震災から12年 被災地を支え続ける起業家たち

東日本大震災から12年。「復興のため役に立ちたい」「被災した人々の助けになりたい」と被災地で起業した人たちがいます。

ビジネスを通じて地域や社会の課題解決を目指す人を「社会起業家」と言います。震災当時ボランティア活動に励み、その後、被災地に移住した3人の社会起業家を、宮城県石巻市で取材しました。

漁師との会話から林業再興へ起業

宮城県石巻市の森林で、3年前から開かれているチェーンソー教室。初心者向けは1回4000円余り、上級者向けは3か月で約14万円。これまでに50人を超える人が受講しています。

森優真さんはこの教室を立ち上げ、みずから講師を務めています。震災当時、東京都内で会社勤めをしていた森さんは、すぐにボランティアとして石巻を訪れました。

森優真さん

森さんは、津波で大きな被害を受けたカキの養殖場を見て「なんとか役に立ちたい」と考えました。この時、漁師から聞いた思わぬことばが、林業に携わるきっかけになったといいます。

森優真さん
「いちばんのきっかけはカキの養殖漁師さんとの会話の中で、この地域で昔から『山が枯れると海が枯れる』って。ちょっとこれは、海のために山もやらなければと」

しかし、ボランティアとして活動を続けるには費用面で限界を感じたといいます。森さんは石巻市に移住し、林業について一から学び、地域の課題となっていた林業の再興に向けて新たな会社「もものわ」を起業したのです。

森さん
「ボランティアだけでは長期的に続けられないという実感があった。その思いの部分と、それを実現させるための仕組み、お金も含めた仕組みっていうのを、いかに両立させられるかみたいなところが大きなポイントかなと思う」

担い手不足でほとんど手つかずだった山は、森さんの事業によって間伐が少しずつ進み、再生に向けて変わり始めています。森さんはさらに、伐採した木の利用を広げるため、家具などの受注生産を始めました。

取材した日、森さんは、いすなどを注文してくれた仙台市内の飲食店「バーム」を訪ねました。店のオーナーの阿久津光さんは、ビジネスをすることで被災地と関わり続けようとする森さんの姿勢に共感したといい、「おもしろいことしている人たちいるなと思って。話をしているうちに活動内容に共感を持てて」と話します。

石巻で伐採された木材を使ったいす

移住してきた森さんが大切にしているのが地域の人たちとのつながりです。時間があれば人々のもとを訪れ、会話を重ねるなかで新たなニーズに気付くといいます。

地元の歴史ある寺の住職と語らう森さん(左)

森さん
「地域をきちっと知るというか、(石巻の)住民さんといろいろ話すなかで、上っ面でなく本質的なニーズというか、求められているものみたいな。結果的に社会課題にアプローチし続けられるんじゃないかな」

被災地発 全国に広がる事業も 地域でカーシェアリングの仕組み

石巻市にある「日本カーシェアリング協会」の代表理事の吉澤武彦さんは、震災をきっかけに「コミュニティ・カーシェアリング」と呼ばれる仕組みをつくりました。

吉澤武彦さん

利用者が個人で車を借りる普通のカーシェアリングと違って、コミュニティー単位で車をシェアし、利用する人たちどうしが移動する先や利用頻度などのルールを決める仕組みです。

震災後、被災地でボランティア活動をしていた吉澤さん。仮設住宅で暮らす人のなかに車が津波で流され買い物など日常生活に困っている人が多くいることを知り、仮設住宅単位で車をシェアする仕組みをつくったのが始まりです。

今では、町内会や公営住宅、交通手段の少ない農村地域など、全国各地に広がり始めています。

吉澤武彦さん
「大切なことは、地域で求められているニーズに対して、スムーズに運用できる“ひな形”をつくることだと思う。当初は仮設住宅で始まったが、日本全体で高齢化に伴い交通弱者の方は増えていて、その共通課題に応えることができたのだと思う」

今ではこの仕組みを通じて、孤立しがちなお年寄りの仲間づくりや、居場所づくりが行われるなど、さまざまな社会課題の解消につながっているそうです。

空き家をリノベーション 求めている人にマッチング

石巻市の会社「巻組」の代表取締役、渡邊享子さんは、震災をきっかけに、空き家をリノベーションし必要とする人にマッチングさせるビジネスを始めました。

渡邊享子さん

渡邊さんは震災のあと、被災地でボランティア活動をしていた時、大規模に造成された住宅地やマンションを目にしました。一方、空き家に困り、無料でもいいから引き取ってほしいという大家からの声もありました。

空き家は人口減少が続く日本の共通課題でもあることから、渡邊さんは、空き家をリノベーションして新たな価値を見いだし、入居希望者に貸し出すビジネスを始めたといいます。

リノベーションされた住宅(山田真優美さん撮影)

渡邊享子さん
「震災後、多くの人が住宅を必要としていて住宅の供給は重要でしたが、一方で、高齢化にともなって空き家の問題も深刻でした。これは日本全体で起きていることだととらえ、起業することにしました。」

渡邊さんの会社が注目したのが、「ちょっと移住体験をしてみたい」「その地域で暮らしてみたい」といった20代や30代の単身者のニーズです。

会社では、オンラインでの内見や、ひと月単位での入居、審査を簡略化するなど、希望者が入居しやすい仕組みを取り入れました。通常の不動産会社では拾い切れないニーズにきめ細かく対応することでユーザーを獲得していくねらいだそうです。

社会起業家のビジネスのポイントは

移住した社会起業家にとって大切なポイントについて、専門家は次のように話しています。

(経済番組 津田恵香)

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