サウジアラビアの新しいビジネス免許「RHQ」広げる波紋

サウジアラビアは世界有数の産油国ですが、「脱炭素時代」の到来を受け、石油に頼らない産業の育成を図ろうと、外国企業の誘致を進めています。

ところが、2024年から始まるRHQ=地域統括会社というビジネスの免許制度で進出企業に一定の条件を満たすよう求めたことで、日本企業に困惑が広がっています。

「脱・石油」へ産業育成 大プロジェクト続々

サウジアラビア政府が打ち出した壮大な開発プロジェクト「ザ・ライン」。砂漠に、全長170キロ、高さ500メートルの縦長の高層都市を建設する計画です。

このほかにも脱炭素の国家プロジェクトが次々と動き出しています。

ビジネス免許制度「RHQ」の“厳しい条件”とは

サウジアラビア投資省が日本企業向けに首都・リヤドで開いた説明会には、機械メーカーや素材メーカー、商社、食品会社まで15社が参加しました。

説明会では投資省の担当者が、2024年から始まるビジネスの免許制度「RHQ」について、取得すれば、政府系の事業に優先的に参入できるとアピールしていました。

投資省の担当者
「このビジネス免許は世界中の企業が利益を上げるうえでさまざまなメリットがあり、サウジアラビアに競争力をもたらすものだ」

しかし免許の取得には高いハードルもあります。▼常勤の社員として現地の人などを15人雇うことに加え、▼人事や経理などの機能をサウジアラビアに置かなくてはなりません。

すでにビジネスを展開している日本企業は困惑しています。

大手素材メーカー「AGC」の担当者
「うちはジョイントベンチャーの会社があって、そこが政府系の案件にも商品を納めている。現実的にはスケジュールはかなり厳しい」

「RHQ」についての説明を聞く日本企業

「アラブの春」を教訓に 若者の雇用確保ねらう

なぜこのような厳しい条件を設けるのか。その理由は若い世代の雇用の確保です。

サウジアラビアでは急激な人口増加に産業構造が追いつかず、働き盛りの25~34歳までの国民の失業率は14%(2022年4~6月期)に上っています。

2010年に始まった中東の民主化運動「アラブの春」は、失業した若者たちの不満が原動力の一つになったとも言われることから、サウジアラビア政府は危機感を抱いているのです。

國學院大学 細井長 教授
「若年層の人口がとにかく多い。なおかつ失業率も高い。それが体制批判につながって、エジプトなどでは政権が倒れることになったので、サウジアラビアはその点にものすごく神経を使っていると思う」

メリット・コスト・リスク… 日本企業はどうする?

中東でビジネスを展開する大手機械メーカーの川崎重工業は、免許制度の情報が少ない中で15人を雇って事務所の機能を強化するのは、コスト負担が大きくリスクが高いと考えています。

大手機械メーカー「川崎重工業」担当者 土井利尚さん
「早急な判断が必要。日本企業に関してはかなり敷居の高い制度なので、本当にこの免許制度が実行されればかなり痛手になる」

サウジアラビアは国民の6割近くが30歳未満という若い国で、今後の成長が期待される点もこの国の強みです。

一方、王政の国ということで制度が急に変更されたりすることもあり、その点もリスクに感じる企業は多いようです。

「虎穴に入らずんば虎子を得ず」のことわざにあるとおり、リスクをとらなければビジネスのうまみも手に入らないということで、この免許を取るかどうかが大きな分岐点になるかもしれません。
(ドバイ支局長 山尾和宏)
【2022年12月8日放送】
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