文化

先住民の思い  どう受け止めるか

先住民の思い どう受け止めるか

2019.10.28

先住民にとって神聖な場所をどう守り、どうやってその思いを受け止めていくのか。「エアーズロック」に「マウナケア山」。

日本も関係する2つのニュースが入ってきましたので、まとめて掲載します。

豪「ウルル」の岩登り禁止

「エアーズロック」の名でも知られるオーストラリアの巨大な一枚岩「ウルル」で、観光客の人気を集めてきた岩登りが10月26日から禁止になり、かねてから岩登りを控えるよう訴えてきた先住民のアボリジニの人たちからは歓迎する声が聞かれました。

オーストラリア中部に位置し、ユネスコの世界遺産にも登録されている「ウルル」は高さ348メートルの世界最大級の一枚岩で、各国から訪れる観光客の間で岩登りが人気を集めてきました。
しかし、「ウルル」を聖地とする先住民、アボリジニの人たちが反発してきたことなどから、オーストラリア政府と先住民との協議の末、10月26日から岩登りが禁止となりました。
「ウルル」の登り口だった場所は25日まで岩登りを楽しむ大勢の観光客でにぎわっていましたが、26日は訪れる人の姿がほとんど見られません。
地元に暮らすアボリジニの女性は「神様がこの大きな岩を私たちにくださったので、守っていかなければなりません」と話し、岩登りが禁止になったことを歓迎していました。
また、アボリジニの人たちと交流がある男性は「岩登りの禁止は大切なことだと思います。先住民の人たちの願いや文化を尊重したいです」と話していました。
現地では、岩登りが禁止されたことで観光への影響を懸念する声も上がっていて、「ウルル」がある国立公園や観光関係者はアボリジニの人たちの独自の文化や大自然の魅力を発信するなど、観光客のつなぎとめに力を入れています。

「エアーズロック」の名でも知られるオーストラリア中部の「ウルル」は、ユネスコの世界遺産にも登録されている世界最大級の一枚岩です。およそ5億年前に形成されたとみられていて、高さは348メートルと東京タワーよりも高く、また、周囲は9.4キロもあります。
少なくとも3万年ほど前から「ウルル」の周辺で狩りなどをして生活してきた先住民、アボリジニの人たちにとっては、岩のくぼみや小さな穴にも精霊が宿る聖地として、代々、大切に受け継がれてきました。
しかし、オーストラリアにヨーロッパからの移民が住むようになり、20世紀半ばには「ウルル」とその周辺が国立公園に指定され、観光開発が進められました。
その後、1985年にオーストラリア政府はアボリジニの人たちに土地の所有権を返還するとともに99年間のリース契約を結び、「ウルル」やその周辺を共同で管理してきました。
契約では国立公園の入園料の25%がアボリジニの人たちに還元されることになっていて、「ウルル」は先住民たちにとって聖地であると同時に、経済的にも大事な支えになっています。

岩登り禁止の経緯

「ウルル」への岩登りが禁止された背景には、伝統的な土地の所有者である先住民、アボリジニの人たちへの配慮があります。
「ウルル」の岩登りは、頂上から辺り一帯の大自然を一望できるとあって、国内外から訪れる観光客の間で人気を集めてきました。
しかし、「ウルル」を聖地とする先住民、アボリジニの人たちが長年にわたって反発してきたほか、観光客の転落事故などで死傷者も出ていたことから、オーストラリア政府と先住民の代表が岩登りの是非をめぐって議論を続けてきました。
議論では、「ウルル」の文化的な重要性が認められつつも、岩登りを禁止すれば観光客の減少も予測されるだけに、禁止の決定はたびたび見送られてきました。
この間、現地では「聖地に登ってほしくない」というアボリジニの人たちの思いが観光客の間でも知られるようになり、岩を登る人は徐々に減少していきました。
オーストラリア政府によりますと、岩に登りたいという観光客は1990年代初めには74%に上っていましたが、おととしには20%を下回っていたということです。
また、アボリジニの文化の体験など岩登りの代わりとなる新たな観光資源も整備され、観光業への影響はないと判断されたことから、おととし、オーストラリア政府は聖地での岩登りを禁止すると発表しました。

ハワイ巨大望遠鏡計画

一方、アメリカ・ハワイにも現地の人たちにとって神聖な場所があります。
ハワイ島のマウナケア山です。
標高4205メートルのその山頂には、日本の「すばる望遠鏡」をはじめ各国が建てた13の巨大な望遠鏡が立ち並んでいます。

このマウナケア山の山頂に、日本やアメリカなど5か国が新たに建設を計画している世界最大の望遠鏡について、地元の先住民系の住民から神聖な場所だとして強い反対の声が上がっている問題で、10月28日、日本人の有志らで作るグループが文部科学省を訪れ、計画の見直しを求める嘆願書を提出しました。

計画中の望遠鏡 完成イメージ図

この望遠鏡は、日本の国立天文台とアメリカなど世界4か国の大学などが、アメリカ ハワイ島のマウナケア山の山頂に建設する計画を進めていますが、先住民系の住民らから神聖な場所だとして強い反対の声が上がっていて、現在は計画が中断しています。
これについて10月28日、ハワイに住む日本人などで作るグループが文部科学省を訪れ、日本人を中心に8544人から集めた署名とともに嘆願書を担当者に手渡しました。
嘆願書では、ハワイ島には日本の「すばる望遠鏡」がすでにあることなどから現地での批判が強いなどとして、新たな望遠鏡の建設場所を見直すよう求めています。
そのうえで、日本が全体の予算の4分の1にあたる375億円を拠出する予定となっているとして、国内でも広くこの問題について議論するよう求めました。

グループのメンバーは「現地の住民の間では大きな問題になっている。日本の税金が使われることもあり、計画は見直してほしい」と訴えました。

文部科学省の担当者は「大きな問題だと捉えている。関係者が対応を話し合っているが、住民とも丁寧に話し合ってもらいたい」と述べました。

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