【取材の現場から】空港で耳にしたロシア人の“ため息”

ドーハの空港

「また、制裁ですって」

ロシア語でそう話す女性。隣の男性にスマートフォンの画面を見せていました。男性は、諦めにも似た表情を浮かべていました。

ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナ関連の取材をするため、ポーランドに向かう途中。私は、カタールのドーハにある空港で、乗り継ぎの時間を過ごしていました。

気になって声をかけてみると、2人は夫婦で、娘とともに、ロシアに帰国する途中だと話しました。休暇を利用して外国旅行をしている間に軍事侵攻が始まり、ロシアに向かう航空便は次々にキャンセル。

ドーハの空港で会ったときは、ようやく航空便の予約を取ることができ、ロシアに帰るところでした。

夫婦が座っていた空港のベンチ

今回の戦争について尋ねると、女性は、次のような表現で、今の気持ちを言い表しました。

「これは、私たちの『心の痛み』でもあります」

両親がウクライナ人とロシア人だという女性。ソビエト時代から、こういった家族関係は珍しくなく、なぜ戦争が始まってしまったのか、戸惑っていると話しました。

「これは『兄弟殺しの戦争』なんだよ」

隣に座る夫が、静かに言いました。そして、こう付け加えました。

「“NATOの東方拡大を阻止してロシアを守るため”だと言って、こんな戦争をしていいはずがない。プーチンがこのまま大統領を続ければ、本当に『暗黒の時代』の到来だ。それは、おそらくソビエト時代よりも悪い」

  • 国際部

    渡辺 信

    2004年入局。釧路局、サハリン、政治部などを経て、国際部でロシアを担当。
    9歳から12歳までモスクワで過ごす。その後、大学時代は交換留学生として、旧ソビエトのウズベキスタンで学ぶ。