インド 牛乳の巨大市場にIT技術を

インドは牛乳の生産量が世界一で、その多くは国内で消費されています。IT技術を駆使して巨大な市場で新たなビジネスチャンスを生み出そうという取り組みが始まっています。

牛乳の巨大市場 生産性・流通に課題

インドの首都ニューデリーでは毎朝、人々が次から次へと牛乳を買い求める光景が見られます。30年以上牛乳を買いに来ているという男性は「自宅だけでなく職場でも使う」と話します。

牛乳を原料とするチーズやバターはインド料理に欠かせません。菜食主義の人が多いインドでは、牛乳は貴重なたんぱく源です。約14億の人口はさらに増え、需要は拡大すると見込まれています。

しかし約8000万軒に上るとされる酪農家のほとんどは、牛を数頭しか持たない小規模経営です。飼育方法もばらばらで、品質にも差があります。

インドでは酪農家のほとんどが小規模経営

さらに流通網が未発達で、消費が多い都市部でも限られた量しか販売できていません。

牛乳をすくって袋に入れ、路上で販売する人も

「牛乳配達アプリ」開発

こうした課題をビジネスチャンスにしようと、今さまざまな取り組みが進められています。

現地のスタートアップ企業は「牛乳配達アプリ」を開発しました。都市部の消費者がアプリで牛乳を注文すると、生産者から直接牛乳が届くシステムです。

牛乳配達アプリ

新鮮な牛乳を比較的短い時間で受け取れるとあって、人気です。

アプリの利用者の一人は「スマートフォンをタップするだけで済むので、とても便利」と話します。

品質向上へ数値で「見える化」 酪農家の収入もアップ

別のスタートアップ企業は、IT技術を使って質の高い牛乳づくりを支援するビジネスを行っています。

ある集荷場へ取材に行くと、内部に電光掲示板が設置されていました。この企業は、酪農家たちが集荷場に運び込んだ牛乳の栄養価を、機器を使って測定し、品質に応じて支払価格を算出。「35ルピー」などと表示しています。

質の高い牛乳を作ることができれば、それだけ酪農家の収入が増える仕組みです。

酪農家 ナラヤナアッパさん
「牛乳の生産量と収入が増えた。ほかの酪農家たちにも取り組みに参加するよう呼びかけている」

この企業は、品質向上のため牛の飼育方法を指導する講習会も開いています。ブランド牛乳としてシェアを拡大し、将来的には国外への輸出も目指す方針です。

牛の飼育方法を指導する講習会

質の高い牛乳づくりを支援しているスタートアップ企業 ムクンダンCEO
「生産性や品質の向上、供給体制の整備など、課題を乗り越えなければいけない。裏庭で小規模にやっていた酪農家にビジネスレベルまで育ってもらいたい」

日本のNPOも投資

取り組みには日本からも期待が集まっていて、日本のNPO法人「アルンシード」は品質の高い牛乳づくりを支援するスタートアップ企業に投資を行っています。

NPO法人 池島利裕チーフアドミニストレーター
「インドは生産・流通体制の効率化、合理化のニーズがまだまだある。日本企業のテクノロジーを導入する余地もある」

消費者の利便性、牛乳の品質、それに酪農家の収入が高まるということであれば、IT導入の動きが広がっていきそうです。
(ニューデリー支局 山本健人)
【2023年1月12日放送】
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