2023年12月18日
アメリカ大統領選挙2024 アメリカ

米大統領選が予測不能に?名門ケネディ家の"異端児”とは?

「私の狙いは、バイデン氏とトランプ氏、その両方の選挙を台なしにすることだ」

来年のアメリカ大統領選挙に向けてこう宣言したのは、“RFK”こと、ロバート・F・ケネディ・ジュニア氏(69)です。

あのケネディ元大統領の「おい」で、ことし(2023年)10月、民主党でも、共和党でもない、「無所属」の候補者として大統領選挙に挑戦する意向を表明しました。

民主・共和両党が警戒を強めるケネディ氏とはどのような人物なのか。

そして、大統領選挙にどのような影響を与えるのでしょうか。

(ワシントン支局記者 根本幸太郎)

熱気に包まれる集会

「ボビー!ボビー!ボビー!」

ことし11月、メリーランド州のイベント会場は、主役が登場する前から、数百人の支持者の熱気に包まれていました。

メリーランド州アナポリスで行われた集会 (2023年11月)

集会の主役は、全米各地を行脚するロバート・ケネディ・ジュニア氏。

支持者からは、親しみを込めて“ボビー”の愛称で呼ばれています。

ロバート・ケネディ・ジュニア氏

「私は今、どちらの政党にも属さない無所属の候補者だ。大統領選挙で勝利するには皆さんの支援が必要だ」

ケネディ氏が支持を呼びかけると、会場から大きな歓声が上がりました。

演説終了後にはケネディ氏と写真を撮ろうと会場に支持者の長い列ができ、ケネディ氏の人気の広がりを感じさせました。

会場に集まった人たちは、興奮気味にケネディ氏を支持する理由を話しました。

支持者

「ケネディ氏は変化をもたらす男だ。正直者で、いい資質をたくさん持っている。彼は、アメリカのためになる」

支持者

「私がケネディ氏を支持する理由は、政党にこだわらず、自分が信じることのために立ち上がっているからだ。この選挙が、私にとって最初の選挙なので、興奮している」

1時間近くかけて、支持者との写真撮影を終えたケネディ氏。

会場を出る際に直撃すると「集会は最高だった!」と笑顔を見せ、手応えを感じている様子でした。

名門一家の出身

大統領候補として注目を集めるケネディ氏は、1954年、多くの政治家を輩出してきたケネディ家に生まれました。

上院議員も務めたロバート・ケネディ元司法長官を父親に持ち、国民的な人気を集めたケネディ元大統領はおじにあたります。

兄弟や親戚にも、政治の舞台で活躍する人物が多くいます。

オバマ政権で駐日大使を務め、バイデン政権ではオーストラリア大使に起用されたキャロライン・ケネディ氏は、いとこにあたります。

ロバート・ケネディ・ジュニア氏は、ハーバード大学などを卒業したあと、1985年に弁護士としてのキャリアをスタートさせ、長年、水質汚染問題に取り組むなどして、環境保護活動家として広く知られるようになります。

陰謀論者と呼ばれて

一方で、近年、ケネディ氏は、環境保護活動家ではない“別の横顔”でも、注目を集めてきました。

その1つが、「反ワクチン活動家」です。

反ワクチン集会でスピーチするケネディ氏 (2019年5月)

ケネディ氏は、小児用ワクチンが自閉症の原因になっていると主張するなど、科学的根拠が薄いとされる情報をもとに安全性に疑問を呈し、反対運動を展開。

新型コロナワクチンをめぐっても接種の義務化に反対する大規模集会に参加しました。

さらにケネディ氏は、ことし7月には「新型コロナは特定の人種を攻撃している」などと発言。

このほかにも「報道機関はCIA=中央情報局に操られている」と公言するなど、その発言はしばしば物議をかもし、アメリカメディアからは“陰謀論者”とも呼ばれています。

パネルディスカッションに参加するケネディ氏(2023年7月)

ケネディ家の“異端児”

ケネディ氏の大統領選挙への挑戦に対し、ケネディ家からは反対の声が上がっています。

当初、民主党の指名獲得を目指していたケネディ氏が無所属候補に転じると表明した際には、きょうだいが連名で、声明を発表しました。

ケネディ氏のきょうだい
「ボビーは私たちの父と同じ名前かもしれないが、同じ価値観やビジョン、考え方は持っていない。今日の発表は、私たちにとって深い悲しみだ。私たちは、彼の立候補はわが国にとって危険だと考えており、糾弾する」

「今世紀最強の無所属候補」

メディアから「陰謀論者」と呼ばれ、身内からも危険視されるケネディ氏ですが、最新の世論調査では大方の予想を上回る強さを見せています。

11月15日に公表された調査結果では、仮にバイデン大統領とトランプ前大統領と争う三つどもえの構図になった場合、誰に投票するかという質問にケネディ氏が、21%の支持を獲得。

特定の支持政党を持たない無党派層では、ケネディ氏が最も多くの支持を集めました。

こうした結果について、アメリカのメディアは「ケネディ氏は今世紀最強の無所属候補の1人としてスタートするだろう」と伝えました。

ただ、ケネディ氏には、2大政党の候補者に挑む前に、超えなければならない大きなハードルが待ち構えています。

2大政党制が定着したアメリカでは、無所属の候補者が、自分の名前を投票用紙に記載するのに、各州が定めた要件を満たす必要があるのです。

州によっては、数万人分の署名を集める必要があり、スタートラインに立つことも簡単ではありません。

それでもケネディ氏は、演説で、民主・共和両党の最有力候補のバイデン氏とトランプ氏双方への対抗心を鮮明にしています。

無所属の候補者として立候補を表明(2023年10月)

ケネディ氏

「民主党は、私がバイデン大統領の選挙を台なしにすると恐れていて、共和党は、トランプ前大統領の選挙を台なしにするとおびえている。問題はどちらも正しいということだ。私の狙いは、彼ら2人の選挙を台なしにすることだ」

分断解消を訴える

では、なぜ、ケネディ氏がこれほどまでの支持を集めるのか。

背景には、民主・共和双方の支持層の切り崩しを図る戦略が功を奏していることがあるとみられます。

ケネディ氏の集会に集まる支持者たち(2023年10月)

ケネディ氏は、民主党のイメージの強い“ケネディ・ブランド”を背負いながらも、ワクチン義務化に反対するなど、共和党支持層の一部にも近い立場をとり、両党の支持層を惹きつける要素をあわせ持っています。

ケネディ氏もそれを意識してか、政策面では、民主党が積極的に取り組む気候変動対策から、共和党の支持者が重視するメキシコとの国境管理の強化まで、幅広く打ち出しています。

そのケネディ氏が演説で特に強く訴えているのが、分断したアメリカを1つにまとめるというメッセージです。

民主・共和両党の政治的な対立で深刻化するアメリカ社会の分断は、無所属の自分だからこそ、修復できるとアピールしているのです。

ケネディ氏

「争いや不正、党派的な非難合戦を利用し、分断を促す政治家に国民は疲れている。選挙期間中と大統領就任後、国民を団結させることが私の仕事だ」

支持者たちは

この国を1つにまとめるというケネディ氏の主張は、両党の対立に嫌気がさした有権者に響いています。

10月、東部コネティカット州で、組織の後ろ盾がないケネディ氏を、草の根の活動で支えようとする人たちの打ち合わせを取材しました。

この日、集まったのは、ふだんは民主党を支持する人、共和党を支持する人、特定の支持政党を持たない無党派の3人。

ケネディ氏を支持する有権者

共和党支持者の女性は、ケネディ氏を支持する理由を次のように語りました。

共和党支持の女性

「私がケネディ氏を好きな理由は、彼が中間を見いだそうとしているからだ。両党には両極端な人がたくさんいて、何年もお互いに話すのをやめている」

アメリカでは最近、党派間の対立が先鋭化し、重要な法案や予算案をめぐって合意形成に時間がかかる場面が多くあり、有権者からは、政治の停滞に対する不満の声が上がっています。

会合を主催した民主党支持者の男性も、ケネディ氏が支持政党を超えた、幅広い層から支持を集めていると期待感を示しました。

民主党支持の男性

「アメリカ国民は、協力し合うことのできない2大政党制に嫌気がさしている。ケネディ氏が両陣営の人びとを結びつけることができるのは魅力的だ」

専門家はどう見る

民主・共和両党の支持者を取り込むケネディ氏。

アメリカ政治に詳しい専門家は、高齢で健康不安がくすぶるバイデン氏と、これまでに4回、起訴されているトランプ氏が再び対決する可能性が高まっていることも、ケネディ氏の支持拡大につながっていると分析します。

ブルッキングス研究所 ガルストン上級研究員

ガルストン上級研究員

「トランプ氏もバイデン氏も、あまり人気のある候補者ではなく、アメリカ国民の多くが2大政党の候補者の間で選択することに満足していない。今回は例年以上に別の選択肢を求めており、ケネディ氏が比較的好調なのは、主要政党の候補者に対する不満という文脈で理解する必要がある」

では、ケネディ氏が選挙に勝って、大統領になる可能性はあるのか。

ガルストン氏は、無所属候補が勝利するのは容易ではないとした上で、ケネディ氏がバイデン氏やトランプ氏から票を奪うことで、選挙結果に大きな影響を与える可能性があると指摘しています。

「多くの場合、無所属や第3政党の候補者への支持は、選挙の初期に最も高く、選挙戦が進むにつれて低くなる傾向があることは覚えておく必要がある」

「大統領選挙は2016年や2020年に続いて、2024年も大接戦になりそうだ。そして、どちらに転ぶかわからない重要な州のほとんどは、両候補の差がわずか1から2ポイントで、このような状況では、無所属候補の立候補によって、勝敗が分かれる可能性がある」

今後も注目の存在に

ワシントンでは今、ケネディ氏の存在が、バイデン氏とトランプ氏のどちらに不利に働くのか至る所で議論が行われていますが、誰も明確な答えは持っていないように見えます。

当初は、ケネディ家のブランドもあって、民主党のバイデン氏から票を奪うとの見方がありましたが、ある世論調査では、民主・共和両党の支持層で、“今回はケネディ氏を支持する”とした人はほぼ同じ割合という結果も出ています。このため、ケネディ氏は、両党がともに、無視できない候補者になっているのです。

ケネディ氏がこのまま勢いを維持できるのか。そして、民主・共和両党のどちらの候補者に、より脅威となるのか。

“ケネディ家の異端児”の一挙手一投足が注目される状況が今後も続きそうです。

(11月7日 おはよう日本で放送)

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