【取材の現場から】避難先で生まれる、新たな命

ナターリアさん(35)と出会ったのは、ウクライナとの国境に近い、ポーランドのジェシュフという町でした。
ウクライナから避難してきた人たちのために開設された診療所を取材していたとき「大きなおなか」が気になり声をかけました。

「あと1か月ほどで、出産の予定です。避難先の、ここポーランドで産むことになりそうです」

姉の家族とともに、ウクライナから避難してきたというナターリアさん。妊娠9か月で、4月末から5月はじめが予定日だと話しました。

直前まで暮らしていたのは、ウクライナの首都キーウ近郊のイルピンという町。ロシア軍からの攻撃があり、恐怖を感じて子どもと一緒に避難してきました。夫はウクライナに残っているといいます。

診療所は、ウクライナ人を支援するウェブサイトで見つけ、超音波の検査などはすべて無料。
ポーランド人たちのスタッフが親切に迎えてくれることで、ナターリアさんは、精神的にも肉体的にも助かっていると話しました。

そんなナターリアさんの目に涙が浮かんだのは、一緒に避難してきた子どもの話をしているときでした。

「ポーランドの支援を受けて、子どもは学校に通えています。必要な物も、学校側が用意してくれました。先生たちには、本当に感謝しています」

ポーランドに避難してきて3週間。「言葉の壁」はあるものの、ポーランド語はウクライナ語と似ているので、すぐ慣れると気丈に話すナターリアさん。
安全な場所で、出産できることに安どを覚えつつも、ふるさとウクライナへの思いは決して消えることはありません。

「戦争が終わって、家に帰れるようになってほしいです」

  • 国際部

    鈴木 康太

    2011年入局。札幌局、社会部などを経て2021年から国際部。
    ポーランドを拠点に避難してくる人たちと支える人たちを取材。

  • ニューデリー支局カメラマン

    森下 晶

    普段はニューデリー支局でインドを中心に南アジアの取材を担当。
    現在、ポーランドやモルドバなどでウクライナ情勢取材中。