【取材の現場から】オリンピックメダルで祖国を助ける

「戦争が向こうからやってきたのです。私たちが始めたわけではありません」

こう語ったのは、ウクライナ人のスタニスラフ・ホルナさん(33)です。ホルナさんは、去年行われた東京オリンピックの空手・男子組手75キロ級で銅メダルを獲得しました。

ロシアによる軍事侵攻を受けて、みずからウクライナにとどまることを選択し、妻と2歳の息子は、隣国ハンガリーに避難させました。

空手の経験を生かし、ウクライナのために何かできるのではないかと考え、軍に入隊。前線に行くことを希望していますが、今は、訓練を受けながら、西部のリビウでパトロールなどの任務に当たっています。

こうした中、ホルナさんは、ある決断をします。

東京オリンピックで獲得した銅メダルをオークションに出品することにしたのです。

「メダルは唯一のもので、家族にとっても特別なものです。ただ、この戦いに負けたら、メダルを見ても喜ぶことはできません。だから、メダルをお金に換えることができれば、祖国に貢献できると考えたのです」

1万ドルからスタートした、メダルのオークション。最終的に付いた値は、2万500ドル。そして、落札したのは東京オリンピックの開催国、日本からの参加者でした。

ホルナさんの願いは、自分のメダルを通して、1人でも多くの人に「ウクライナで起きていること」に関心を持ってもらうことです。

「今、ウクライナで何が起きているのかを世界の人たちに向けて、発信していきたいと思っています。オークションに出したメダルには、そういう思いも込めているんです」

  • 国際部

    横田 晃洋

    大分、大阪などを経て2016年から3年間ハノイ支局、現在は国際部。ウクライナ西部のリビウを中心に現場を取材。