【取材の現場から】休暇で遊びに来たわけじゃないんです

「家族何人と避難してきましたか?」
「前回、支援物資を取りに来たのはいつですか?」

こうした質問を、全く知らない外国語で尋ねられたら…。

ウクライナの隣国、ルーマニアの避難所で実際に起きていることです。

支援物資受け取り

ルーマニアの首都ブカレストに設けられた避難所。シャンプーや離乳食など生活用品の配布拠点となっていて、ウクライナから避難してきた人たちが朝から長い列を作っています。

ただ、スタッフは英語で質問していますが、避難者の中には英語をほとんど話せない人が多くいました。受け取る物の数は家族の人数によって決まるので、スタッフは英語で冒頭のような質問をしていました。

一方、ウクライナ人の本人証明書は「キリル文字」で記載されていて、ルーマニア人スタッフには読むことができません。

通訳するウクライナ女性

どうやってやりとりをしているのか。様子を見ていると、スタッフと避難者の間で通訳をしている女性の姿がありました。

その女性に話を聞くと、通訳のボランティアをしているといいます。そして、自身もウクライナから避難してきたというのです。同じように避難者でありながら通訳ボランティアをするのは全部で5人の女性。

戦火を逃れてきたのに、なぜ避難者の列ではなく、避難者を支援する側に?率直な疑問をぶつけてみると。

「だって私たち、ルーマニアに休暇で遊びに来たわけじゃないんですよ。役に立てることをしたいんです」

アリョーナ・アニシモワさん

5人のうちの1人で、首都キーウから避難してきたアリョーナ・アニシモワさん(37)は、当たり前のように答えました。

5人の女性は、空港で免税品を販売する会社の同僚や、その友人。職業柄、英語を使う機会が多く、英語でのコミュニケーションが得意だといいます。避難所で、ルーマニア人のスタッフが朝から晩まで働いているのを見て、何もせずにはいられなかったとアニシモワさんは話しました。

一方で、終わりの見えない避難生活の中でも、誰かのために役に立つことで、前向きな気持ちになれているというアニシモワさん。もっとルーマニアの人たちの力になりたいと、最近はルーマニア語の勉強を始めたのだそうです。

「何でも人生にとって、プラスの経験になりますからね」

  • シドニー支局

    青木 緑

    2010年入局。釧路放送局、新潟放送局などをへて2020年からシドニー支局。ルーマニアでは、ウクライナの人たちの避難生活が長期化する中、自立に向けた活動や、避難者みずからが行うボランティア活動などを取材。