2022年12月22日
ミャンマー アジア

「いいね」で禁錮10年? ミャンマーで軍が進める情報統制

「『いいね』を押すだけで最大で禁錮10年を科す」

軍が設置した「国家統治評議会」の報道官がことし9月に発表した内容に驚きが広がりました。

ミャンマー軍は民主派勢力の拡大を防ぐため、これまでもSNSをはじめとする情報統制を進めてきました。しかし、来年(2023年)夏にも予定されている総選挙を前に、軍の統制がこれまで以上に強まっています。

ミャンマーで今、何が起きているのでしょうか。

(アジア総局記者 高橋潤)

グラビアモデルに禁錮6年

ナン・ムエ・サンさん

カメラに向かって微笑む女性。ミャンマー人のナン・ムエ・サンさんです。いわゆるグラビアモデルで、水着姿などをネットで公開したことで、若者の間で知名度が高まり、フェイスブックのフォロアー数は271万人に上ります。

ところが軍は2022年8月、ナン・ムエ・サンさんを拘束。軍に近い地元メディアによりますと、9月27日に軍事法廷が開かれ、ネット上に肌を露出した画像や動画を掲載したことでミャンマー文化を危険にさらしたとして、禁錮6年の有罪判決が言い渡されたということです。

指を3本立てることでミャンマー軍への抗議の意志を示す ナン・ムエ・サンさん

実はナン・ムエ・サンさんは2021年のクーデター以降、民主化を求めるデモに積極的に参加していたほか、民主派勢力への支持をSNSを通じてたびたび発信していました。

このため、今回の判決はネット上で影響力のある人物を訴追することで、民主派勢力への見せしめのような効果を狙ったとの見方が出ています。

元ミス・ミャンマーが空港で足止め

その判決の翌日。タイの首都バンコクから、1人の女性がカナダに向かいました。

ミャンマー出身のハン・レイさんです。去年、国際的なミス・コンテストにミャンマー代表として参加した際に、涙ながらに訴えた発言が世界から注目されました。

ミス・コンテストに出場した際のハン・レイさん(2021年)

ハン・レイさん
「ミャンマーで民主化のために活動して命を落とした人たちを心から弔いたい。私も民主主義を求める1人。クーデターに関わった指導者は罪のない自国民に武力を使うべきではない。世界のみなさん、ミャンマーを救ってください」

ハン・レイさんはこの発言よりも前から、SNSで発信を続けていました。

去年2月には「ミャンマーの軍事政権と悪党たちは、闇夜に紛れ平和的にデモを行っている人たちを逮捕していることを世界に知ってほしい」と書き込み、実権を握った軍を非難しました。

ハン・レイさんはミス・コンテスト以降、ミャンマーには戻らずにタイで生活していましたが、滞在ビザが切れる前に更新するため、一旦ベトナムに出国してタイに戻りました。

ところが、空港でパスポートの番号が存在しないと告げられたそうです。不在だった3日間でパスポートが突然使えなくなったのです。

結局、ハン・レイさんは空港に8日間足止めとなり、UNHCR=国連難民高等弁務官事務所の支援でカナダへ向かうことを余儀なくされました。

“いいね”で禁錮10年

2人の女性のケースから言えるのは、ミャンマー軍が活動家から一般市民へと弾圧の対象を広げている実態です。

これを裏付ける発言を今年9月、軍が設置した「国家統治評議会」の報道官がしています。

報道官は軍と対立する組織を支援することが訴追の対象になるおそれがあると指摘。交流サイトの投稿をシェアしたり、「いいね」を押したりしただけで、人々を扇動した罪にあたるとして、最大で禁錮10年を科すと警告したのです。

ミャンマー「国家統治評議会」報道官の会見 (2022年9月)

ミャンマーでは憲法に基づいて、2023年8月にも総選挙が行われる予定です。

民主派勢力がネットを通じて支持を拡大することをミャンマー軍がこれまで以上に警戒しているのは明らかで、情報統制を強化するねらいがあるものと見られます。

禁錮刑重ねて政治生命絶つ狙いか

総選挙を前に軍が最も警戒するのが、アウン・サン・スー・チー氏の存在です。

アウン・サン・スー・チー氏(2019年)

アウン・サン・スー・チー氏が率いる政党、NLD=国民民主連盟が次の総選挙で再び大きな支持を得る事態となれば、2020年に行われた前回の総選挙の結果を受け入れずクーデターを起こした軍の正当性が大きく揺らぐことになります。

軍に拘束されたアウン・サン・スー・チー氏に対する一連の裁判は、軍の統制のもとで非公開で行われていて、有罪判決は社会不安を引き起こした罪など、これまでに14件、刑期は合わせて26年になっています。

アウン・サン・スー・チー氏に対する裁判(2021年5月)

軍としては、総選挙を前に刑期を積み重ねていくことで、アウン・サン・スー・チー氏の政治的な影響力を排除する思惑があるとみられています。

ただ、アウン・サン・スー・チー氏は過去何度も軍による軟禁などの圧力を受けながらも、そのたびに復活し、国民の絶大な支持を集めてきました。

現在、アウン・サン・スー・チー氏への支持は地下に潜っていますが、再び「軍への抵抗のシンボル」となったことで、影響力をそぐのは難しいとの見方もあります。

総選挙へ向けてどうなる?ミャンマー情勢

ミャンマー軍は今後も権力を維持するため、総選挙で軍に近い政党が有利な結果を得られるよう、制度の変更も検討しています。

一方の民主派の側は今後、軍主導で行われる選挙は受け入れられないという立場を示すとみられます。

選挙が近づくにつれて、双方の対立はさらに先鋭化する見通しで、現地は緊迫の度合いを増すものとみられます。

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