2024年3月7日
北朝鮮 朝鮮半島

北朝鮮ミサイル なぜ発射?「多様化」のねらいは【3月7日版】

2023年12月19日、北朝鮮はICBM=大陸間弾道ミサイル級の「火星18型」の発射訓練を前日に行ったと発表しました。
北朝鮮は、これまで固体燃料式の「火星18型」の発射実験を行ったことはありましたが、訓練として行ったのは今回が初めてです。

2023年に27回弾道ミサイルなどを発射した北朝鮮。2024年に入ってからも、異例の頻度で巡航ミサイルの発射を繰り返しています。今後もミサイルの発射を繰り返すのか、北朝鮮の狙いなどについて詳しく解説します。

(国際部記者 金知英)

ICBM級「火星18型」初めての発射訓練

防衛省は、2023年12月18日午前8時半ごろ、北朝鮮からICBM級の弾道ミサイル1発が発射されたと発表。ミサイルは発射から1時間13分後の午前9時37分ごろ、北海道の奥尻島の北西およそ250キロの日本のEEZ=排他的経済水域の外側の日本海に落下したと推定されています。

飛行距離はおよそ1000キロ、最高高度はおよそ6000キロを超えると推定されていて、通常より角度をつけて高く打ち上げる「ロフテッド軌道」で発射されたとみられています。

一方、北朝鮮は翌日の19日、国営メディアの報道を通じて、キム・ジョンウン(金正恩)総書記の立ち会いのもと、前日に「火星18型」の発射訓練が行われたと伝えました。

「火星18型」初の発射訓練(2023年12月18日)

公開された映像からは、「火星18型」を搭載した迷彩柄の片側9輪の移動式発射台がトンネルのような場所を移動し、田畑に囲まれた道で垂直に立ち上げられ、ガスなどの圧力によって射出されたあと空中で点火する「コールド・ローンチ」と呼ばれる技術を使って発射されたのがわかります。

今回の発射のねらいとは?

今回の発射のねらいについて、北朝鮮情勢に詳しい南山大学の平岩俊司教授は「2023年12月に開いた朝鮮労働党の中央委員会総会で、これまでの成果として軍事偵察衛星と『火星18型』の成功をアピールしたかったからではないか」との見方を示しました。

北朝鮮情勢に詳しい 南山大学 平岩俊司教授

実際に朝鮮労働党の機関紙「労働新聞」では、30日までの5日間、開催された党の中央委員会総会で「火星18型」の発射実験や訓練の成功について触れ、「国の防衛力の重要構成部分であり、超強力な戦争抑止力になる核兵器発展をさらに進めるためのものだ」とした上で、「訓練の成功により信頼性と優越性を検証でき、展望的な戦略武力建設の方向を確定させた」と伝えています。

朝鮮労働党の中央委員会総会の開催を伝える記事

また、11月に初めての成功を発表した軍事偵察衛星の打ち上げについても、「戦略的な力を新しい段階に引き上げた」としてたたえました。

火星18型はどう違う?

「火星18型」は、2023年2月の軍の創設75年にあわせて開かれた軍事パレードで初めて公開されました。

軍事パレードで公開された「火星18型」とみられるミサイル(2023年2月)

その2か月後の4月。ピョンヤン付近から日本海に向けて発射されたICBM級の弾道ミサイル1発について、北朝鮮は発射したのは「火星18型」で初めての発射実験に成功したと発表。その際、「戦争抑止力の使命を遂行する戦略兵器の主力手段」としての性能や信頼性が確認されたと主張しました。

北朝鮮が「初めて成功」と伝えた「火星18型」の発射実験(2023年4月)

その後、7月にピョンヤン付近から2回目の発射実験を実施した際には、高度はおよそ6650キロ、飛行時間はおよそ1時間15分に達し、いずれも「新記録」だと強調しました。

高度などで「新記録」だったとする「火星18型」の2回目の発射実験(2023年7月)

東アジアの安全保障に詳しい東京大学先端科学技術研究センターの山口亮特任助教は、注目すべき点は「火星18型」が、固体燃料式であることと「訓練」として発射したことだと指摘します。

東京大学先端科学技術研究センター 山口亮 特任助教

山口特任助教
「発射直前に燃料を注入しなければならない液体燃料式と比べて、固体燃料式は燃料を入れた状態で長く保管することができる。そのため、即時に発射することができるようになり、非常に短い時間で奇襲攻撃を行えるようになる。その場合、日米韓としては探知が難しくなるので、北朝鮮にとっては非常に有効な兵器だと位置づけているものでもある」

「火星18型」の発射訓練に立ち会うキム・ジョンウン(金正恩)総書記

「これまでの発射実験でおそらく満足のいく結果が得られて、開発は非常に順調に進んできたということを意味している。これはこれまでのミサイルに比べても早いほうで、訓練だということはすでに実戦配備されていることを意味し、今後、量産に向けて進めているところだとみられる」

2023年振り返って 兵器の「多様化」

北朝鮮が2021年に打ち出した「国防5か年計画」。韓国軍の発表などをまとめると北朝鮮は2022年に過去最多の37回の弾道ミサイルなどの発射を行ったのに対し、2023年は27回にわたって発射を繰り返しています。

回数としては、前の年より少なくなっているものの、山口特任助教は発射した種類に大きな意味があると指摘しています。

山口特任助教
「『国防5か年計画』の折り返し地点。いまは発射の回数よりも、内容に注目する必要がある。ミサイルが多種多様になってきていて、異なる場所から1度に違うタイプの兵器を大量に投入することで相手側の対応能力をまひさせる、いわゆる『飽和攻撃』を仕掛けられるようになり防衛が難しくなる。今後は実戦配備がどれだけ進み、部隊の兵士らがどれだけ使いこなすことができるのかも大事になってくる」

火星15型

ICBM級は「火星18型」だけではありません。2023年2月にはキム総書記が発射当日の午前8時に命令を下し、新設された「ミサイル総局」の指導のもと、「火星15型」の発射訓練が行われたと国営テレビは報じています。

「火星15型」発射訓練(2023年2月)

火星17型

そして、翌月の3月には、キム総書記が娘とともに立ち会う中、「火星17型」の発射訓練を行なったことを初めて明らかにし、その様子が映像で公開されました。

「火星17型」初の発射訓練(2023年3月)

「火星15型」と「火星17型」はいずれも液体燃料式で、防衛省の分析では、射程はそれぞれ1万4000キロ以上から1万5000キロ以上にも上り、弾頭の重さによっては、アメリカ全土が射程に含まれるとされています。特に「火星17型」は、「火星15型」よりも大きく、弾頭の大型化や多弾頭化が指摘されています。

極超音速弾頭と固体燃料式の中距離弾道ミサイル

北朝鮮が開発を進めているのは長距離の弾道ミサイルだけではありません。

2023年11月、北朝鮮は新型の中距離弾道ミサイルに使用する固体燃料式エンジンの初めての燃焼実験を実施して成功したと発表しました。そして、ことし(2024年)1月、「労働新聞」は、ミサイル総局が固体燃料式の中距離弾道ミサイルの発射実験に成功したと初めて伝えています。

固体燃料式の中距離弾道ミサイル発射実験の実施を伝える記事(2024年1月)

また、このミサイルには音速の5倍にあたるマッハ5以上、東京ー大阪間をおよそ5分で移動できる極超音速の速さで滑空する弾頭が装着されているとしています。つまり、放物線を描く弾道ミサイルとして打ち上げられたあと、切り離された弾頭が低空を変則的な軌道で飛ぶことになり、探知や迎撃が難しいといわれています。また、中距離であるため、日本やアメリカのグアムなども射程距離に入ることになります。

戦略巡航ミサイル

さらに、巡航ミサイルの開発も加速させています。

2023年はたびたび発射訓練の実施を発表していて、このうち、3月には戦略巡航ミサイル2発を潜水艦から発射する訓練が行われたと明らかにしました。潜水艦からの発射を発表したのはこれが初めてです。また、特に2024年に入ってからはすでに5回、発射実験や訓練を繰り返しています。

潜水艦からの戦略巡航ミサイル発射訓練(2023年3月)

巡航ミサイルは弾道ミサイルより速度は落ちるものの、航空機に似た形状で推進力を持ち、低高度を変則的な軌道で飛行できるほか、軌道や標的を変えることも可能です。そのため、目標に命中する確率はあがるほか、探知や追跡が難しいとも指摘されています。また、射程は2000キロに達し、韓国国内のみならず、日本国内の自衛隊や在日アメリカ軍の施設などを攻撃できるようになると見られています。

核無人水中攻撃艇も開発

また、北朝鮮は2023年3月、朝鮮語で津波を意味する「ヘイル」と呼ぶ新型兵器・核無人水中攻撃艇の実験を行ったと初めて発表しました。この際に「水中爆発で超強力な放射能の津波を起こし、敵の艦船集団と主要な港を破壊する」と強調していました。

そして翌4月、「ヘイル2型」の実験を行い、71時間あまりかけて日本海を1000キロ潜行し、目標水域に到達すると、実験用の弾頭が正確に起爆したとしています。

「労働新聞」に掲載された核無人水中攻撃艇「ヘイル2型」(2023年4月)

一方で、韓国の通信社・連合ニュースは、北朝鮮が公開した写真を分析した専門家の話しとして、「津波は起こせない」と伝えています。

今後の焦点

北朝鮮によるミサイルの発射と軍事偵察衛星の打ち上げについて山口助教は、「ミサイルは人間の体でいうと攻撃するための手と足だ。そして、より効率的に攻撃するためには頭脳となる軍事偵察衛星、またそれを管理・統制できるためのシステムが必要だ」と指摘していて、今後について複数の衛星の打ち上げやそれを運用するシステムにも十分に注目していくべきだとしています。

北朝鮮が打ち上げた軍事偵察衛星(2023年11月)

「国防5か年計画」では、戦術核兵器の開発やミサイルに複数の弾頭を積む「多弾頭化」のため、核弾頭のいっそうの小型化・軽量化を掲げていて、日米韓3か国は、2017年以来となる7回目の核実験は、いつでも実施可能だと指摘しています。

この5か年計画が残り2年となった中、ことしも北朝鮮のミサイルのさらなる開発や発射が続く展開が予想されています。


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