2023年3月30日
医療 ウクライナ

「1年で857回の攻撃」医療機関がロシアの“標的”に 実態は?

「ウクライナで医療機関が標的にされている」

私(記者)は去年の夏まで4年間、WHO=世界保健機関の取材を担当し、幾度となくそうした記事を書いてきました。

攻撃を受けた医療機関が再開するにはどのくらいの時間が必要なのか。
その間、医療が必要な人たちはどうなっているのか。

その実態を取材しようと、ロシアによる軍事侵攻から1年となるのを前に現地を取材しました。

(World News部 記者 古山彰子/ カメラマン 松本弥希)

ロシアの侵攻から1年 訪れたのは

首都キーウから車でおよそ1時間ほどのマカリウ。

ブチャやイルピンなどと同じく、侵攻開始当初にロシア軍による攻撃を受け、多くの住民が犠牲になった町の1つです。

町の中心部に入ると、一見立派な5階建ての建物が見えてきました。

遠くからはごく普通の病院のように見えましたが、近づいて見てみると、壁のいたるところに弾痕があり、崩れた壁のがれきが残されたままになっている場所もありました。

この病院では、去年の2月24日に軍事侵攻が始まったあとも、負傷したウクライナ軍の兵士や一般の患者の治療などが続けられていました。

「当初は“標的”ではなかった」

当時、この病院にいた医師は「病院のすぐそばでもロシア軍による攻撃はあったものの、侵攻開始直後、病院は標的になっていなかった」と話します。

マカリウの病院のアナトリー・ヨベンコ医師

ヨベンコ医師
「戦闘に巻き込まれてけがをした市民や兵士が次々と運ばれてきました。町の周辺で空爆が相次ぎ、一時、患者を地下室に避難させたこともあります。
それでも手術や治療を続けていました。最初の頃は病院に対する砲撃はありませんでした。
ロシア軍は病院を奪って自分たちのために使いたかったので、当初は病院を破壊するつもりはなかったのではないでしょうか」

しかし、3月半ばに近づくと、病院もロシア軍の砲撃を受けるようになったと言います。

ヨベンコ医師
「ロシア軍が撤退する際の振る舞いは最初の頃とはまったく異なりました。きっと上層部からの命令があったのでしょう。
『もう撤退せざるを得ない』という状況になると、それまで標的にしてこなかった病院に対して砲撃を行うようになったのです」

一部再開 壊れたままの病棟も

ロシア軍の撤退を受けて、病院に戻った医師が目にしたのは、窓ガラスが粉々に割れ、壁の一部も崩れた、変わり果てた病院の姿でした。

病院は去年4月以降、段階的に業務を再開していますが、受け入れ人数は大幅に縮小したままだといいます。

取材に訪れたときも病院のいたるところで壁の補修工事などが続いていて、外科が入っていた病棟などは今も壊れたままでした。

EU=ヨーロッパ連合などの支援を受けながら工事を進めているものの、援助が十分とは言えず、侵攻前に100床あまりあった病床も50床と半数にとどまっているといいます。

ヨベンコ医師
「病床が限られていることで、入院患者を断ることや、時には救急車で運ばれてきた患者を受け入れられないこともあります。ベッドは常に埋まっていて、手術を行う十分なスペースもありません」

「3人に1人は薬買うお金すらない」

ロシア軍による攻撃でウクライナの医療機関が大きな被害を受ける中、WHOの現地の代表は、侵攻から1年がたち、多くの人がより厳しい状況に追い込まれていると指摘します。

WHOウクライナ ヤルノ・ハビフト代表

ハビフト代表
「戦闘が続いている南部や東部では医薬品が手に入らず、何週間もかかりつけの医者に診てもらえない人がいます。そもそも病院が機能していないなど、人々が医療へのアクセスに本当に苦労しています。また、ウクライナでは3人に1人が薬を買うお金すら持っていません。食べ物を買うか、薬を買うか選ばなければいけないような状況になっているのです」

ロシアによる軍事侵攻が始まってから、ウクライナでは医療機関や医療従事者などへの攻撃が1年間で857回。101人が死亡しています。(WHOまとめ)

今回、取材した病院では医師たちが病院内の限られたスペースを使って患者の治療にあたり、すべての機能が元通りになるには少なくともあと数か月はかかると話していました。

手術後間もない患者がぐったりとベッドに横たわる病室。その隣の部屋では破壊された壁の補修工事が続き、大きな音が鳴り響いていました。

取材を終えて

「857回の攻撃」という数字の向こう側にいる人たちが、この1年間置かれてきた過酷な現場を目の当たりにし、医療機関を標的にするという残虐な行為に憤りを感じずにはいられませんでした。

戦時下で医療へのアクセスが制限される中、ウクライナの人たちはロシア軍による攻撃でさらに厳しい状況に追い込まれています。

いかなる状況でも医療を必要とする人が必要な医療を受けられるよう、引き続き支援をしていく必要があると強く感じました。

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