『半導体戦争』著者が語る 米中の分断と“台湾化”そして日本は?

半導体を巡る各国のしれつな競争を描き、アメリカメディアが選ぶベストセラーにもなった書籍「CHIP WAR」(日本語翻訳版は「半導体戦争」)。半導体は、コロナ禍による供給不足で自動車や給湯器がつくれなくなるなど私たちの生活に関わる一方、米中が対立する中で経済安全保障上の規制の対象にもなっています。

この本の著者、クリス・ミラー氏に、半導体を巡る世界の潮流や、日本のとるべき戦略について聞きました。

製造の“台湾化”がリスクに

クリス・ミラー氏

アメリカで気鋭の国際歴史学者として注目される、タフツ大学フレッチャースクール准教授のクリス・ミラー氏は、半導体の重要性を次のように語ります。

クリス・ミラー氏
「半導体は経済のグローバル化にとって重要であると同時に、軍事システムの製造で中心的な役割を果たすため、軍事力のバランスにとっても重要だ。現代の戦争では、軍隊は半導体に決定的に依存している。西側諸国が半導体と軍事システムをウクライナに供給していることが、ロシアの軍事侵攻からの防衛の成功につながっている」

安全保障の分野でも半導体の重要性が高まっているにもかかわらず、その製造が受託生産で世界トップの台湾の「TSMC」に集中していることを、ミラー氏は著書の中で“台湾化”と呼び、大きなリスクだとしています。

台湾の半導体大手「TSMC」

ミラー氏
「中国が軍事的に台湾を脅かすようになったにもかかわらず、台湾への依存度を高めてしまったのは大きな誤りだった。世界のコンピューティングパワー(計算能力)の3分の1以上は台湾製の半導体がもたらすため、台湾の半導体へのアクセスを失うと、世界経済は数兆ドルもの損失に直面する」

半導体巡る米中関係 「分断は初期段階」

アメリカのバイデン政権は2022年、日本円で約7兆円を投じて、国内での半導体生産を後押しする法律を成立させました。台湾への依存度を下げ、有事の際に代替の供給源を確保するためだとミラー氏は指摘します。

バイデン政権は半導体の国内生産を後押し

さらに、中国に対して半導体の関連製品の輸出規制を一段と強化していることについては、次のように述べました。

ミラー氏
「アメリカは、中国のAIが進歩して諜報機関や軍事システムに配備されることを恐れている。輸出規制は軍事面だけでなく民間にも影響があるのは確かだが、その影響を区別することはできない。AIの半導体は、すべてコントロールするか、全くしないかのどちらかしかない。世界の分断は初期段階だと認識すべきで、サプライチェーンの混乱はまだ続くだろう」

日本の半導体産業 復活のカギは

日本は台湾のTSMCの工場を熊本県に誘致するとともに、先端半導体の国産化を目指す「Rapidus(ラピダス)」をトヨタ自動車など主要な企業8社が出資して設立しました。

熊本県菊陽町で建設が進むTSMCの工場
「ラピダス」に出資する主要企業8社

ミラー氏は最後に、日本の半導体産業復興のカギについて次のように述べました。

ミラー氏
「半導体産業で後れをとらないためのカギは、消費者や産業から需要がある次の技術を常に見つけることだ。日本もほかの国も、すべての企業が技術の動向を把握し、現在だけでなく、5年後10年後に伸びる需要に対応した製品をつくるべきだ」

半導体産業の復興に向けては、政府と企業がいかに足並みをそろえて連携を強化できるかも重要になってくるとみられます。
(アメリカ総局 江﨑大輔)
【2023年4月20日放送】
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