【取材の現場から】「必ず戻る」と言ったのに

ウクライナ西部のリビウにあるアパート。その一室に並ぶたくさんの本。この部屋で暮らしていた男性の趣味は読書だったといいます。

兵士としての認識票、8年前の親ロシア派の武装勢力との戦闘に従軍した際の感謝状もありました。

ボロディミルさんの部屋で
遺品の説明をするマリアさん

部屋を案内してくれたのは、ウクライナ人のマリア・テレシュコさん。本や認識票などは、彼女の兄ボロディミルさんのものです。

ボロディミルさんは、3月26日、東部ルハンシク州でのロシア軍との戦闘で、命を落としました。

ボロディミルさんの遺影

「必ず戻る」

予備役だったボロディミルさんは、侵攻から4日目の2月27日に招集がかかり、アパートで一緒に暮らしていたマリアさんたちに、そう言い残しました。

自動車整備工として働いていたボロディミルさんは、責任感が強く、家族思いで、マリアさんの子どもたちの面倒をよく見てくれたといいます。

マリアさんの子どもと遊ぶボロディミルさん

しかし、マリアさんのもとに届いたのは一通の死亡通知書。

「今も信じられず、兄のことが恋しいです。私たちから、多くの父親、兄、そして夫の命を奪っているロシアが憎いです」

リビウでは、地元出身の兵士の葬儀が、数日おきに営まれています。

兵士たちが埋葬される墓地には、4月上旬、30以上の新たな墓標が立てられていました。

墓標は、ウクライナの国旗と同じ青と黄色の花で覆われていました。別れを惜しむ人たちが、次々と供えたものです。

増え続ける真新しい墓標と、その場を離れようとしない遺族の姿。戦闘の長期化が続くウクライナの現実です。

ウクライナ軍の死者2500人~3000人
(ウクライナ・ゼレンスキー大統領、4月15日)
ロシア軍側の死者1351人
(ロシア国防省、3月の時点)
  • カイロ支局

    藤吉 智紀

    東南アジアや南アジア、イラクやアフガニスタンなどの紛争地も数多く取材。2019年から現職。ウクライナや隣国ポーランドで、ロシアの侵攻当初から取材。