2023年1月1日
ウクライナ

『ウクライナのあかりちゃん』16歳の漫画家が描く“日常”

「私の漫画で、誰かを笑顔にしたい」 

こう話すのは、ウクライナで暮らす16歳の漫画家です。

日本で漫画家になるのが夢だったという女子高校生の彼女が描くのは、戦時下の“日常”。

彼女が、日常を描き続ける理由とは?

(国際部記者 小島明)

 4コマ漫画に描かれた“日常”

あかり : わぁ、なんだかとっても、気分がいいな。15分早く寝たからかなぁ。
 

母親 : もう、ようやく起きたのね。もう朝の9時よ。
 
あかり : そうなのよ、ようやく起きた…って、ちょっと9時?
 
母親 : 朝の6時から停電してたから、起こさないって決めたの。
 
あかり : 次のニュースが「ところで、今は2027年なの」ってことにならないことを願うばかり。
 
母親 : そんなに長く寝てないでしょ、たぶん。

この4コマ漫画は、軍事侵攻が続くウクライナで停電が起きる中、寝坊した娘と、その母親のやりとりをユーモラスに描いたものです。

この漫画を描いたのは、ウクライナの16歳の女子高生、Akari Sayakaさん(ペンネーム)。

話を聞かせてもらったところ、次のように自己紹介してくれました。

「私は、漫画とアニメが好きな、普通のウクライナ人の女の子です」

夢は漫画家、始まった軍事侵攻

日本の漫画やアニメが大好きだというAkariさん。

将来は、日本で漫画家になることを目指して、漫画を描き続けてきました。

安全のため、匿名で取材に応じてくれました

そして、その夢を叶えるため2021年の夏には、インターネット上で見つけた日本の編集者に連絡を取り、直接、自分の作品を売り込みました。

その際に、担当者から提案されたのが「4コマ漫画を描くこと」。

起承転結を1コマずつ描く4コマ漫画は、作品を作る上での基礎的な力が身に付くというアドバイスでした。

あわせて、描いた4コマ漫画を多くの人に見てもらえるようSNSで投稿することも勧められたAkariさん。

10代の女の子である自分自身を投影した「あかりちゃん」を主人公にした作品を描くことを決めました。

しかし、作品を描いて投稿する準備をしていた矢先の2022年2月24日、ロシアがウクライナに侵攻。

そんな中でもAkariさんは、漫画を描くことをやめず、侵攻直後の2月末から、英語の吹き出しを付けた4コマ漫画を、SNS上に投稿し始めます。

たとえ軍事侵攻が続こうとも、自分が今できることをすることが大事だと考えたからです。 

戦時下の日常

軍事侵攻が始まった直後、Akariさんは初めて、4コマ漫画をSNSに投稿しました。

それぞれ「避難シェルターに行く日」「金曜の朝」と題された漫画で、戦時下の10代の女の子の“日常”が描かれています。

地下シェルターに向かう時、持って行くものが選びきれなくて、母親に怒られたこと。
朝、軍事侵攻のニュースが流れる中、母親に起きるよう言われるも、毛布をシェルターに見立てて「この中の方が安全だから」と言って二度寝をしたこと。

Akariさんが最初に投稿した4コマ漫画

Akariさんは、危険と隣り合わせでも変わらない日常があることを、読んでいる人に知ってほしいという思いを、クスッと笑えるようなユーモアも交えて漫画に込めました。 

等身大の女子高生の日々

現在、ウクライナのことが話題になるのは、当然、軍事侵攻に関すること。

ただ、Akariさんは、どこにでもいるような1人の女子高生。これまで通り続く“日常”があることも伝えたいと、あえてそんな4コマ漫画も描いています。

この作品は、髪型を変えたいあかりちゃんのストーリーです。なかなかしっくりくる髪型にならず、悶絶。その上、母親にも怒られてしまいます。

このほかにも、インターネットで買った服が、あまりにサイズが小さすぎて着られなかったことや、母親の誕生日をお祝いし、お菓子を食べたこと。

軍事侵攻があっても、どこにでもありそうな日常を大切にしたい。そんなAkariさんの思いが伝わってくる内容です。

Akariさんは、こうした日常を描き続ける理由について、次のように話しました。

「つらいことがたくさんある中で、常につらいことだけを考える必要はないと思っています。幸い、私は学校に行ったり、絵を描いたりすることができています。私たちがどんな生活をしているのか、少しでも伝わればいいなと思っています」 

あかりちゃんの漫画は日本語にも

Akariさんにアドバイスを続けてきた、出版事業を営む日本の会社。

この作品を、1人でも多くの人に読んでもらいたいと、日本語に翻訳して電子書籍として出版することを決めました。

2022年6月、「ウクライナのあかりちゃん」というタイトルで、出版。

「ウクライナのあかりちゃん」より

Akariさんの漫画の電子書籍化に関わった河田洋次郎さんは、その理由について次のように語りました。

「戦時下でも日常生活があるということに、はっとさせられました。実は当たり前のことですが、私たちと同じように喜怒哀楽があって、いいことも悪いこともある。ニュースでは伝えられることのない現実に気付かせてくれた作品ですし、多くの人に知ってもらいたいと思いました」

希望を失わないためには笑顔が必要

売り上げは、必要経費を除きウクライナへの支援のために寄付されるという「ウクライナのあかりちゃん」。

ロシアによる激しい攻撃が続き、最近ではインフラ施設への攻撃も繰り返されています。

そして、軍事侵攻が長引けば長引くほど、多くの人たちの希望が、打ち砕かれていくことになります。

ただ、Akariさんは、つらいニュースがたくさん流れる時だからこそ、誰かを笑顔にする漫画のような存在も必要だと感じているといいます。

「希望を失わないためには、ウクライナの人たちを笑顔にすることも大事だと思っています。私の作品が、その一助になればうれしいです」

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