向上心だったり反骨心。そういう気持ちがなくなったら選手として終わり

吉田正尚

野球 #自分を奮い立たせたいとき

ことし3月のWBC=ワールド・ベースボール・クラシックの準決勝、メキシコ戦で打った起死回生の同点スリーランホームランは記憶に新しい。

その後も大リーグ1年目で目覚ましい活躍を続けている。
身長は1メートル73センチ、あの大谷翔平より20センチ低く、大リーグではひときわ小柄だ。

しかし、全身を余すことなく使ったバッティングフォームは美しく、そのスケールはデカい。

『天才的』とも言われる吉田のバッティング。
そのルーツをたどると少年時代の指導者からは意外な言葉が返ってきた。

「当時は普通だった」
「天才ではないと思う」

吉田が野球を始めたのは小学1年生の時。
当時から周りの子どもたちと比べて体は小さい方だった。
母の仁子さんにはよく、自身の体格への不満を口にしていたという。

そんな吉田の運命を変えたものがある。


幼いころ、学校に行く直前までテレビにかじりついて見入った大リーグ中継でバリー・ボンズが打った特大のホームラン。
打球は球場の外まで飛んで海に落ちた。
そのボールを拾おうとボートで待ち構えていた多くの人たちが群がる。
衝撃的な光景に、自分も“遠くに飛ばしたい”と強く憧れた。

小柄な自分はどうすれば遠くまでボールを飛ばせるのか、研究が始まった。
家の近くのバッティングセンターに毎日のように通い、力に頼るのではなくボールの軌道を正確に捉えることで遠くに飛ばす技術を磨いた。

家に帰っても研究は続く。
鏡を見ながらフォームを確認し、またバットを振る。
肩や足の位置、体のねじれ、子どもながらに自分の頭で考えた。
いったん素振りを始めると納得するまで終わらない。
家族がくつろぐリビングは占拠された。

中学、高校、そして大学に入っても、スイングへのこだわりを強く持ち続けた。
幼い日に見た憧れに向かってひと振りを磨いた日々。
その努力はプロ野球で実を結ぶ。

オリックスで主軸を担い、首位打者2回、リーグ優勝と日本一も経験した。

「体も一般的だと思いますし、そのなかでトップの選手と戦っていくためには何が必要なのかなというのは小さいときから考えていたのかもしれない。向上心だったり反骨心、そういう気持ちがなくなったらプレーヤーとして終わりなのかなと思います」

大リーグに舞台を移しても『天才的』と言われるスイングに日々、改善を重ね、自分より大きな選手がほとんどの中、1年目から首位打者争いに顔を出している。

アメリカに渡っても、ひと振りを磨き続けるその道に終わりはない。

野球 #自分を奮い立たせたいとき