世界的に車の電動化が進む中、「リチウムイオン電池」の需要拡大が見込まれています。その製造に欠かせない鉱物の一つ「黒鉛」を巡って、資源国カナダが注目されています。
需要拡大する黒鉛 採掘に乗り出したカナダ企業
カナダ・ケベック州にある黒鉛の鉱山の採掘現場。カナダの現地企業が新たに採掘に乗り出しました。
黒鉛はEV=電気自動車の電池の製造に不可欠で、需要が高まっています。この鉱山で掘られた黒鉛も電池の材料に使われることになっています。
採掘を進めるカナダの企業「ヌーボー・モンド・グラファイト」の創業者、エリック・デソルニエさんは、産地が少ない北米での黒鉛の生産にチャンスを感じて事業を始めました。3年後には年間約10万トンの黒鉛を生産する予定です。
黒鉛の採掘を進める企業 エリック・デソルニエCEO
「現在の黒鉛の生産計画でも北米の発展を支えるには不十分だ。(EV市場は)成長が続くと期待しており、さらに多くのことをしないといけない」
世界生産の65%占める中国 12月から輸出規制
いま、黒鉛の安定供給が難しくなるリスクが浮かび上がっています。世界の生産量の65%を占める中国が、12月から黒鉛の関連品目について輸出規制を始めると10月に発表したのです。
調達を中国に頼ってきた日本も、一国に依存することへの懸念が高まりました。
アメリカは“北米産EV”を優遇
こうした中、新たな調達先として特に注目されているのがカナダです。
背景にはアメリカでのEV普及の促進策があります。EVを購入する際に、一定の条件を満たしたもの(カナダなどの北米で電池の部材が製造され、北米で組み立てられるなどしたEV)を購入すれば、日本円で最大約110万円の税制優遇が受けられます。
このため日本の自動車メーカーが相次いでアメリカでEVを生産することを打ち出し、黒鉛をカナダで確保できるかが重要になっているのです。
日本の商社 カナダ企業と連携
カナダの黒鉛の需要拡大を見込み、すでに現地の企業と連携を深めている日本の大手商社もあります。
取材した日、「米国三井物産」の責任者が、デソルニエさんの企業の鉱山を訪ねました。
デソルニエさんの企業は黒鉛を採掘するだけでなく、電池の材料に加工するまでを一貫して手がける計画で、日本の電池メーカーとも技術協力しているということです。
日本の大手商社は日本円で約37億円を支援していて、計画を後押しする方針です。
日本の大手商社 茂木輝哉さん
「グローバルでEV化の動きが進んでいく中で、サプライチェーンの多様化という意味でも非常に大きいのではないか」
黒鉛の採掘を進める企業 デソルニエCEO
「将来、北米で電池材料をメーカーに提供し、中国市場に代わる選択肢となりたい」
日本・カナダ 政府間の結びつきも強まる
日本とカナダは、政府間でも黒鉛などの重要鉱物の安定供給などに向けて9月に覚書を交わすなど、官民で結びつきが強まっています。
(アメリカ総局 江﨑大輔)
【2023年11月9日放送】
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