安心 キケンのない社会をつくろうキャンプでテント あなたはどこに張りますか 

2023年4月20日事故

これからの大型連休、そして夏休み。「キャンプに行きたい」という人も多いのではないでしょうか。

そんな中、神奈川県のキャンプ場で痛ましい事故が起きました。
木が根元から倒れてテントに直撃し、中にいた女性が亡くなったのです。

雨や日差しを遮ってくれる木ですが、思わぬ危険も潜んでいます。

キャンプをするとき、危険な木をどう見分けるか。
どこにテントを張ればいいのでしょうか。
取材しました。
(横浜局記者 小林 奈央/首都圏局記者 桑原阿希)

突然、高さ18メートルの木が…

4月16日の午前3時すぎ、相模原市緑区の「新戸キャンプ場」で、高さおよそ18メートル、太さ70センチほどの木が根元から倒れました。

木は近くに張られていたテントを直撃。

中で寝ていた東京・武蔵野市の29歳の会社員の女性が死亡し、31歳の夫も胸の骨を折るなどの大けがをしました。

警察によりますと、夫婦は前日の午前10時ごろから友人とキャンプ場を訪れていました。
キャンプ場から指定された区域内にテントを張っていました。

警察は、木が根元から倒れていることから、枯れたり根腐れを起こしたりしていた可能性があるとみて、木の管理状況についてキャンプ場側から話を聞いて調べています。

木の近くにテント 専門家は

楽しいはずのキャンプ場で起きてはならない痛ましい事故。SNSでは様々な反応がみられました。

木のそばにテントを張る感覚わかる気がするし、その木がまさか倒れてくるなんて思わない

「キャンプでテント」と検索して出てくるのはだいたい木が横か後ろに立っている画像だよね

枯れている木だったのかな。根腐れとか

日本オートキャンプ協会の調査によりますと、1年に1回以上、キャンプをした人は、2019年までは増加傾向で860万人でした。
その後、新型コロナの影響で落ち込みましたが、2021年になると、750万人まで回復しています。

身近なレジャーとなっているキャンプ。
ことしの大型連休もキャンプ場には多くの人出が見込まれます。

事故を防ぐため、テントを張る際にどのような点に注意すればいいのか、日本キャンプ協会に取材しました。

記者

今回、倒木による事故が起きましたが、雨や日差しを遮る木の近くにテントを張ったことがあるという方も多いようです

一概に木の下にテントを張ってはいけない、とはいえません。木の近くで得られるメリットもあります。一方でリスクもあります。それぞれを理解することが大切です

事務局長

協会がメリットとリスクとしてあげたのが以下です。

木の近くにテントを張るメリット
・強い日差しを遮ることができる、熱中症リスクを下げられる
・雨や風よけになる

木の近くにテントを張るリスク
・枯れた木や腐った木の場合、倒木のおそれがある
・雷のおそれがある場合、近すぎると落雷の危険がある

メリットも捨てがたいですし、リスクも命に関わる怖いものですね。ただ、これから暑くなってくると木の近くにテントを張りたくなる人も多いのではないでしょうか

はい。熱中症対策も大事ですので木の近くがいいという考えもわかります。そんなときでも、木が腐っていたり、枯れていたりする木の近くは避けることが大事です。リスクを忘れないでほしいと思います

危ない木の見分け方は

では、テントを張るとき倒木のおそれがある木をどう見分け、避ければいいのか。

樹木の専門家「樹木医」の和田博幸さんに話を聞きました。

樹木医 和田博幸さん

枯れた木や腐った木を見分けるにはどうすればいいのでしょうか

記者
樹木医
和田さん

枯れているかどうかの見極めで大事なのは葉がついているかどうかです。これからは新緑の時期。落葉樹で葉がついていなければその木は枯れているおそれがある。つまり危険な木ということになります

葉のほかに参考になるものはありますか

枯れてしばらく時間がたっているような木だと枝先が折れているところが見られます。枝がすーっと伸びた先が細らず、途中で折れている木は、枯れているおそれがあるとみていいです

根腐れを起こしているような木はどのように見分けますか

はい。注目はキノコです。根を腐らせるキノコがあるんですね。キノコがある場合はその可能性がある。全部が全部危ないわけではないですが、「ベッコウタケ」など木の根の組織を腐らせるキノコが根元に近い部分に生えている場合は要注意です

キノコ以外にもポイントがあれば教えてください

木が腐ってくると木の勢いが落ちてきます。大木では揺らすのは難しい場合が多いですが、簡単に揺れる木も腐っている可能性があります

樹木医 和田博幸さん
「キャンプ場の管理者は年に一度は点検し具合が悪そうな木は診断することが大切です。人が集まる場所では特に木の点検を行い、状況を確認してほしいです」

キャンプシーズン前に各地で対応

事故を受けて各地のキャンプ場では点検が行われています。このうち相模原市は、事故翌日の4月17日、市内に20か所あるキャンプ場のうち、市営の2か所で緊急点検を行いました。

このうち「望地弁天キャンプ場」では、市の職員や管理者、それに造園業者が、テントを張れるエリアにある松やサクラの木の幹の状態を鉄の棒を使って確認しました。

幹に穴が空きやすくなっている場合などは倒木のおそれがありますが、市によりますとこうした木は見つからなかったということです。

このほかにも各地で点検が進められています。

倒木以外にもリスクはある

日本キャンプ協会では、倒木のほかにもテントを張るうえでリスクのある場所や状況があることを知ってほしいと話しています。

落雷のおそれ
前提として、雷が鳴っているときや荒天が予想されるときはテントを張らずに安全な場所に退避する。テントを張ったあとでも雷のおそれが出てきた場合、テントから離れて、いったん近くの小屋や車で待機するようにしてください。

そのうえで、普段からテントを張るときは以下のような点を押さえると雷のリスクを抑えられるといいます。

雷のリスクを減らすために 望ましい木とテントの位置関係
木の幹、枝、葉から最低2メートル以上離れた場所(近すぎると危険=側撃雷のおそれ)」かつ「木の頂点を地面から見上げる角度が45度以上になる場所(遠すぎても危険=直撃雷のおそれ)」にテントを張る。
※周りの環境によって条件は異なり、あくまでも一つの目安だとしています。

風が吹き抜ける場所
周りに風を遮るものがなく、吹きさらしになる場所では強い風が吹きやすく、テントごと飛ばされる危険があります。
夜間に強い風が吹くとテントがパタパタと音を立てるため、寝られず、睡眠不足から体調を崩すことにもなりかねません。

崖の上
崖は地震などでいつ崩れ落ちるか分からないので、テントごと落下する危険があります。また、夜間、足を踏み外して崖から転落する危険もあります。

崖の下
崖は地震などでいつ崩れ落ちるか分からないので、テントが土砂で押しつぶされてしまう危険があります。また、雨や風、振動によって、落石の危険があります。

河原や中州
河原や中州は晴れているときは陸のように見えますが、いったん雨が降ると増水し、川底になるためテントごと流される危険があります。
下流で雨が降っていなくても、上流で雨が降っている場合は、その後、水かさが急に高くなる危険もあり、注意が必要です。

日本キャンプ協会 依田智義 事務局長
「キャンプは自然の中なのですべてが安全ではなく、何が起こるか常に利用者も管理者も注意していないといけません。キャンプ場の管理者は自分たちのキャンプ場の樹木をチェック・点検して、危険がないように定期的にチェックしていく中で倒れそう木があったら伐採しておかないと安全を守れません。
また、自然の中では予想しないことが起こることもあると思うので利用者も周りを観察して安全と思うところにテントを張ることが大切です。雨や風など天候をチェックするなど経験を重ねていくと危険を予測できるようになっていきます。安全を確保しながらキャンプを楽しんでもらいたいです」

  • 横浜放送局記者 小林 奈央 2022年入局
    警察担当として事件事故の現場取材にあたる日々

  • 首都圏局記者 桑原阿希  2015年入局
    多摩地域を担当
    去年9月に初めてキャンプ

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