域があります。

お年寄りがデイサービスや病院に行くための足がなくなってきているので、車でどのように貢献できるかを探る実証実験を行っています。

実証実験が行われた地域の1つ(広島・三次 作木地区)

どういうものですか?

広島県や三次市と連携して、車や予約用のアプリを活用して交通機関の代わりとなるサービスを提供しています。

今後の自動車業界を設計していく車のことをCASE(ケース)と呼びます。Connected=ネットとつながる車、Autonomous=自動運転、Shared=シェアリング、Electric=電動化の頭文字をとっています。

自動車業界の課題である安全と環境に対応していく切り札になっていくとみられていますが、実証実験は、このうちのConnected(コネクテッド)とShared(シェアード)を活用しています。

お年寄りはどうやって車を利用するんですか?

電話やアプリを通じて車とドライバーを予約して、送迎に使ってもらう仕組みです。

実証実験の様子(広島・三次 川西地区)

便利そうですけど、課題はないんですか?

よく利用されるお年寄りのお宅では、電波が届かずアプリが使えないので、今も固定電話で予約してもらっています。

自動運転の車を利用することは考えていないんですか?

先ほどのお年寄りの家に行く道は、センターラインもガードレールもほとんどなく、うねりもある道です。

雪が積もったら、ほとんど道も分からないような状態になります。そういう道を自動運転で迎えに行くのは無理な話です。

実証実験で通った道(広島・三次 作木地区)冬は雪も積もる

自動運転に適したインフラを整備するには、高額な投資が必要で現実的ではありません

このような地域で、どうやって車で貢献できるかを考えていくのが、大事だと思っています。

自動車開発の今後

最後のニュースは自動車開発の今後ですね。

自動車の開発は、設計してから実験を行います。その結果が想定よりよくない場合は、また設計をするという繰り返しです。

このサイクルをできるだけバーチャルの世界で済ませて、実物の実験を最小限に抑えようという開発手法を「モデルベース開発」と呼びます。

「モデル」というのは、エンジンなど一定のかたまりをバーチャルで表現したものと考えてください。それをつないでいくと、最終的には1台の自動車モデルにすることができます。

モデル単位で実験することもできますし、つないでモデルで実験することもできます。

バーチャルで開発するんですか。

バーチャルの設計は、何十年も前から行ってきましたが、いまは新車を開発する際にやらならければいけないことが爆発的に増えています。

あらゆる部品に電子回路が備わり、制御がより緻密にできるようになった反面、開発する際の選択肢が膨大になりました。環境や安全規制も日に日に厳しくなっています。

今までの開発手法では、実物で実験を繰り返すたびに、お金も時間も人員も大きく消費してしまうので、可能なかぎりバーチャルで行おうと考えています。

すごく効率化されているんですね。

モデルベース開発では、リアルな世界で起きている現象やメカニズムを数式で表現しないといけません。それで初めてバーチャルの世界で動かすことができます。

いまエンジニアは、モデルを作る基礎物理や基礎数学の能力が求められる状況になってきています。

なるほど。

現実の事象とほぼ同じような計算式にするところに、企業競争力が出ます

モデルベースで開発したけど実際の実験で全くかけ離れたものになったら意味がないですよね。

だからここをしっかりつくり上げることが、自動車開発にとっていま肝になっています。

エンジンの製造ライン

ユーザーにはどんなメリットがあるんですか?生産コストが下がれば、車も安くなるということですか?

それもありますし、技術のアップデートのタイミングが早くなるので、お客様が商品を購入するタイミングで、技術の鮮度が低いことが少なくなります。

自動車開発の今後というと、自動運転や空飛ぶ車みたいな話を思い浮かべますが、いまはどういう段階にあるんですか?

自動運転はどんなイメージですか?ナビで目的地を押して、ハンドルから手を離すと目的地に着いてしまうと思われているんじゃないですか?

そう思っています。

業界的には2つの考え方があります。ハンドルから手を離すのは機械中心の自動運転です。

私たちはお客様に提供する一番の価値は「走る歓び」だと思っていますので、人間中心の自動運転をやっていこうと考えています

人間中心の・・・

コ・パイロット・コンセプト(Co-Pilot Concept)と呼んでいます。コ・パイロットは、副操縦士という意味です。

お客さまが元気で健康に運転している間は、「走る歓び」を提供します。

でも、自動運転のシステムが常に見守っていて、万が一、運転操作を誤ったり突然、運転できない状態になったりした場合はサポートを始めます

なるほど。

強調しておきたいのは、自動運転は何のためにやるのかという話です。

自動運転は安全に車を走らせるための「手段」なんですが、知らないうちに自動運転の車に乗るという手段が目的化しているような危惧を私は覚えています。

だから私たちは人間中心の自動運転を考えています。2025年に標準装備することを目指して、開発しています。

最後に、求められる人材について教えてください。

目標に向かって粘り強く頑張って努力できる人を求めています。

業界全体が変革期にあり、何か自分の目標、目指すところが無かったら、何もできなくて会社の貢献にもならないし、自分のためにもなりません。

自分の目標、やりがいを持って、どんどん発言できる方がいいのかなと思っています。

就活生へのメッセージはありますか?

あまり行きたくないけど受かったからという理由で、40年その会社で働きますかということを考えてほしいんです。

仕事は苦しいこともあるけども、好きなことだから頑張れるところがあります。

いま大学で勉強していて、好きなことや得意なことってあると思います。それが一生の仕事になったら、一生ハッピーじゃないですか。

自分が入る企業は、企業が決めるのではなく、自分が一生の仕事を選択する。そういう就職活動にしてほしいと思っています。

選ばれるのではなく、選びに行くということですね。

そうです。

ありがとうございます。

編集:小宮理沙 撮影:小野口愛梨

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