【取材の現場から】ここが、私の“戦場”

ヨーロッパ各国の都市の名前が並ぶ発車案内板。
各地が鉄道でつながるヨーロッパの駅ならではの光景です。

避難者の荷物を運ぶソコレンコさん

ルーマニアの首都ブカレストにある国内最大の鉄道駅が「ブカレスト北駅」。ウクライナを逃れてヨーロッパ各地に向かう人たちで混雑しています。

ウクライナから到着した人たちは、駅にいるボランティアから食事を受け取ったり、一時的な滞在場所に案内してもらったりして、次の目的地に向かうまでの時間を過ごします。

この駅で忙しく動き回るウクライナ人の女性がいました。首都キーウ出身のオクサーナ・ソコレンコさん(30)です。

「戦争が始まったとき、旅行先のスリランカにいたんです。ふるさとでは多くの人が苦しんでいるのに、私は何もできていないなと思って」

ウクライナへ帰国することができなかったことから、キーウから逃れてきた家族と合流したルーマニアで、ブカレスト北駅のボランティアに志願したのだそうです。

「ちょっとあの人の荷物を運んできていいですか」
「今から列車の出迎えをしないと」

取材の間も、ソコレンコさんは私たちにこう言って、常に避難者の動きに目配りしていました。

ルーマニアでの取材では、みずからも避難者であっても、通訳のボランティアをしたり、新しいビジネスを始めたりして、ほかの避難者や受け入れ側の国の人たちのために役に立とうとするウクライナの人たちに数多く出会いました。

同じように活動するソコレンコさんに「なぜ、そんなに心を強く保てるのですか」と尋ねてみると、次のように答えました。

避難者と話すソコレンコさん

「私は、まだまだ弱いです。いちばん強いのは、ウクライナで国を守ってくれている人たちです。今、ウクライナ人の一人ひとりが国のためにたたかっています。それぞれの“戦場”でたたかっているんです。私にとっては、ここブカレスト北駅が、“戦場”です」

  • シドニー支局

    青木 緑

    2010年入局。釧路放送局、新潟放送局などをへて2020年からシドニー支局。ルーマニアでは、ウクライナの人たちの避難生活が長期化する中、自立に向けた活動や、避難者みずからが行うボランティア活動などを取材。