アスリート×ことば

この日のために頑張ってきた。この日って本当に来るんだな

この日のために頑張ってきた。この日って本当に来るんだな

木村敬一 パラ競泳

2021年9月3日。その日はついに訪れた。東京パラリンピック、競泳男子100mバタフライ決勝。木村敬一が待ち望んできた特別な日となった。

「勝つこと以外、何も考えられなかった。最高のレースをライバルとしたい、いいレースをしたいということも思えなくて、ただ勝ちたいだけ」

前半から力強い泳ぎでトップで折り返し、後半も必死で腕を回し、キックを打ち続けた。自己ベストからは1秒以上遅いタイムながら、金メダルを獲得。思いが涙となってあふれ出た。

「この5年、世界中の誰1人として負けてはいけなかった。この日のために頑張ってきた。この日って本当に来るんだなと思った」

金メダルの最有力候補と期待されて臨んだ前回のリオデジャネイロ大会。決勝で敗れてから5年がたっていた。この間、木村は単身アメリカに渡り、金メダリストを育てたコーチのもとで泳ぎを徹底的に見つめ直した。しかし、待ち望んでいたパラリンピックの開催は新型コロナの感染拡大によって1年延期された。

「トレーニングをしないといけないけど、東京大会に対する世の中の向かい風は強かった。それでも金メダルを取りたいと思い詰めているから、正直しんどかった。心の忙しい5年間だった」

水泳を始めて20年。もがき、苦しみながら、突き進んできた木村がついに手にした金メダル。全盲の木村にとって表彰台で流れる国歌こそが、金メダル獲得を実感できる唯一の瞬間だった。

「勝つというのはこういうことなんだと知った。水泳をしてきた自分を強く肯定できる証しとして、金メダルが取れたので、あしたからは自分が『水泳している』と自信を持って世間を歩きたい」

悲願の金メダルを手にした「この日」から1週間余り。9月11日に木村は31歳の誕生日を迎えた。

「今後は完全に白紙だが人間として次のステージに進まないといけないと思う。次の1年は金メダルをステップにしてさらに大きな人間になっていく駆け出しの1年にしたい」