【取材の現場から】“僕の17年間”が壊された

「何か悪い冗談のようです」

19歳の彼は、抑えた口調でつぶやきました。

ブラディスラブ・ゲオルギシャンさん。
ウクライナ西部の都市リビウにある国立大学で演劇を学んでいます。

演劇をするゲオルギシャンさん(本人のSNSより)

出身は東部マリウポリ。12歳の頃から地元の劇団に所属し、演劇活動を続けてきました。2年前にリビウの大学に進学し、ロシアの軍事侵攻が始まったときもリビウにいました。

ロシア軍による激しい攻撃が行われたマリウポリ。地元に残っていた両親と妹は2週間以上、地下のシェルターで生活し、その間は全く連絡がつかなかったといいます。その後、家族は無事逃げ出すことができ、今は、20キロほど離れた親戚の家に避難しているそうです。

ロシア軍による攻撃で破壊され、300人以上が亡くなったとされる劇場。ゲオルギシャンさんが、何度も公演を行い、舞台に立った場所でした。

マリウポリの港から見える夕日

夕日の見える港。お気に入りの場所でした。

そんなゲオルギシャンさんが生まれ育ったふるさとは、ロシア軍によって破壊されました。

「マリウポリの町を新しく作るというのは、想像ができません。自分が生まれ育った町、慣れ親しんだ町でなければ意味がありません。僕の17年間が壊されたような、心にぽっかりと穴があいたような感覚です」

大学を卒業したら、首都キーウでさらに演劇の経験を積み、30代でふるさとマリウポリに帰って、劇場のディレクターになることが夢でした。

友人と写るゲオルギシャンさん(左)

でも、町は元の姿がわからないほど破壊され、今も連絡の取れない地元の友人が何人もいます。かつては思い描くことができていたマリウポリでの未来。今は何も考えることができないと、ゲオルギシャンさんは話しました。

「たとえ戦争が終わったとしても『マリウポリに帰る』ということですら、想像するのが難しいのです。自分が17年間暮らし、いつも遊んでいた場所で、これだけ多くの人が殺されたのです。そして、その土の下には、遺体が埋められているのです。帰って普通に生活できるのか、精神的に耐えられるのか、自信がありません」

マリウポリの人的被害
ロシア軍の攻撃による犠牲者は2万人以上。
人口の約5%、20人に1人が亡くなった。
(4月11日、マリウポリ市長が示した見方)
  • 国際部

    横田 晃洋

    大分、大阪などを経て2016年から3年間ハノイ支局、現在は国際部。ウクライナ西部のリビウを中心に現場を取材。