製造現場の技術継承にAIや3Dスキャン

製造業の現場が熟練技術者の高齢化人手不足に悩んでいます。技術者のノウハウを活用したり継承したりするために、デジタルの力を導入する動きが広がっています。

AIが製品検査 細かな傷2秒でチェック

山梨県北杜市で自動車部品を製造している「相川プレス工業」の工場。製品の検査では1ミリ以下の細かい傷がないかチェックが行われています。

製品の種類が多いことなどから検査の機械化が難しく、これまで熟練の従業員が1日8時間、肉眼で検査をしてきました。

熟練の従業員による肉眼検査

検査の担当者は「目が疲れて見えなくなったりする。常に緊張感をもってやり続けないと、甚大な不良(品)を出してしまう時がいちばん怖い」と話します。

そこでこの会社は2021年に、AI=人工知能による画像検査のシステムを一部のラインで導入しました。

AIによる画像検査のシステム

このシステムは、部品がカメラの下を通るとAIが傷を探し、わずか2秒で表示します。

事前にAIに正常な部品の画像100枚ほどを使って学習させることで、AIの中に熟練した検査員と同じ程度の“正常だと判定する基準”が出来上がり、瞬時に検査ができるのです。

このシステムは現在、電気自動車や半導体などの分野で150社ほどが利用しています。

画像検査を導入した自動車部品製造会社 桑原孝 工場長
「機械を入れたことによって、いちばん(の利点)は誰でも測れる。より働きやすい環境づくりをしていきたい」

システムを開発した会社「アダコテック」 河邑亮太CEO
「熟練の方々の技は本当にすごいものがある。現場の技術力と(デジタル技術を)かけ算をして、さらに付加価値を上げていく」

“デジタル設計図”に需要 金型の形を100分の1ミリ単位でデータ化

熟練の技術をデジタルで保存する取り組みもあります。愛知県犬山市の金属加工会社「名古屋特殊鋼」は、自動車部品などをつくる際に欠かせない「金型」の形を“デジタル設計図”にして保存しています。

自動車部品などをつくる際に欠かせない「金型」

金型を測定器でスキャンすると、その形が100分の1ミリ単位という精度の高いデータとして保存されます。

このデータを工作機械に読み込ませることで、熟練技術者がつくったものに限りなく近い形で再現することができるといいます。

こうしたデジタル設計図を残したいという企業からの依頼が急増しているということです。

金属加工会社 鷲野敦司 社長
「(デジタルで)保存しておくことができるので、それをもとに若い人が作ってみようとトライすれば、ものづくりや、たくみの技をデジタルネイティブ世代に伝承していけると思う」

深刻な人手不足 「デジタルで企業の生き残りを」

デジタル技術の導入で、人の仕事がデジタルに取って代わられるのではないかと感じるかもしれません。中小企業のものづくりを支援する会社「リンカーズ」の前田佳宏社長は次のように話しています。

中小企業のものづくりを支援する会社 前田佳宏社長
「深刻な人手不足の中で、デジタル技術を活用することで別の分野に人を割くことができ、企業の生き残りにつなげられるのでは」

【2022年11月15日放送】

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