暗号資産 業界大手FTX破綻で広がる波紋

  • 国際経済

「暗号資産」とはインターネット上でやりとりする資産で、ビットコインなどがよく知られています。この業界の大手「FTXトレーディング」は、多くの顧客から暗号資産やドルなど巨額の資産を預かっていました。

しかし財務の健全性を疑問視する声が上がったのをきっかけに、投資家による資産引き出しの動きが殺到し、2022年11月に経営破綻しました。

負債総額は少なくとも1兆円を超え、債権者は100万人を超える可能性があり、アメリカで深刻な影響が広がっています。

子どもの教育資金に、結婚指輪のために…失われた資産

テレビで報じられるFTX破綻の波紋(ABCニュース)

アメリカで連日のように報じられるFTXの破綻による波紋。顧客の資産を流用したなどとして詐欺などの罪で起訴された創業者のバンクマンフリード被告は、顧客からビットコインなどの暗号資産を預かり、年利8%など高い利子を支払うことをうたっていました。

創業者のバンクマンフリード被告

コロラド州で暮らす薬剤師のエミルさん夫婦は、日本円にして1000万円余りを大学に通う娘の教育資金として貯めていて、FTXに預けていました。

FTXの経営不振の報道を知り、慌てて資産の引き出しを試みました。しかし引き出すことができず、今も資産は戻ってきていません。

エミルさん
「(FTXは)よい選択肢のように見えた。お金を賭ける必要もないし、リスクがないように感じた」

ネット上にも被害を訴える声が相次いでいます。ある男性は「彼女を驚かせようと1万ドル(130万円)以上預けていた」と書き込み、結婚指輪を買うための資金を失ったと訴えました。

連鎖的破綻も

FTXの破綻によって暗号資産業界の経営環境が悪化し、連鎖的な破綻も起きています。23年1月19日には、ニューヨークを拠点とする暗号資産の貸し付け会社など3社が経営破綻しました。FTXの破綻が、暗号資産業界の信用に影響したと見られています。

自治体にも影響広がる

影響は自治体にも広がっています。フロリダ州マイアミ市は暗号資産ビジネスの積極的な誘致を行ってきました。スアレス市長は2021年6月、動画で次のように話していました。

マイアミ市 スアレス市長
「マイアミ市は市民を、さまざまなチャンスと暗号資産がある新しい世界に導こうとしている」

マイアミ市がある広域自治体が保有しているスタジアムは、FTXに対して命名権を売り、19年間で約175億円を受け取る契約を結んでいました。しかし破綻によって新たなスポンサー探しに追われています。

FTXに命名権を売ったスタジアム

専門家 「国際規制」の必要性を指摘

暗号資産について、商品先物取引委員会の元委員長を務めたティモシー・マシッド氏は、国際的な連携による規制の必要性を指摘しています。

商品先物取引委員会 元委員長 ティモシー・マシッド氏
「暗号資産業者に対して非常に規制が弱かったことが大きな問題となった。まず各国が自国で法律をつくり、協調することで、強力な国際規制になる」

日本法人の「FTXジャパン」は2月中旬をめどに顧客の資産返却を開始すると発表していますが、関係者によると、まだ詳しい日程などは分かっていないということです。

少しでも資産を増やしたいという思いは自然なことかもしれません。一方で、業者がうたう高い利回りの裏にリスクがあるという可能性を考える必要があるようです。
(アメリカ総局 江﨑大輔)
【2023年2月9日放送】
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