追跡 記者のノートからサニーレタスの水で滑ってけが 賠償2100万円~買い物中の身近なリスク

2021年8月25日社会

買い物をしていてうっかり転びそうになった。そんな経験ありませんか?

スーパーマーケットで転倒しけがをした男性が訴えた裁判で、店側に2100万円を超える賠償が命じられました。

事故の原因と考えられるのがサニーレタスについた水。

店舗や商業施設では、床の水濡れや落ちた野菜くずなどによる転倒事故が、報告されているだけでも平均すると年間約90件起きています。中には大けがをするケースもあり、ひとごとではありません。

買い物中に転んでしまったら、責任はどこにあるのでしょう?

(社会部記者 山下茂美)

2100万円余の賠償命令 原因はサニーレタスの水

買い物帰りの山下記者

裁判の取材を担当している私には1歳の娘がいます。

仕事帰りや休日に訪れるスーパーはとても身近な存在。

娘を抱っこしたまま訪れることも多いため、足元や前方が見えづらく、濡れた床で足を滑らせそうになったり、陳列された商品にぶつかりそうになったりするなど、ヒヤッとすることもしばしばです。

そんな私にとって、気になる判決がことし7月28日に東京地方裁判所で出されました。

スーパーでの転倒事故で、店側に2100万円を超える高額の賠償が命じられたのです。

東京地方裁判所

訴えを起こしたのは、都内に住む60代の男性です。

5年前、神奈川県内のスーパーで買い物をしていたときに野菜売り場で転び、腕を骨折する大けがをしました。

男性は、「転んだのは床が濡れていたからだ」と主張して、店側に1億円あまりの賠償を求めました。

店側は、「床が濡れていたとは考えにくい」と反論し、争っていました。

判決で裁判所が「店に責任がある」と判断した最大の原因は、サニーレタス。

男性が転んだのは、サニーレタスの特設売り場の近くだったのです。

判決によると、店ではサニーレタスをあらかじめ水につけてから販売していました。

そのサニーレタスを買い物客が台から取り出すときに水が垂れることが繰り返され、床が濡れたと考えられるということです。

そのうえで、開店から事故が起きる午後1時すぎまでの間に店がサニーレタスから垂れる水を清掃していた形跡はなく、床が濡れる可能性をわかっていたのに、店は転倒防止の対応を取っていなかったと判断しました。

2100万円余という高額の賠償額は、男性が1人でバームクーヘン店を営んでいて、転倒によって腕に障害が残り仕事ができなくなったという主張が認められたためです。慰謝料のほか、収入への影響などが考慮されました。判決はその後、確定しています。

店内に潜む転倒の危険性

そもそもスーパーでの転倒事故はよくあることなのでしょうか。

調べてみると、店舗や商業施設での転倒事故はたくさん報告されています。
 
消費者庁が平成28年12月にまとめたデータによると、商業施設やスーパーなどで起きた転倒事故は約7年間で602件。

このうち半数以上の350件は、水濡れや落下物で足を滑らせたことが原因でした。

店舗での転倒事故(平成21年9月~平成28年10月末 消費者庁まとめ)

最も多い原因は、「床の水濡れ」で123件(35%)。
鮮魚コーナー、冷凍ケース、製氷機、ウォーターサービスの周辺で、こぼれた水や氷で足を滑らせた事例が多くあるということです。

その次が「雨」で、濡れた出入り口のマットから床に移る際などの事故が101件(29%)。

そして、3番目に多いのが「落下物」で67件(19%)。
野菜くずや果物のほか、なかには値札などを踏んで足を滑らせたケースも。

買い物中に危険な場所(消費者庁の資料)

「鮮魚コーナー近くに流れていた水で足を滑らせ救急車で搬送」
「雨の日にコンビニエンスストア入り口の敷物が滑って転倒し骨折した」など、大けがをするケースも報告されているということです。

野菜や鮮魚売り場だけでなく、駐車場やトイレなど至るところに転倒のリスクがあるのです。

今度はカボチャの天ぷら

さらに、意外な場所に転倒の危険が潜んでいることもあります。

サニーレタスの判決から1週間後。
またしてもスーパーでの転倒をめぐる裁判の判決がありました。

今度は「レジ前に落ちていた天ぷら」による事故です。

都内に住む30代の男性は、3年前、都内のスーパーで買い物中に転倒しけがをしたとして、店側に140万円の賠償を求めました。
 
判決によると、このスーパーでは、惣菜売り場で大皿に盛られた天ぷらなどを客がトングで取ってパックに詰め、レジに持って行く方法が取られていました。

精算に向かった男性は、レジ前の通路に落ちていたカボチャの天ぷらを踏んで足を滑らせ、右膝を床に打ちつけてけがをしたということです。

この裁判で、1審判決(東京地方裁判所・2020年)は、店にも責任があると認めて約57万円の賠償を命じましたが、2審の東京高等裁判所の判決は。

東京高等裁判所の判決(2021年8月4日)

「本件天ぷらは縦横それぞれ13㎝、10㎝程度と比較的大きく発見しやすいものだが、落下物があるとの苦情等はなかったことからすると、⻑時間放置されていたとはいえない。
レジ前通路に本件天ぷらのような商品を客が落とすことは通常想定しがたいことなどから、店が特段の措置を講じる法的義務があったとは認められない」

こう指摘して男性の訴えを全面的に退け、逆転敗訴となりました。(男性側が上告中)

異なる判断の理由は?

サニーレタスと天ぷら。

なぜ2つの裁判はまったく異なる結論になったのでしょうか。

元裁判官で東京都立大学の山田俊雄教授は、「ポイントは、店側が客の転倒事故を想定できたかどうか」と分析します。

山田俊雄教授(元裁判官)

東京都立大学法科大学院 山田俊雄教授
「サニーレタスの判決は、水が垂れて床が濡れる可能性を認識していたのに転倒を防ぐ対策をしていなかったことから店側の責任を認めました。

一方、天ぷらの判決は、レジ前の通路に客が商品を落とすことは通常想定しがたいことを前提に、店側が事故を想定できたとはいえず対策を取る義務はなかったと判断したと考えられます」

損害保険会社の弁護士として転倒事故の裁判を複数経験している高田淳弁護士は「裁判になると、たとえ買い物客側が勝ったとしても客側にも落ち度があると指摘されることがあるので、足元には気をつけてほしい」と呼びかけます。

高田淳弁護士
「店側の責任が認められた場合でも、買い物客側にも責任があると指摘されるケースは多くあります。被害者にも責任があると判断される要素として、足元に注意していなかったということはよく挙げられます。

サニーレタスの判決でも『男性が足元に注意を払っていれば事故を防ぐことができた』として、男性にも2割の責任があったと判断されました。

転んでけがをしてしまったら、裁判をしてお金をもらっても身体が元通りになるとは限りません。足元に注意をすることが一番大切でしょう」

事故を防ぐには

ひとごとではない店内での転倒事故。

全国55社(2463店舗)のスーパーマーケットが加盟する「オール日本スーパーマーケット協会」によりますと、研修会で転倒事故などの事例を共有し、定期的な店内の点検や、濡れやすい売り場にはマットを敷くことなど、具体的な対策を周知しています。

さらに客に対しては、もし、水濡れや野菜くずなどの落下物に気づいたらすぐに従業員に知らせてほしいと呼び掛けています。

そして、もし店内で転んでしまったら「気兼ねなく店側に声をかけてほしい」ということです。

高田弁護士によりますと店内での転倒事故で裁判にまでなるケースはまれだということですが、相次いだ判決に、身近な場所に事故のリスクが潜んでいることに改めて気づかされました。

夕飯の支度に気が焦り、ついつい急いでしまいがちな毎日の買い物。
私も足元には気をつけたいと思います。

  • 社会部記者(司法担当) 山下茂美 平成21年入局 松山局を経て平成27年から社会部。
    高齢者や子どもに関する問題を取材し、現在は裁判を担当。
    最近の悩みは子育てによる腰痛

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