教えて先輩! コーラ職人 小林隆英さん

コーラに救われた男

2021年03月18日
(聞き手:田嶋あいか 西澤沙奈)

  • お問い合わせ

やりたいことを探し続けても見つからず悩んでいた広告代理店のサラリーマン。たどり着いた先は・・・、「コーラ作り」でした。なぜ、サラリーマンからコーラ職人?SNSでヒットした秘けつは?学生リポーターが、聞いてきました。

クラフトコーラってなんですか?

学生
西澤

よろしくお願いします。コーラというと、有名なペプシやコカコーラをイメージしますが、クラフトコーラはどう違うのですか?

作り手の顔が見えるってことが「クラフトコーラ」だと思っています。そしてやっぱり原材料ですね。

小林さん

店は工房を併設して、コーラのシロップの製造工程を見せています。

目の前でシロップに炭酸を入れるところをお客さんが見られることも大事にしています。

コーラの素のシロップが透明な容器に。店に入ったお客さんが見られるようにしていました。

学生
田嶋

どれくらいのスパイスを使ってコーラを作っているんですか?

12種類くらいを混ぜ合わせてます。

メニューも1種類じゃなくて、牛乳を入れたホットミルクコーラとか、ゆずや山椒をいれたジャパンエディションというものもあります。

たくさんのスパイスを使ってアレンジするんですね。

取材は、緊急事態宣言が発出される前、去年12月に行いました。

都市伝説サイトにあった謎のレシピ

そもそも、コーラを作ろうと思ったきっかけはなんですか?

釣りとか海外旅行が趣味なので、いろいろ回って飲んでたんですよね。

もともとコーラマニアというか(笑)。アルコールが苦手だったのでよく飲むようになって。

お好きだったんですね。

小林隆英さん

大学は農学部。大学院卒業後、大手広告代理店に就職するも社会人1年目に謎のレシピと出会いコーラ作りをはじめる。2018年7月から東京、青山で手作りコーラの販売を始めSNSなどを通じて人気に。2020年2月、西武新宿線下落合駅近くにクラフトコーラの工房兼店舗を開く。

それで、社会人1年目の時、ネットサーフィンをしてたら、たまたま100年前のコーラのレシピを見つけて。

作ってみたいな!と思ったのがきっかけですね。

当時、スパイスの知識はあったんですか?

農学部出身なのでそういう素養はありました。

あと、祖父が漢方薬職人だったんですよ。なので、バックグラウンドはありましたね。

100年前のレシピをもとに作られた「魔法のシロップ」と名付けられた商品。炭酸水で割って飲むタイプ。

仕事とコーラ作り、どう両立させていたんですか?

基本的に土日は全部コーラの試作に使いました。

1週間働き詰めですね。

ただ、コーラ作りは、趣味って感じだったので、辛くはなかったですね。

2年半くらい試行錯誤を繰り返して、自分が納得できるものができました。

2年半!

それを、友達に飲んでもらったら、すごく喜ばれたんです。

喜んだだけじゃなくて「お金を出してでも買いたい」って言われたんですよね。

それはうれしいですね。

その時に、お金というのは、人を喜ばせる対価でその等価交換を初めてはっきり実感したんです。

自分は、お金をもらうといったら、給与明細にある数字の羅列でしかなかったので、すごく手ごたえを感じて…。

そこは、結構、分岐点になったって感じですね。

当時はまだ広告代理店に勤めながら、コーラは副業でやっていたのですか?

副業です。青山のファーマーズマーケットで売り始めました。

手ごたえはどうでしたか?

店に、行列ができましたし、メディアに取り上げていただいたので手ごたえはありました。

それこそNHKさんのサラメシにも取り上げていただきました。

コーラの名前の由来になっているコーラの実。原産地であるアフリカのガーナに行き現地を見て、輸入することに決めた。

今やらないと手遅れになる

そのまま副業ではなく、コーラの道に進むことに決めたのは勝算があったからですか?

勝算というか、コーラの活動にすべての時間とリソースを注がないと間に合わなくなりました。

広告代理店の仕事は、自分じゃなくてもできる仕事だなと。

自分をリソースとしてみた時、広告代理店で働いているより、伊良コーラの代表としての方が社会に対する貢献力が大きいと考えました。

不安はなかったですか?

不安ではあったんですけど、やっぱり今やらないと

スピード感が大事というか手遅れになると思ったので、踏み切りました。

決断力がすごいです。

でも、どうして(新宿や渋谷のような繁華街ではない)下落合に店を開こうと思ったんですか?

ここが祖父の漢方工房の跡地だったんです。

ものづくりの精神を引き継ぐっていう意味で、この場所で(店を)開きたいなと思ったんです。

なるほど。

祖父、伊東良太郎さんの工房だった「伊良葯工」。調剤室という名前は今、調合室に。

コーラづくりは、漢方の調合に近い部分があるんですよ。

スパイスは生薬に近いし、材料を配合するのも。根っこは東洋の考え方とすごくつながっているなと思っています。

店頭には、スパイスとともに祖父が使っていた生薬も一緒に飾られている。

私の友達が伊良コーラをSNSであげていました。やっぱり口コミから広がってる感じですか?

基本的にはそうかなと思いますね。

それで有名になっていくのはすごいですよね。

いや、すべてのブランドがそうだと思います。

コカコーラとかペプシコーラも街の薬局で飲まれていたものが、だんだん広がっていったので。

1つのブランドが大きくなっていく過程をあまり目にすることがないと思うんですけど、そういう盛り上がりが今、伊良コーラに起きているのかなって思いますね。

自分が考えてるコンセプトをしっかり人に伝えるには、どうしたらいいのですか?

広告ではよく言われていることだと思うんですけど、いわゆるキャッチコピーとデザインだと思いますね。

あとは、どういったところを工夫されましたか?

例えば商品を例に言うと、スパイスをちゃんと記載したりとか、あとは製造者のサインを入れたりとか。

確かに。作り手の顔が想像できる。

日本っぽい感じ。

今後、世界で売っていくっていう意味で日本の要素も入れたい、そういうとこですね。

この商品、一見、コーラに見えないですね。パッケージもご自身が考えたんですか?

方向性とか要素、クリエイティブディレクションは自分がやります。

すごくおしゃれです。

店頭では、このパウチでコーラが提供される。右側は、ミルクが入ったバージョン。

珍しいと思ったのが、パウチ。

こういう形にしようって思ったのも小林さんの発想なんですか?

はい、そうですね。単純にこの方が面白いなって思ったので。

伊良コーラのロゴ。カワセミをモチーフにしている。

あと、すごくかわいいロゴだと思ったんですけど。

これはカワセミです。昔は、店の前の神田川沿いにカワセミがいたというのもあります。

鳥なのに水に飛び込むということで、常識とか既成概念を壊すという思いを込めて、カワセミを選びました。

アイデアはどう生まれる?

アイデアを生み出す秘けつはなんですか?

アイデアの種が絶対あるのでそれを探しに行くようにしていますね。

アイデアの種?それはどういうところから拾うんですか?

海外を旅したり、自然と触れ合ったり。自然の中にもいろんなアイデアの種が埋まってます。

あとは、昔の資料を見るとか。自分の中に見つけた種の組み合わせがストックされていきます。

祖父の遺品を整理していた際に見つけたノート。漢方薬の調合がメモされていた。

それが、何か考えたときにポンと浮かんでくるみたいなのが、たぶんあると思っています。

小林さんにとってコーラとは、どんな存在ですか?

2つあります。まずは、これです。「自分を救ってくれたもの」

僕はスポーツが得意なわけでも、音楽が得意なわけでもない。

何をやっても結果が出ない。会社に入ってもそうでした。

そうだったんですか。

一方では、いろんなことをインプット、考えることがすごく好きでした。

でも、インプットばかりで、熱中できて打ち込めるものがなくて社会にアウトプットできていない状態がすごく嫌で辛かったんです。

そんな自分を、コーラが救ってくれたんです。

自分が今まで蓄積してきたものをコーラっていう商品を通して、世の中に影響を与えられるようになりました。

今までの人生がすごく詰め込まれてますね。

店の前には、桜の木が並ぶ遊歩道がある。小林さんが「コーラ小道」と名付けた。

もう1つは、自分のインプットしてきたものでコーラという商品をつくり、世界に挑戦していく武器になったことです。

自分のインプットをアウトプットするための武器ってことですか?

というよりも、日本が世界に挑戦するための武器ですね。

日本の魅力、いろんな日本の強みを全部詰め込んで世界に挑戦していきたいと思ってます。

そういう意味でやっぱりすごく強い武器です。

世界に挑戦ですか?

学生時代にニューヨークにいたこともあったんですけど、何もできなくて。

そこのエネルギーに、ただただ圧倒されるだけだったんです。

でも今は、コーラという武器を得たのでニューヨークにリベンジしたいなと思います。

店のオープン以降も、コーラの味は、変わり続けて。

そういう経緯があるんですね…

やっぱりコーラってアメリカで生まれたものなので。

日本で生まれ変わったコーラでアメリカに挑戦するっていうのが、自分の中で意味があるなと思います。

自分に向いている仕事探しって?

最後に就活生へのメッセージをお願いしたいのですが。まず小林さんにとって仕事とはなんですか。

やっぱり“自分がいちばん向いている仕事を探せる”と自分も楽しい

それを探すことこそが、人生において大切な事なんだと思います。

働くっていう意味では、会社員でも会社の経営でも同じっていうのがこれで説明できますね。

自分に向いている仕事を見つけるための秘けつはありますか?

いろんな人に話を聞いて、ちょっと外から自分を見て、自分がワクワクするところを探す。

テクニック論でいうと、本屋に入った時、いちばんワクワクするコーナーっていうのは、向いているものに近いと思います。

なるほど!面白かったです。ありがとうございました。

編集 永楽真依子

カメラ 堤啓太

お話を聞きたい先輩を募集します

詳しく知りたいテーマを募集