“豊島事件” 産業廃棄物 不法投棄事件の教訓を伝える

瀬戸内海にある香川県の豊島(てしま)では、30年以上前に国内最大級の産業廃棄物の不法投棄事件が発覚し、地元の企業が摘発されました。

その後、県は廃棄物の撤去や地下水の浄化などを進めてきました。2023年3月に国の財政支援が終了し、約20年にわたった県の処理事業も一つの区切りを迎えました。ただ地下水の汚染状態は元に戻っておらず、最終的な解決には至っていません

こうした中、事件の教訓を後世に伝えていこうと住民や企業が取り組んでいます。

進む高齢化 風化の懸念

周囲20キロに満たない小さな島に持ち込まれた大量の産業廃棄物
現在は整地されている不法投棄の現場

豊島で産廃の不法投棄が始まったのは昭和50年代でした。地元の業者に香川県が許可を出すと、自動車部品の廃材や汚泥などが次々と投棄され、土壌や地下水が汚染されました。

豊島で暮らす安岐正三さんは、住民側の代表団「豊島住民会議」の一員として問題に携わってきた経験から、この島で起きたことは社会全体が記憶するべき問題だと感じています。

安岐正三さん

豊島住民会議 事務局長 安岐正三さん
「付けを残さない社会というのは、どうやったらつくれるのかということですよ。付けを残したんでしょ?ものすごい付けを残したんでしょ?一生で元に戻らないというのは」

しかし島民の高齢化は進む一方で、事件の風化を懸念しています。

企業は豊島から何を学ぶのか

島民が期待を寄せるのが、事件の歴史を学ぼうと研修などで訪れる人たちの存在です。その一つ、衣料品チェーンを展開する「ファーストリテイリング」は毎年4回、豊島での研修を行っています。事件の歴史を学んだり植樹をしたりするなど、延べ1500人が研修に参加してきました。

研修の参加者たち
「有害物質は空気と水で運ばれる」。安岐さん(左)が説明した

豊島で研修を行うきっかけは20年ほど前、柳井正会長兼社長が島を訪れたことでした。

衣料品チェーン コーポレート広報部 シェルバ英子 部長
「不条理なことが美しい島で起きてしまったことに対して、やはり一度見てしまったからには放っておくことはできない。こういう問題があったことも伝えていかないといけない」

こうした取り組みは、店舗で大量に発生するごみのリサイクルの徹底など、意識改革にもつながっているといいます。

豊島での研修に12回参加 衣料品チェーン 益川清香 店長
「島に行ってからは、ビニール・こん包材が多いなと、より思うようになった。『こうしたらごみを回収して利用できる』という会話が、日常の一つとして出てくるようになった」

「未来に付けを回さず、持続可能な社会を」

住民の安岐さんは、こうした企業の行動が何より重要だと考えています。

豊島住民会議 事務局長 安岐正三さん
「みんなが知恵を出し合って、いろんな人が知恵を出し合ってあるいは行動して、よりよい環境、社会を次の世代に。次の世代はそれで満足するのではなくて、もっといい、付けを回さない、持続可能な社会をずっと引き継いでいく」

豊島には22年度だけで4つの企業や団体が訪れ、研修などを行ったそうです。いったん環境が破壊されると、元に戻すにはものすごく時間がかかります。企業はこの点と、地元住民の思いに寄り添いながら、ビジネスの成長と環境への配慮の両立に取り組んでいかなくてはなりません。
(鈴木博子)
【2023年4月11日放送】
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