事業承継 カギは企業の情報公開にあり?

企業の経営を引き継ぐ「事業承継」。しかし、後継者を探す労力や時間が壁となり、廃業する企業があとを絶ちません。より効率的に後継者を探そうと、企業の情報を全国に公開し、オンラインで後継者を募る試みが始まっています

75歳店主「すし屋の灯、消したくない」

福井市の堀江富夫さん(75)は、すし店を営んでいます。店は45年前に開業し、地域のいこいの場として親しまれてきました。

堀江富夫さん

常連客の中には「25年ほど使っている」という人もいます。別の常連客は「すごくおいしい」と味わっていました。

しかし堀江さんは1月、持病の糖尿病に過労が重なり、3か月入院しました。そして1日おきの人工透析が欠かせなくなりました。後継者がいない中、店をたたむことも頭をよぎったといいます。

休憩中、杖で体を支える

すし店経営 堀江富夫さん
「すべてのお客さんの顔が浮かぶ。だからどうしても、すし屋の灯を消したくない」

店名・事業内容 あえて公開するねらいは?

堀江さんは金融機関に相談を持ちかけました。すると、あることを提案されました。

事業者の情報を全国に公開し、オンラインで後継者を募る会議を開く提案です。通常、企業の売却の交渉は、経営不安を招くおそれなどから非公表で行われますが、あえて店の名前や事業内容を公開し、速やかな事業承継につなげようというねらいです。

提案した日本政策金融公庫の担当者
「顔を見て話していただくことで、事業承継したい人にもイメージがわきやすくなるのかなあと思う」

当初は名前を出すことに抵抗を感じた堀江さんでしたが、店を残したいと提案を受け入れました。

堀江さん
「(最初は)『名前出してもらったら困るよ』と。そういう心境だったけど、今はさっぱりしている。自分がこの年になってやれることは決まっているから」

オンラインで発信 「事業がつながる」

福井商工会議所で開かれた会議の当日。堀江さんは、経営者や企業の担当者など70人余りにオンラインで説明を行い、次のように話しました。

堀江さん
「女房と私がサポートして、ずっと店に張り付くから、3年あれば、いっぱしの職人になれると思う。頑張れる方につないでいきたい」

プレゼンのあと、さっそく詳しく説明を聞きたいという人が現れました。堀江さんはオンラインで相手に語りかけました。

堀江さん
「一度お目にかかって、オーナーになられる方の気持ちなんかをじかにお話しできたら」

そして具体的な交渉に向け、近く会うことを約束しました。

堀江さん
「こうして縁ができる、結ばれる、新しい方向へ夢も見られる。自分がやってきた事業が新しい人につながるということは、もう私の生きがいだったし、ありがたい話です。きょうはもう、感謝、感謝です」

「あまりにうれしくて、ちょっと感動しました」

堀江さんが出席した事業承継のためのオンライン会議は、日本政策金融公庫が2022年から試験的に始めたもので、これまでに30社余りが参加し、すでに事業承継が決まったケースもあるということです。
(福井局 宮本雄太郎)
【2023年9月29日放送】
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