2022年6月11日
北朝鮮 朝鮮半島

【詳しく】北朝鮮は核実験をするのか?そもそもなぜ?ねらいは

「北朝鮮は明らかに準備を終えた。私の理解では、いつでも核実験を行うことができる」
2022年6月7日の、北朝鮮問題を担当するアメリカ政府高官の発言です。

北朝鮮は2017年9月以来となる核実験にいつ踏み切るのか、関係国の警戒と監視が強まっています。
そもそもなぜ、核実験を行おうとしているのか?そのねらいは何なのか?
詳しく解説します。

(中国総局・石井利喜)

北朝鮮なぜ核実験するの?

“最大の敵”と位置づける核保有国のアメリカと「対等」に渡り合い、体制の保証を取り付けるためです。また、「アメリカが核兵器で脅してくるので、自衛のためにみずからも核兵器を持つ必要がある」と主張しています。こうした考えのもと、北朝鮮は2006年以降、核実験を繰り返し、核開発能力の向上を目指してきました。

2018年4月、北朝鮮は史上初の米朝首脳会談を前に、核実験を中止すると表明し、核実験場の坑道などを爆破しましたが、2022年1月には「アメリカの敵視政策と軍事的脅威が黙認できない危険なラインに達した」として、核実験の中止を見直すこともありうるとしていました。

核実験に向けた具体的な動きは?

これまで核実験が行われてきた北東部プンゲリ(豊渓里)にある核実験場で新たな動きが次々に確認されています。

2022年3月、衛星写真を分析したアメリカの専門家は、2018年以来初めて、新たな建物の建設や補修の動きなどが確認されたと明らかにしました。

2022年3月のプンゲリの衛星写真

また、アメリカのシンクタンクCSIS=戦略国際問題研究所のグループは、2022年4月、4つある坑道のうち、過去の核実験で使っていない「3番坑道」の新しい入り口付近で建物が新設されたほか、機材や物資が増えているのが確認され、坑道の内部で作業が続いているとしています。

3番坑道(Tunnel No.3)の新しい入り口付近で建物が新設

各国政府はどう分析?

韓国政府の高官は2022年5月25日、「プンゲリにある核実験場とは異なる場所でここ数週間で複数回にわたって、核の起爆装置の作動実験を行っていることが探知された」と明らかにしたほか、韓国の情報機関・国家情報院も、「核実験場での準備はすべて終わり、実施のタイミングだけを見計らっている段階だ」という見方を示しました。

アメリカ国務省 ソン・キム特別代表(北朝鮮問題担当)

また、アメリカ国務省で北朝鮮問題を担当する、ソン・キム特別代表は2022年6月7日、記者会見で「北朝鮮は明らかに準備を終えた。私の理解では、いつでも核実験を行うことができる」と述べ、北朝鮮が核実験の準備を完了し、いつ強行してもおかしくないという認識を示しました。

そもそも北朝鮮はどんな核実験してきたの?

北朝鮮は、キム・ジョンウン(金正恩)総書記の父・キム・ジョンイル(金正日)氏の体制下だった2006年に初めての核実験に踏み切って以降、プンゲリの核実験場でこれまでに6回の核実験を行っています。

2006年10月の初めての核実験は、防衛省の試算で、爆発の規模がTNT火薬に換算しておよそ0.5キロ~1キロトンと推定され、その威力は広島に投下された原爆の15分の1以下にとどまったとみられています。

しかし、2009年5月の2回目は推定でおよそ2~3キロトン、2013年2月の3回目はおよそ6~7キロトンと、実験を重ねるごとに規模が大きくなります。

2016年1月の4回目の核実験では、北朝鮮は「初めて水爆実験を行い、成功した」と主張、「核弾頭の爆発実験」と称して2016年9月に行った5回目の核実験ではおよそ11~12キロトンと推定されていました。

そして、前回・2017年9月の6回目は「ICBM=大陸間弾道ミサイルに搭載する水爆の実験に成功した」と発表。爆発の規模が過去最大のおよそ160キロトンと、広島の原爆の10倍以上に達したと推定されています。

北朝鮮の核実験、ねらいは?

2017年9月以来となる核実験の焦点は、核兵器の「小型化」「軽量化」だと指摘されています。

キム・ジョンウン総書記は最高指導者に就任してからのこの10年、核開発と、核の運搬手段であるミサイル開発をいわば「車の両輪」として加速してきました。

2021年1月に打ち出した「国防5か年計画」には、ミサイルに複数の弾頭を積む「多弾頭化」や、短距離弾道ミサイルなどで局地的な攻撃を行うための「戦術核兵器」の開発が含まれています。これらの実現に、核の「小型化」「軽量化」が必要だと分析されています。

韓国の情報機関のトップも、2022年5月、韓国メディアのインタビューで、復旧作業が進められていた核実験場の「3番坑道」について「坑道の規模から、核兵器の『小型化』『軽量化』のための実験しかできないところだ」と指摘しています。

「戦術核兵器」を開発する理由は?

「韓国や日本にあるアメリカ軍基地への核兵器による攻撃能力を確保する思惑がある」

北朝鮮の軍事に詳しい、防衛省の元情報分析官で軍事アナリストの西村金一さんは、そう指摘しています。

軍事アナリスト 西村金一さん

軍事アナリスト 西村金一さん
「大都市に甚大な被害を与える大きな核兵器の使用は、第3次世界大戦とも言えるような状況につながりかねず、リスクがあまりにも大きい。『戦術核兵器』は、例えば、在韓アメリカ軍の司令部のある基地などを攻撃でき、さらに『降伏しなければまだ撃つぞ』という強い威嚇にもなり、戦況を有利に進められる。そういう効果を期待しているのではないか」

核兵器による先制攻撃も?

キム総書記の妹 キム・ヨジョン(金与正)氏

2022年4月、キム総書記の妹キム・ヨジョン(金与正)氏そしてキム総書記みずからもその可能性を示唆しました。

キム・ヨジョン氏は4月4日付けで「南が軍事的対決を選択する状況が来るならば、われわれの核戦闘武力は任務を遂行しなければならなくなる。ひとたび戦争状態になれば、その使命は相手の軍事力を一掃することに変わる」とする談話を発表。

そして、キム総書記は4月25日の軍事パレードでの演説で「われわれの核は、戦争防止という1つの使命だけに縛られない。わが国の根本利益を奪おうとするならば、第2の使命を決行せざるを得ない」と述べ、核兵器を抑止力としてだけでなく、先制攻撃を含む実戦での使用も辞さない構えを示したのです。

なぜ挑発をエスカレートさせるの?

さまざまな国際情勢の変化が背景にあります。

5年ぶりに保守政権を発足させた韓国のユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領は、アメリカとの同盟関係を基盤に北朝鮮に対する抑止力を強化する姿勢を鮮明にしています。北朝鮮は、ユン政権への対決姿勢をあらわにしており、ユン政権に揺さぶりをかけるねらいもあるとみられます。

また、ロシアによるウクライナへの侵攻が、北朝鮮の核・ミサイル開発を後押ししていると考えられます。

国連の安全保障理事会では2022年5月、相次ぐ弾道ミサイルの発射を受けて、北朝鮮に対する制裁を強化する決議案の採決が行われましたが、中国とロシアが拒否権を行使して否決されました。6月8日には、中国とロシアが「対話を優先すべきだ」、「北朝鮮に対する制裁の強化は問題の解決につながらない」として、そろって北朝鮮の立場を改めて擁護しています。

ウクライナ情勢をめぐる対立から、北朝鮮に関する問題でも欧米対中国・ロシアという構図がより鮮明になり、国連安保理は機能不全に陥っているのです。

北朝鮮は、アメリカのバイデン政権が、中国やロシア、イランなどに比べ北朝鮮問題の優先順位が低い、との不満が強いと言われています。2022年11月にはアメリカで中間選挙もあり、対話局面は当面望めないと踏んで挑発をエスカレートさせるおそれがあります。

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