経済安保とは?なぜ今必要?経済安全保障をイチから解説

経済安全保障の強化を図る「経済安全保障推進法案」が国会で審議入りします。新たな法案のポイントは?サプライチェーンは守れるか?解説します。

モノの供給リスク高まる

最近、暮らしや産業に欠かせないモノや材料が不足する事態が相次いでいます。新型コロナの感染の広がりでは一時マスクが不足したほか、ワクチンは海外製に頼る状態です。また半導体不足で自動車の生産が止まったり、この冬には給湯器が買えなかったりする事態も起きました。

こうした事態は企業のサプライチェーン(供給網)が世界中に広がっていることから起きています。ひとたび何かが起きるとモノが入らなくなるリスクが高まっています

またアメリカと中国が先端技術の開発で対立を深めてきたことも企業のリスクになっています。こうした経済面の脅威に国も備えなければならないというのが「経済安全保障」のポイントです。

ウクライナへの軍事侵攻でもリスクがあらわに

経済安全保障に詳しい同志社大学大学院ビジネス研究科の村山裕三教授はこう話します。

村山教授

「中国とアメリカの技術覇権競争が出てきた。今回はロシアのウクライナ侵攻が出てきた。これは安全保障リスクになる。安全安心が脅かされた時に、企業が対応できる体制にしておかなければいけない。ただ経済活動だけやっていれば企業が存続するということではなくて、そういうリスクファクター(要因)をうまく経営戦略の中に入れないといけない。そういう時代が来た」

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻でもサプライチェーンのリスクがあらわになっています。

例えばネオンという希少なガスは一部の半導体の製造に欠かせないもので、ウクライナが一大産地になっています。現時点では国内への影響は出ていませんが世界的な供給不足に警戒感が高まっています。

経済安保法案「4つの柱」とは

国会で審議入りする経済安全保障推進法案には4つの柱があります。

1つが「サプライチェーンの強化」です。半導体やレアメタル・レアアース、医薬品などを「特定重要物資」に指定し国の関与を強めます。企業の調達ルートや保管状況をチェックして特定の国に頼りすぎてしまうリスクを減らそうとしています

サプライチェーンの見直しに対し国が財政支援することも盛り込まれています。

また日本がみずから先端技術を守ることも安全保障上、重要です。法案では「先端技術の開発支援」や「特許の非公開化」で技術流出を防ぐ制度を柱に据えています。

さらにサイバー攻撃から電力や通信などのインフラを守る制度も盛り込まれています。

こうした制度は、アメリカやヨーロッパ各国でも対応が進んでいます。

求められる企業活動とのバランス

それでは企業側は、国の関与を強める法案についてどう受け止めているのでしょうか。経済界は必要性を認めて法案を支持していますが、負担は最小限にしてほしいと求めています。

同志社大学大学院の村山教授は、政府と企業の議論を課題に挙げています。

「(国は)競争を維持するためには安全保障の範囲をできるだけ狭く絞る。いちばん重要なポイントをしっかりやって、あとは自由に企業活動に任せる。今までの政府と企業の関係よりも、より密な突っ込んだ話し合いをこれからしないといけない」

ウクライナ情勢や米中対立で国際情勢は厳しくなっています。そうした中でサプライチェーンを強くするために政府と企業の連携はある程度は必要だと思います。

課題は政府の関与と自由な経済活動のバランスです。国会の審議で議論が深まっていってほしいと思います。

(経済部 デスク 布施谷博人)

【2022年3月16日放送】