みなさんの免疫を上げるような走りがしたい

飯塚翔太

陸上

2021年の意気込みを問われた飯塚翔太が力強く語ったことばだった。

「みなさんの免疫を上げるような走りがしたい」

新型コロナウイルスの影響に苦しむ人々を少しでも勇気づけたいという素直な思い。ファンに支えられ、30歳になる今年も第一線で活躍を続ける彼らしいことばだ。
新型コロナウイルスという見えない敵との戦い。前例のない相手に惑わされたのは飯塚も同じだった。

「元気なのに思うような練習ができずもどかしかった。追い込んだトレーニングでもないのに体が張って全然だめだったときもあった」

200mで日本歴代3位の記録を持ち、リオデジャネイロオリンピックの男子400mリレーでは銀メダルに貢献、日本短距離界を引っ張ってきた。そんな経験豊富な選手でさえ満足に練習ができない環境に心と体が翻弄されていた。

「当たり前のようにやってきた練習や試合はありがたいことなんだな」。

失ってから気づくありがたさがある。それを飯塚はひしひしと感じていた。この逆境をプラスにしていくしかないと、過去の自分の走りを映像で見直し、夜道を1人で走り、体を鍛えた。

迎えた2020年10月の日本選手権。
一時的に感染状況が落ち着いていたこともあり、スタンドでは地元のファン2000人がレースを見守った。「パン」という号砲とともにバックスタンド側からスタートを切った飯塚は、好位置でカーブを抜け、ファンが待つメインスタンド前の直線に入った。久しぶりに聞く大歓声。その前で飯塚は先頭を行く小池祐貴を抜いてみせた。トップでフィニッシュラインを駆け抜けたとき、歓声は最高潮に達していた。

「観客から『レースを見ることができて本当に良かった』と声をかけてもらったのが、うれしかった。やっぱりお客さんがいるなかでのレースって楽しいし、力をもらえることを実感した」

彼だけでなく多くの選手が、試合後に感じていたことでもあった。その感謝の気持ちは未曾有の事態を経験したことで、今までよりも大きいものになっていた。
2021年、ふたたび迎えたオリンピックイヤー。感染状況は不透明な部分があるが、飯塚のやるべきことははっきりしていた。

「この状況で疲れとかストレスとかたまっている人って多いと思う。そういった人たちに走りでどれだけパワーを送ることができるか。去年、応援のありがたさに気づくことができたので、今度はこっちからお返ししなくてはいけない。みんなの免疫を上げるような走りがしたい」

力強く語った飯塚の目は、オリンピックで躍動するみずからの姿をはっきりとイメージしていた。

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