日本の半導体 巻き返しなるか「Rapidus(ラピダス)」小池淳義社長に聞く

注目分野のリーダーに、ことしにかける思いを聞く「2023 注目の人に聞く」。初回は、2022年に設立された半導体の新会社「Rapidus(ラピダス)」の小池淳義社長です。国内の主要企業から出資や国の補助を受け、先端半導体の国産化に挑みます。

かつて世界トップシェアを誇った日本の半導体が“周回遅れ”とも言われる中、どう巻き返しを図るのか。新会社の戦略や課題を安藤隆キャスターがインタビューしました。

「この機会を逃せば将来はない」

小池さんは日立製作所を皮切りに、40年以上半導体産業に身を置いてきました。まず、日本が世界に比べて周回遅れとも言われるようになった現状について、質問しました。

ラピダス 小池淳義社長
「これはもう『将来はない』っていうぐらいの危機感を持っていた。いまこの半導体が、あらゆるものに使われている。昨今、何でこれだけ半導体が注目されているかというと、自分の買いたい車が手に入らない、家電製品も手に入らない、全然手に入ってこない。それが1つの半導体が手に入らないってことで、これはよく見えなかったけどすごく重要なんだっていうことを皆さんが理解していただけたんですね。これは今までなかったことだと思う。だからこそこの機会を逃してしまったら、日本のあらゆる産業はだめになる。あるいは日本だけでなくて世界がおかしくなると感じ取っていた」

小池淳義社長

日本の半導体の現状は?

いま日本の半導体は世界の中でどれくらいの位置づけなのでしょうか?

半導体は、回路の幅が「1ナノメートル(1ミリメートルの100万分の1)」という単位で開発競争が行われ、幅が細いほど性能が上がります。

先端半導体を巡っては、韓国の「サムスン」と台湾の「TSMC」が3ナノメートルの製品の量産化に成功していて、2025年には2ナノメートルの実用化も目指しています。一方日本は40ナノにとどまっています。

巻き返しへの戦略は?

こうした中、新会社は2027年をめどに一気に2ナノを量産化して挽回を図る方針です。“言うは易く行うは難し”の面もありますが、具体的にどのような戦略を描いているのか、聞きました。

小池社長
「そんなことできるのかという人が多いんですけども、逆にこれはチャンス。いきなりジャンプアップする。プロセスとか技術は全然違う領域に入るから、いきなりジャンプアップしたときに、他の一生懸命ステップを踏んで一生懸命やってきた人に追いつけるチャンスでもある」
「必ずしも事業拡大とばく大な工場をつくろうということは考えていない。先端のものほど利益率は高い。これは何を意味しているかというと、先端であったとして、そこはばく大な投資がいる。だけども、それを払ったとしてももっともっと高いプライス(価格)で買ってくれるお客がいるということ。だからわれわれは、そういう世界の人たちと一緒になってやっていこうと思って、お互いにどういったバリューを生み出すかという形で、新しいモデルを、先行した技術を追っていく形ですね」

いちばんの課題は「人材」

ただ実現に向けては、人材確保や資金などさまざまな課題があるとみられます。

小池社長
「やっぱり『人』、『もの』、『金』で言うと、いちばん大事なのは『人』。これがないと他のもの、金やものがあってもどうにもならない。だから優秀な人材がいちばんだと思っている。われわれずっと考えているのは、当然優秀な人に来てもらう、これも大事なことですけど、優秀な人を育てることだと思う」
「私もいろんな大学でボランティアで教えていて、そこでも半導体の素晴らしさを教えているが、なかなか、今は『半導体は大事だ』と皆さんが分かってきたけれども、人気はなかった。だけどもっと早い時期からこの半導体の魅力、何でこれが必要なのっていうことを教えていけば、素晴らしい世界が見えていくと思う。そういうことを早く知らしめることが必要。こんなものがあったならば、こんなすごい世界がつくれるということを知るチャンスがあれば、『私もこれにチャレンジしてみよう』というふうになっていくと思う。でも、今のところそういう機会とかチャンスはほとんどないと思うんですね。全く見えないし、一般の方々も半導体って言ってもピンとこない。こういうことを改革していきたい」

「“自前主義“で国際競争に敗れた」日本 新会社、IBMと共同開発へ

一方小池さんは、国内の半導体産業が衰退した原因について、“自前主義”で国際競争に敗れたと話しています。

小池社長
「(1980年代に)50%のシェアを取っていたときに、日本は全部、自分でできると思った。ものすごい勢いで設計も含めて前進したものだから、自前で全部できるというふうに思ってしまったのは、私は失敗だったと思う」

そこで周回遅れの技術を巻き返すため、2022年12月にパートナーシップを結んだのが、2ナノの開発に成功したアメリカ「IBM」です。

小池社長
「先端のナノシートのコアのテクノロジーはIBMが20年以上の歴史を持っていて、非常に優れている。IBMさんは研究開発は得意だけど、最終的なものづくりに関しては、やっておられないので、そこはわれわれの大事なポイントになる。残念ながら日本は長い時代の間に相当技術は後れたわけですけども、ものづくりに関しては私はやっぱり日本は非常に得意だと思っていて、ここで真のコラボレーションができるんじゃないかと考えていた。大事なことは、お互いに信じ合える関係が築けるかどうかということは、いちばん大事なことで、われわれとしても推進していきたい」

2023年「具体的に動き出す大事な年」

小池さんはことしIBMに人を送り込むなどして、人材の育成や確保に力を入れるといいます。2023年がどれほど重要な年になるかを聞きました。

小池社長
「ラピダスにとって、まさにふもとで、これからちょっとずつ登り始めるわけですけども、ある程度の人員計画に基づいて、優秀な人々を日本あるいは世界から集まっていただくことを着実にやっていくことが大事。われわれの精鋭部隊を送り込んで学習することを具体的に進めていく。2023年は具体的に動き出す非常に大事な年。『できないことなどないんだ』という信念を持って頑張っていきたい」

人、もの、金。あらゆる面で課題は多く非常にチャレンジングである一方、今回を逃せば、日本の先端半導体産業は“次はない”という意識も官民で共有されています。成果が問われます。
【2023年1月4日放送】
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