2021年03月26日
(聞き手:白賀エチエンヌ 堤啓太)
東日本大震災の発生から10年がたちました。暮らしを再建する中で活用されたのが「保険」。損保ジャパンの人事担当者に就活生が損害保険のそもそもの仕組みから、果たす役割までじっくり聞きました。
保険金 1兆3000億円
よろしくお願いします。
注目のニュースとして「東日本大震災から10年」、こちらを挙げた理由を教えてください。
10年前の未曾有の大災害は世の中にとっても、保険業界に身を置く者にとっても本当に悲痛な体験になったと思っています。
この大震災を決して忘れてはいけないし、風化させてもいけないと思います。
はい。
東日本大震災の際には、どのくらいの規模で保険が使われたんですか。
損害保険業界の合計で、80万件を超えるお支払い件数、お支払いした保険金は1兆3000億円を超えます。(86万件、1兆3270億円)
1兆3000億円ですか。
すごい金額ですよね、想像がつかない。
熊本地震の時が約20万件で、保険金としては3800憶円強でした。
東日本大震災はそれの3倍ぐらい。
規模がすごく大きかったっていうことが分かりますね。
鉛筆からロケットまで
そもそもですが、損害保険ってどういう仕組みで成り立っているものなんですか。
保険はひと言で言うと「助けあい」から生まれています。
多くの人がお金を出しあって、万が一が起こった時にそのお金で助け合うという仕組み、これが保険です。
なるほど。
具体的には、私たちの会社に保険の契約者である個人や法人のお客様から保険料としてお金をお預かりします。
例えば100人の方から保険料をお預かりして、事故に遭う方が100人のうち10人だったら、100人からいただいた保険料をベースに実際に困っている10人に対して保険金としてお支払いします。
保険料が預かるお金で、万が一の時に支払うお金が保険金ということですね。
そのとおりです。
保険ビジネスとしてはその集めた保険料とお渡しする保険金で余ったものが、極端に言うと会社の利益になるっていうことですか。
そうですね。会社を運営する費用とかも含まれて保険料というのは設定されています。
なるほど。
ちなみに、あらゆるものに保険がかかるんですよ。
よく「鉛筆からロケットまで」って言っています。
鉛筆からロケットまで?
例えば鉛筆を使っていて、作りが弱くて折れちゃってそれが誰かの目に刺さったとしたら、これは賠償保険の対象になります。
で、例えばロケットを打ち上げたときにロケットが落ちちゃったとすると、うん百億うん千億の損害がでますよね。そんな時のための保険があったりもします。
リスクがあれば、必ずそこに保険が出てくるのかなって思っています。
ほんとにモノがあるかぎり保険が存在しうるっていうことなんですね。
大地震に備えて
東日本大震災の時はどういった保険が使われたんですか。
地震保険って皆さんご存じですか。
名前は聞いたことあります。
地震保険に入ってないと、津波被害も地震で家屋が倒壊した被害も補償されないんです。
この地震保険っていうのは原則、火災保険とセットで入るものです。
火災保険は例えば家が火事や落雷とかで被害があったときに保険金をお支払いする保険ですね。
けれど、セットにすると保険料が高くなるので入らないっていう選択もできるにはできるんです。
入ってなかったら、津波とかの被害の補償は受けられなかったんですね。
そうなんです。
今は当社の火災保険にご加入のお客様のうち、約7割が地震保険にご加入いただいています。
災害に備えるっていう意識が広がったんですね。
はい。でも、まだ残りの3割の方は加入していないということなんです。
もしも首都圏直下地震とか南海トラフ地震が来た時、その3割の方をお守りできないというのは本当に心配です。
その3割の方に保険に加入しませんかって提案をするのもわれわれの仕事の1つです。
大切な仕事ですよね。
想定外を想定内に
私は東日本震災が起きた時、宮城県の気仙沼市に災害対策本部が立ち上がったので、そこに応援に行きました。
大規模災害の時はこちら側からお客さまのところに行って、「保険金のお支払いができるので手続きをしましょう」って、そんなことをやるんですね。
はい。
けど、気仙沼って津波で流されたりとか、火災が広がって焼け焦げて真っ黒になっていたりして、そこに行っても、お客さまがいらっしゃらないんです。
どこにいるかというと、避難所にいらっしゃるんですね。
そうか・・・。
避難所に行って、お客様を探して手続きをしている時に、保険金を受け取れて当たり前なんですけれども、本当に感謝していただけるんです。
「わざわざ今のところまで来てくれて、ありがとう」とか、目を潤ませながら言われたこともあります。
やっぱりそれを経験した時に、お客さまに涙を流して喜ばれるような仕事ってそうそうないだろうと感じました。
たしかに、涙を流して感謝される仕事ってなかなかないですよね。
当時「想定外」っていうことばが何度も繰り返し使われたと思います。
地震の規模も想定外だし、津波の被害も想定外、福島第一原発の事故も想定外だと。
今も自然災害で「想定外」が多発している状況が続いていますが、それを「想定外」じゃなくて「想定内」という状況にしなきゃいけないと思っています。
2つ目のニュースは「自動運転」。なぜ選んだんですか。
私たちの会社は自動車保険が収益に占める割合が大きく、車をめぐる動きには非常に気をつけています。
今は車をめぐる変化がすさまじく、「100年に1度の変化の時代」と言われています。
車の所有者は減っていって、「所有」から「利用」に変わっているとか、ガソリン車に規制をかけるかもしれないというニュースが出たりしています。
その変化の時代に、自動車保険の状況ってどうなんですか。
自動車保険の加入は大きく減ってはいないのかなと思っています。
ただ、これからはそうも言っていられないと思っていて、車の保有台数の予測では2030年には100万台以上減るという予測もあるんです。
それに伴って自動車保険の保険料収入も今後少しずつ減っていくのではないかと考えています。
そういった中で自動運転と保険ってどういうふうに関わってくるんですか。
自動運転って究極は全部機械が運転して、事故が起こらないっていうふうになってくるんですね。
事故が起こらないんだったら、自動車保険が要らない社会が来るかもしれないですよね。
でも、その時に例えば車が誤作動したとか、ハッキングされて事故にあいましたとか、そういうリスクってあるはずなんです。
リスクがあるってことは必ずそこに保険が生まれるので、今われわれはどういったリスクがあって、どんな保険が必要なのかっていうのを考えているところです。
具体的にはどんなものを開発しているんですか。
他社と協業して自動運転の実証実験に参加しているのですが、自動運転特有の責任の所在が分からないような事故が起きた時でも利用できる保険を作っています。
自動運転車の実証実験
自動運転技術を持つ「ティアフォー」や、三次元地図データを持つ「アイサンテクノロジー」などと実施。損保ジャパンは実験用の自動車保険の開発や、危険な場面で操作の介入などを遠隔で行う施設の運営などを行っている。
なるほど。
さらに、どんな場所で事故が起こっているかというデータを持っているのが保険会社です。
すでにあるリアルな事故のデータと、地図の会社とか通信会社とかほかの業界の強みと掛け合わせて、自動運転の開発に役立てることもしています。
おもしろいですね!
最後にガラッと毛色が変わりますが、「鬼滅の刃 大ヒット」ということですが。
私、映画を2回見たんですよ。漫画もぜんぶ読んでしまいました。
そうなんですね。
主人公がとても優しくてですね、家族や仲間との絆っていうのがこの漫画の大きなテーマかなと思っていて。
仕事をしているとつらいこともあるのですが、チームでやることの意義、そこにある絆みたいなところが私たちのビジネスにも共通するなと。
お仕事を通して、絆を実感したことってありますか。
営業部門で医療機関などを担当していた時、担当した団体でアンケートをとったら、実は新しいリスクがあると分かったんです。
けれど、それに対して保険が追いついていなかった。
なので私たちは医療関係者をサポートしたい、何か役に立ちたいという思いで、新しい保険・サービスを開発するプロジェクトを立ち上げたんです。
で、実はこのプロジェクト10年がかりだったんですよ。
10年ですか。
もともと見えていないリスクだったので、それを拾いにいくところから始めて。
プロジェクトを成し遂げるためにさまざまな部門のノウハウや力を借りながらやっていました。
さらに、10年かかると社内の担当がたくさん替わっているんですね。
ですので、一番初めにそのアイデアを思い付いた人から「これは絶対に必要だ」という強い志がずーっとつながっていって、助け合いながら成し遂げたなと思っています。
炭次郎がいる鬼殺隊が世のため人のために戦っているのと同じなんですね
そう。鬼と戦ってぼろぼろになっても、そのたびに仲間に助けてもらいながら命をつないでいく。
炭次郎がそうであったように、新しい環境や人との出会いは、自分を強くしたり成長させたりします。
就活生のみなさんには、コロナ禍という未知な状況の中でも、こうしたことを意識して前向きに頑張ってほしいです。
本日はありがとうございました。
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