2022年10月19日
北朝鮮 朝鮮半島

【詳しく】北朝鮮の「戦術核運用部隊」とは?

北朝鮮は9月25日から10月9日まで行った7回の弾道ミサイルの発射について朝鮮人民軍の「戦術核運用部隊」の訓練だったと明らかにしました。
いったいどんな部隊なのでしょうか。

(国際部・近藤由香利)

北朝鮮が明らかにした戦術核運用部隊の存在

北朝鮮は朝鮮労働党の創立記念日である10月10日、キム・ジョンウン(金正恩)総書記立ち会いのもと9月25日から10月9日の15日間にかけて朝鮮人民軍の戦術核運用部隊の訓練が行われたと発表しました。

ちょうどこの期間に行われた7回にわたる弾道ミサイルの発射をここで明らかにしたのです。

北朝鮮が「戦術核運用部隊」の存在を初めて明らかにしたのは、これが初めてです。

北朝鮮国営の朝鮮中央テレビは低空を変則軌道で飛ぶ短距離弾道ミサイルなどが発射される様子や、キム総書記が日本の上空を通過する形の軌道が表示されたモニターを見つめる姿などの写真を放送し、キム総書記が「敵の軍事的な動きを鋭く注視し、必要な場合はすべての軍事的な対応措置を強力に講じていく」と述べたと伝えています。

また、訓練はアメリカが原子力空母「ロナルド・レーガン」を日本海に展開して日本や韓国と実施した共同訓練に警告するために行われ、目的については、戦術核弾頭の搭載を想定したさまざまなミサイルで韓国の飛行場や主要な軍事指揮施設などを攻撃する訓練だったとしています。

戦術核運用部隊の訓練の詳細は?

国営メディアは7回の発射について1つ1つ詳しく伝えています。

9月25日に発射された短距離弾道ミサイル
「貯水池の水中発射場での戦術核弾頭の搭載を想定した弾道ミサイルの発射訓練だった」とした上で、貯水池にミサイルの発射場を整備していく方針を示唆しています。
また、「日本海に設定された標的の上空を飛行した」として、当時朝鮮半島に展開していたアメリカの原子力空母などへの攻撃を想定した可能性を示唆し、設定した高度で正確に弾頭が起爆することが確認されたとしています。

9月28日に発射された短距離弾道ミサイル
「南の作戦地帯にある飛行場を無力化させる目的だ」として、韓国への攻撃を想定していたとしています。

9月29日と10月1日に発射された短距離弾道ミサイル
「複数の戦術弾道ミサイル」の発射実験だったと明らかにし「空中爆発と散布弾をあわせて標的に命中させた」として、クラスター爆弾などでの攻撃能力を誇示した可能性が指摘されています。

10月4日に日本の上空を通過させる形で発射した弾道ミサイル
新型の地対地中距離弾道ミサイルで、「日本列島を横切り4500キロ先の太平洋上に設定された目標水域を打撃した」と明らかにしました。
また、朝鮮労働党中央軍事委員会が「朝鮮半島の不安定な情勢に対処し、より強力で明確な警告を敵に送る」との決定を下したとしていて、日米韓3か国をけん制する目的だったと強調しています。

10月6日に発射された短距離弾道ミサイル
「敵の主要軍事指揮施設への攻撃を想定した『超大型ロケット砲』と『戦術弾道ミサイル』による訓練」だとしています。

10月9日の発射
「敵の主要な港への攻撃を想定した『超大型ロケット砲』による訓練だ」としていて、いずれも明け方に軍事施設などを攻撃することを想定した訓練だったとしています。

専門家は戦術核運用部隊をどうみる?

今回初めて登場した「戦術核運用部隊」について、東アジアの安全保障問題に詳しい東京大学先端科学技術研究センター山口亮(やまぐち・りょう)特任助教に聞きました。

東京大学先端科学技術研究センター 山口亮特任助教

Q「戦術核運用部隊」とはどんな部隊だと見ていますか?

「戦略核」がアメリカなどの主要都市をねらうのに対して、「戦術核」で戦場あるいは敵の部隊などを標的にすることを目的としていると見ています。

Q 今回の部隊の訓練の目的は何だと思いますか?

一連の部隊の訓練は実は一つのパッケージになっていて、「戦術攻撃のシミュレーション」を行ったのではないかと見ています。ミサイルの性能テスト、部隊の即時発射能力と練度、そして指揮系統システムの向上を目的にしているとみています。

たとえば、複数の場所に部隊をスタンバイさせて、発射の命令が下りてから速やかに撃てる態勢を構築することを目的としていた可能性があります。

そして今回は、短距離弾道ミサイルで韓国軍や駐留するアメリカ軍を標的にする一方、中距離弾道ミサイルは、米軍の戦略拠点であるグアムなどをねらったと分析しています。

Q 貯水池の水中発射場からの発射はどう見ていますか?

おそらく移動式の水中バージのような発射台から発射したとみられ、写真をみるかぎり、低高度を変則軌道で飛び相手のミサイル防衛システムをかいくぐることを目的とした短距離弾道ミサイルとみられます。

これまでにも北朝鮮は、鉄道から弾道ミサイルを発射するなど発射手段を多様化し探知や迎撃を難しくさせようとしていて、その一環だとみられます。

Q 戦術核の実戦配備は?

開発の段階から実戦配備に向けた動きへと進んでいると思います。2022年6月5日にも4か所からほぼ同時に短距離弾道ミサイル8発を発射していました。

同時に複数の場所からミサイルを発射することでミサイルの性能を向上させるハード面だけでなく指揮系統のソフト面とのバランスがとれてきたという印象で、複雑なミサイル攻撃を行えるようになっているのかもしれないと分析しています。

Q 核実験の可能性が高まっているとみていますか?

高まっているとみています。

北朝鮮のプンゲリ核実験場を撮影した衛星写真(2022年9月29日)

今回は「戦術核運用部隊」の訓練であり、核実験は別のタイムラインで進んでいると見ていますが、北朝鮮は「国防5か年計画」を前倒しで進めているとみられ、核実験を行うのは時間の問題だと思っています。

国際ニュース

国際ニュースランキング

    世界がわかるQ&A一覧へ戻る
    トップページへ戻る