“TSMCインパクト” 期待と不安

「TSMC」は半導体の受託生産で世界最大手の台湾メーカーです。日本政府の誘致に応じ、ソニーグループと共同で熊本に新しい工場を建設すると2021年10月に発表しました。地元では経済効果への期待が広がる一方で、課題も見えてきています。

熊本の半導体関連産業にビジネスチャンス

TSMCは熊本県菊陽町の工業団地に新工場を建設し、2024年の生産開始を目指しています。半導体産業が集積する熊本では期待が広がっています。

半導体や半導体製造装置の部品のめっき処理を手がける会社「オジックテクノロジーズ」では、22年春にラインを増やし、装置部品を加工する能力を2倍に増やす計画です。

めっき処理は製品の耐熱性や耐久性を高めるのに欠かせません。TSMCの進出はビジネスチャンスになると期待しています。

金森秀一社長

「熊本に立地していただくことは非常にありがたい。われわれの技術レベルを上げていくことにもつながる」

課題は技術者不足

一方、課題は人材の確保です。半導体需要の高まりで、ソニーグループが長崎の工場を拡張するなど各地で半導体関連の設備投資の動きが相次いでいて、技術者が不足しているのです。

1500人を雇用するTSMCが進出すれば、人材の獲得競争がさらに厳しくなると見られています。

金森社長

「(生産を)支えるための人材はこれからしっかりと体制を整えていく必要がある。(TSMC進出で)高揚する部分と、しっかりやらなければならない部分と両方ある」

地元の教育機関 育成へ新カリキュラムも

半導体の技術者を育成しようと、地元の教育機関が動き始めています。菊陽町にある熊本県立技術短期大学校では、2学年で200人が電子回路の設計やプログラミングを学んでいます。

TSMCの進出で学生のモチベーションも上がっています。2年生の平井隼さんは「学校で学んだ知識を少しでも生かして、今の最先端技術に携われるような技術者になりたい」と話します。

学校は新たな授業内容などを検討して半導体人材の育成を強化したい考えです。

尾原祐三校長

「TSMCあるいは地元企業のニーズをしっかりと把握して、われわれの技術短期大学校、熊本大学、高専と情報共有しながらカリキュラムを作っていきたい」

人材育成・新工場誘致の好循環を

人材不足の課題は九州に限りません。人材紹介会社のリクルートエージェントによると、2021年の半導体関連の求人(全国)は、2016年の4倍余りに増えています

政府がTSMCを誘致した背景には、先端半導体の確保に加え、最新の工場の誘致をきっかけに関連の人材を育成し、人材の供給能力を拡大していくことで新たな工場の誘致につなげるという好循環を目指す思惑もあります。

政府は半導体人材の育成を強化するため、産官学のコンソーシアムを22年3月に立ち上げることを目指しています。企業のニーズにあった人材をどれだけ育てられるかが今後のカギとなります。

(熊本局 記者 馬場健夫)

【2022年2月3日放送