旧車をレストア 技術者が学ぶ“ものづくりの原点”とは

製造業の現場では年々自動化が進み、熟練の技術をどう継承していくかが課題となっています。こうした中、大手自動車メーカーの技術者たちが、60年以上前に造られた車を復元する過程を通じてものづくりの原点を学びました。

復元プロジェクトで「人を育てる」

光り輝くクラシックカー。技術者約70人が力を結集させて出荷当時の状態に復元しました。

復元する前は、見た目はきれいでしたが、解体するとさびも見つかり使えない部品も多くありました。

解体すると、さびもあった
復元作業に臨む技術者たち

そこで、今の車には使われていない部品は新たに製作し、ボディーのへこみも時間をかけて丁寧に修復しました。

自動車の生産ラインは今、ロボットが取り入れられるなど日々自動化が進んでいます。だからこそ逆に、技術者自身のレベルアップが欠かせないとして、復元プロジェクトが始まりました。

試作中の次世代ライン

大手自動車メーカー 河合満 エグゼクティブフェロー
「今の“自動化”って誰がやったの?といったら、ベテラン・匠の人間が『こういう力でこうやったらいいものができるよ』(と導入した)。ロボットがうまいわけじゃなくて、教えた人がうまい。だから、もっとうまい人を育てる」

河合満さん

手書きで図面作成 ミシンで縫製

シートを復元する中で技術者たちが驚かされたのが、細部まで徹底的に作り込まれたデザインです。例えばシートの「たまぶち」というデザイン。復元に携わった岡本英昭さんは「今のシートではなかなか使っていない。縁をとって形をきれいに見せるのと、滑り止めみたいな機能を持たせている」と説明してくれました。

シートの「たまぶち」

設計図は残されていなかったため、シートをはがして手書きで図面を作成しました。

そして、ふだんはプラスチックの成形を担当している技術者がミシンでの縫製を体験し、限られた設備と材料で品質を高めていた、当時の技術者の思いに迫りました。

きめ細かな創意工夫「印象に残った」

また、メーターの復元を通して技術者たちが学んだのは、当時の技術者の豊かな発想力でした。復元に携わった川岡大記さんは、メーターの針が「(時速)50キロまでは緑色に光って、50キロを超えると赤く光る機能がある」と説明してくれました。

時速50キロまで(左)と50キロを超えた状態(右)

そのからくりは、メーターにある小さな穴でした。部品の色づけと、裏側からの光で色が変わる仕組みにしていたのです。

メーターの復元に携わった川岡大記さん
「ちょっと穴を開けるだけ、ちょっと色を変えるだけ、そういうことを昔からわれわれの先人は、やってきていたというのが、すごく印象に残った」

「人間の感性に数字は勝てない」

復元に参加した社員たちは、これからのクルマづくりに必要なのは、最先端の「技術」と人が持つ「技能」がともに進化することだと改めて胸に刻みました。

河合エグゼクティブフェロー
「やっぱり人間の持つ感性というものには、絶対に数字では勝てない、今の技術では勝てないものがある。それで負けるようでは、僕は競争力がなくなっちゃうと思う」

美しく復元して走行テスト

今は部品の設計がコンピューターで行われたり、製造装置が進化したりしています。しかしそうした環境がない時代に創意工夫でものづくりを行った、いわば“手づくりの感性”に、ものづくりの原点を見いだそうという試みのようです。

このメーカーでは2024年、車の復元プロジェクトの第2弾もスタートさせる予定だということです。新しい時代の車づくりにつながっていくことを期待したいと思います。
(名古屋局 早川沙希)
【2023年11月17日放送】
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