100%の実力を出すからこそ、相手へのリスペクトになる

賈一凡

バドミントン

世界ランキング1位で東京オリンピックに臨んだバドミントン女子ダブルスの福島由紀と廣田彩花の「フクヒロ」ペア。
しかし、コートに現れた廣田は右ひざに大きな装具を付けていた。前十字じん帯の断裂という、大けがだ。

進んだ準々決勝は、世界3位で中国の賈一凡と陳清晨のペアを相手に最終ゲームまでもつれる熱戦となった。福島がより広い範囲をカバーし、廣田も精いっぱいシャトルを打ち続けた。1分半にわたってラリーが80回余り続く場面もあった。
しかし、最後は届かず福島・廣田の東京オリンピックは終わった。

試合終了後は対戦相手とネット越しに握手するのが恒例だが、東京大会では感染対策のため、2人もほかの多くの選手と同じようにおじぎで中国ペアにお礼した。
しかし、これだけでは終わらなかった。

賈と陳がすぐに2人のもとに駆け寄り肩に手を当てて抱き寄せたのだ。

「Respect(リスペクト).Respect.」

賈は、廣田と福島、一人ひとりに向けて英語でささやき、敬意を表した。
そして、自分たち側のコートに戻ると賈はコーチを前に何よりも先につぶやいた。

「彩花には、本当に感動させられた」

“彩花”
賈は、国際大会で何度もしのぎを削ってきた廣田に対し親しみを込めて、そう呼んでいた。2015年から数えると16回も対戦してきたライバルであり戦友でもあるからだ。その2日後、賈があの瞬間について語った。制限時間が90秒のインタビュー。比較的ことばは少ないと聞いていた賈が時に涙を流しながら話し続けた。

「私たちはオリンピックの会場に来て初めて、彩花が6月に大きなけがをしたと知りました。この話を聞いた時、私は惜しいなと思いました。ライバルではありますが、私たちはみんな自分の好きなこと(バドミントン)にたくさんの力を注いできたんです」
「いま、この話をしていても、少し感動して…」

マスクの上にこぼれ落ちた涙を両手で拭いた。

「彩花も、きっと日本の人々の期待を背負っていたと思います。けがをしたあと心の中ではどれほど苦しかったか、私も手にとるようにわかります。コートに立ったら私たちも100%の実力を出すからこそ、相手へのリスペクトになると思います。私たち4人は、あの日十分にオリンピック精神を証明できました」

制限時間を1分すぎても、廣田を称えることばがあふれ続けた。そして、賈は去り際に記者に託した。

「彩花に必ず伝えてください。『また、会おう』って」

バドミントン