2023年9月21日
アメリカ大統領選挙2024 トランプ前大統領 アメリカ

“トランプ2.0”? 支持率上昇のラマスワミ氏って?

「連邦政府職員の75%は解雇」「不法移民対策に軍を投入する」

来年のアメリカ大統領選挙に向け、“トランプ流”を踏襲しながら型破りな政策を掲げ、支持を集める起業家のビベック・ラマスワミ氏。

ロシアによるウクライナ侵攻をめぐっては「アメリカの国益のため、東部ドンバス地域の一部をロシアに譲渡する」と発言し、物議をかもしたこともあります。

野党・共和党の候補者選びで支持率3番手に浮上してきた無名の新人、ラマスワミ氏とはいったいどんな人物なのでしょうか。

(ワシントン支局記者 根本幸太郎)

ラマスワミ氏ってどんな人?

「両親はほとんどお金を持たずにアメリカにやってきて、私は数十億ドル規模の会社を設立した。アメリカンドリームだ」

インドからの移民の両親のもとに生まれ、中西部オハイオ州で育ったラマスワミ氏。

父親からは「目立ちたいならば、傑出した存在になれ」と言われて勉学に励み、ハーバード大学に進学、イェール大学ロースクールでも学びました。

その後、薬品開発に携わる会社を設立して起業家として成功。自身の体験から、人種などに関わらず夢を実現できる社会を目指すと訴えています。

アイオワ州で演説するラマスワミ氏(2023年8月)

ビジネス界から、共和党の指名争いに加わったラマスワミ氏。

自身を政治の“アウトサイダー”と位置づけ、ほかの候補者たちを「プロの政治家」、「献金者の操り人形」などと批判。

「政治のしがらみがない自分だからこそ、既存の政治勢力にはできない改革を断行する」と打ち出しています。

「トランプ氏は21世紀最高の大統領」

ラマスワミ氏が意識しているのが、同じくビジネス界から政治の世界に飛び込み、大統領となったトランプ氏です。

トランプ前大統領

トランプ氏を「21世紀最高の大統領だった」と称賛。多くの面で“トランプ流”を踏襲しています。

掲げているのは“トランプ氏を超えるアメリカ第一主義”。

アメリカの国益を最優先にするとしたトランプ氏の看板政策を、さらに強化する姿勢を鮮明にしています。

官僚主義の打破のため、連邦政府職員の75%を解雇。不法移民対策ではメキシコ国境の警備にアメリカ軍を投入するとしています。

気候変動問題は「デマ」だと切り捨て、二酸化炭素の最大の排出源になっていると指摘される石炭も「採掘し、燃やす」と強調し、利用を継続する考えです。

ウクライナ東部はロシアに譲渡?

トランプ氏の政策をより強化した主張から、アメリカメディアから“トランプ2.0”とも呼ばれているラマスワミ氏。

過激な“アメリカ第一主義”の姿勢が物議をかもすこともしばしばで、その1つがロシアによるウクライナ侵攻をめぐる姿勢です。

自国の国境警備により多くの資源を投入すべきだと主張するラマスワミ氏は、ウクライナへのさらなる支援には反対を表明。7月のイベントではさらに踏み込んだ発言をします。

保守系の元看板キャスターと対談するラマスワミ氏(2023年7月)

「アメリカの国益になる形でウクライナ侵攻を終わらせるにはどうしたらよいか。私なら現在の支配ラインで凍結するように交渉する。つまり、東部ドンバス地域の一部をロシアに譲渡するということだ」

ロシアによる侵攻を容認するかのような、この発言。

討論会で言い合うラマスワミ氏とヘイリー氏(2023年8月)

大統領候補のうち、元国連大使のヘイリー氏は「外交経験のなさが露呈した」と酷評したほか、「アメリカは国際社会で担うべき役割がある」と主張するペンス前副大統領も「今は実地訓練をしている時ではない。経験のない人を入れる必要はない」と突き放すなど、大きな波紋が広がったのです。

広がるラマスワミ支持 なぜ?

ことし2月の立候補表明直後は、各種世論調査の平均で支持率がほぼ0%だったラマスワミ氏。

しかしその後、支持率は右肩上がりに上昇し、20日現在、7.5%。フロリダ州のデサンティス知事に5ポイント差に迫り、3番手につけています。

支持率は政治情報サイト「リアル・クリア・ポリティクス」より (2023年9月20日時点)

なぜ全く無名だったラマスワミ氏への支持が広がっているのか。

支持者に直接話を聞こうと、イリノイ州に住むポール・フェアエンバッカーさん(45)を訪ねました。

ポール・フェアエンバッカーさんと娘のフランチェスカちゃん

1歳6か月になる娘のフランチェスカちゃんを育てるフェアエンバッカーさん。

国内で記録的なインフレが続き、教育にも多額の資金が必要となるアメリカの将来を憂慮していました。

私立大学の学費の平均は年間3万9400ドル、日本円にしておよそ580万円にものぼります(NPO団体調べ)。

ポール・フェアエンバッカーさん

「インフレ率は、私が大人になって最も上がっている。教育にはとんでもないお金がかかる。
アメリカの若者たちの未来は、かつての世代が持っていたような、決して明るいものではない。
アメリカは“自国第一”ではなかった。ウクライナ支援がいい例だ。“アメリカ第一主義”はいま、とても重要なことだ」

将来の世代に強い国を引き継ぐためには、ウクライナではなくアメリカのことを最優先に考える“アメリカ第一主義”こそが、譲れない政策だといいます。

これまで共和党を支持してきたフェアエンバッカーさん。

過去2回の大統領選挙ではいずれもトランプ氏を支持してきましたが、相次ぐ起訴などによって、トランプ氏では本選挙で民主党の候補者に勝てないのではないかと考えるようになりました。

その時にラマスワミ氏の立候補を知り、より幅広い層の支持を集められる候補者だと感じたといいます。

「ラマスワミ氏のウクライナをめぐる発言は過激すぎないか?」と尋ねると、過去の戦争を引き合いに、強く反論しました。

「イラクやアフガニスタンでの戦争は、アメリカの金と多くの兵士の命を奪った。

『アメリカには世界の安全保障を担う責任がある』というような古い考え方の政治家がいるが、だから、戦争に巻き込まれたのだ。
金と無駄な死者を出すような戦争に関与しないことが過激だというならば、私はその過激な政策に賛成だ」

日本との関係どう考えている?

トランプ氏からは「頭がよく、若く、多くの才能を持っている。良いエネルギーも持っている」と評価されるラマスワミ氏。

仮にトランプ氏が大統領選挙で勝利すれば、副大統領や閣僚として登用されるのではないかという観測も出ています。

“アメリカ第一主義”の強化を訴えるラマスワミ氏は、日本との関係についてどう考えているのか。演説会場で直接尋ねてみると。

「日米関係の強化は重要だ。アメリカが中国依存から脱却するには、日本との貿易関係の強化が必要だ。
私はビジネスで何度も東京に行き、新婚旅行で京都にも訪れた。
日米関係は私の外交政策を達成するために不可欠だ」

取材を終えて

「アメリカの復活のため、スローな改革ではなく革命を起こす」

こう宣言し、これまでトランプ氏を支持してきた人たちも取り込みながら支持率を上昇させているラマスワミ氏。

38歳という若さやトランプ氏と同じくビジネス界から新たに来たという“新鮮さ”に加え、人々が抱える現状への不安や不満をくみ取り、型破りな政策を打ち出していることが、支持拡大の要因の1つになっています。

ただ、今も党内で圧倒的な人気を誇るトランプ氏を負かすには、似通った政策を掲げるのではなく、真っ向からの対決が不可欠だという指摘もあります。

トランプ氏を「最高の大統領」と評価しているラマスワミ氏にそれができるのか。

共和党内で、果たして“トランプ氏を超える存在だ”と認められるための戦略を描けるのか。

そこが今後の焦点になります。

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