【取材の現場から】屋根裏から見た、信じられない光景

※ロシア軍の撤退後、多数の遺体が見つかったウクライナのブチャの街の状況について一部、画像を加工したうえで掲載しています

近くで銃声が聞こえ、身を潜めた屋根裏から見えたのは、信じられないような光景でした。

突然、銃で撃たれた自転車に乗っていた女性。
攻撃を受けて炎上する車。
ジャガイモを運んで歩いていただけの若い男性も、撃たれていました。

通りの角には、ロシア軍の戦車が止まっていました。

「本当に苦しかったです。殺された中には、若者もいたんです。彼らには、何の落ち度もありません」

こう話すのは、ウクライナの首都キーウ近郊のブチャに住むビクトルさん(59)です。

ビクトルさんは、ブチャを取材に訪れたとき、最初に声をかけた住民でした。
家の目の前にある通りで、少なくとも7人の住民が殺されたと話しました。

銃声を聞いたとき、ビクトルさんは妻と娘とともに、ロシア軍から身を隠すため、自宅の裏にある食品を保管するための地下倉庫にいました。

何が起きているのか。危険を覚悟で、ガレージの屋根裏に上がり、外をのぞくと、見えたのは残虐な行為でした。
恐怖に震えながらも、目の前で起きていることを、スマートフォンで写真や動画に収めました。

その時の様子を話すビクトルさんは、声を震わせていました。

「いま起きているのは、戦争なんかではありません。殺人と、レイプだけです。ロシア軍は“けだもの”です」

ビクトルさんと別れたあと目にした数々の光景。それは、まさに惨劇と言うほかありませんでした。

教会の裏の敷地から次々と掘り返される住民の遺体。
白旗を掲げたり「子どもたち」と書かれたりした車に残るおびただしい数の弾痕。

ボンネットに「子どもたち」と書かれた車

ロシアのプーチン政権は、こうしたブチャの状況について「フェイク」だと主張しています。

一方、ブチャの市長は400人以上の住民の遺体が確認されたとしています。

国連人権高等弁務官事務所も「一方的に処刑されたケースを含め、これまでに少なくとも50人が不法に殺害された」と明らかにしています。(4月22日に発表した声明)

実際の取材で目にした、銃で撃たれた女性が乗っていたとみられる自転車や、車が炎上した場所に残った黒ずんだ道路。決して「フェイク」だとは思えませんでした。

銃で撃たれた女性が乗っていたとみられる自転車
  • カイロ支局

    藤吉 智紀

    東南アジアや南アジア、イラクやアフガニスタンなどの紛争地も数多く取材。2019年から現職。ウクライナや隣国ポーランドで、ロシアの侵攻当初から取材。