【取材の現場から】私は2度、ロシアに“ふるさと”を奪われた

「見つかったら殺される」

自宅の横を、ゆっくりと通り過ぎて行くロシア軍の戦車。
その後ろには、ロシア兵2人が歩いているのも見えました。
それでも、声を押し殺して、窓の隙間から必死に動画を撮影しました。

その動画を見せてくれたのは、タチヤーナ・ドブロワさん(34)。ウクライナ南部ヘルソン州の自宅から、撮影したといいます。

「また、ロシアに家を奪われてしまいました」

こう話すタチヤーナさんは、現在、母親とともに隣国モルドバに避難しています。しかし、モルドバは、もともとタチヤーナさんが、生まれた国なのだそうです。

モルドバにあった自宅は、東部の「沿ドニエストル地方」にありました。

この「沿ドニエストル地方」には、ロシア系住民が多く暮らし、1990年、一方的に独立を宣言。その後の武力紛争で、当時5歳だったタチヤーナさんの家は破壊されてしまったといいます。今、元のふるさとには、ロシア軍が駐留しています。

親戚を頼って30年前に移住したのが、ウクライナでした。

新たな“ふるさと”になったウクライナで、タチヤーナさんは、美容師になる夢をかなえ、平和な暮らしを送っていました。

しかし、そこに、再びロシア軍が来たのです。

「なぜ罪のない人たちが家を奪われないといけないのでしょうか?しかも、2度も。私たちは、このあとどこに行けばいいのでしょうか」

  • シドニー支局

    青木 緑

    2010年入局。釧路放送局、新潟放送局などをへて2020年からシドニー支局。モルドバではロシア語が広く通じ、避難してくる人もロシア語を話すウクライナ南部の人たちが多い。学生時代に身につけたロシア語で避難者や受け入れる市民の声を取材。