科学と文化のいまがわかる
科学
2019.08.30
神戸市にある世界最高レベルのスーパーコンピューター「京」は、後継となる次世代スパコンの整備のため運用を終え、30日、電源を落とすセレモニーが行われました。
「京」が設置されている神戸市の施設で行われたセレモニーには、関係者などおよそ180人が参加しました。同じ場所には「京」の100倍の計算能力がある後継の次世代スパコン「富岳」が設置されることになっています。
「京」の共同開発に当たった理化学研究所の松本紘理事長は、「一抹のさみしさはあるが次の『富岳』に『京』の精神を引き継いでいきたい」とあいさつしました。
そして、「京」の置かれている計算機室で4つのスイッチが1つずつ押され、午後2時半すぎ電源が落とされました。
平成24年に国家プロジェクトとして開発された「京」は、世界最高レベルの計算能力を生かして、地震の被害予測や医薬品の開発など幅広い分野で活用されてきました。
「京」は来週から撤去作業が始まり、その後「富岳」の設置工事が行われ、2年後の運用開始を目指すことにしています。
理化学研究所の松岡聡計算科学研究センター長は「『京』は消えるが、日本のスパコンの技術を革新的に進めた歴史は残る。1日も早く次世代の『富岳』を使えるよう開発を進めていきたい」と話していました。
スーパーコンピューター「京」は、国家プロジェクトとして理化学研究所と大手電機メーカーの富士通が1100億円余りをかけ、共同で開発しました。
平成18年から開発が始まり、平成20年に神戸市中央区のポートアイランドで着工しました。
しかし平成21年、民主党政権による「事業仕分け」で、当時の蓮舫行政刷新担当大臣が「世界一になる理由は何があるんでしょうか、2位じゃダメなんでしょうか」などと発言し、いったんは「予算の見送りに限りなく近い削減」という判断が下されました。
その後、科学者たちから「国益を大きく損なう」と反発の声が相次ぎ、プロジェクトが復活しました。そして平成24年、「京」の本格的な稼働が始まります。
864台のコンピューターを連結して1秒間に1兆の1万倍にあたる1京回の計算を行うことができる「京」は、一時計算能力の世界ランキングでトップになりました。
その後、計算能力の順位は落としたものの、いわゆる「ビッグデータ」の処理能力を競うランキングでは平成27年から世界トップに立ち、総合力と実用性の高さが評価されました。
一方、スパコン開発の国際競争がアメリカや中国を中心に激しさを増していく中、理化学研究所と富士通は「京」の後継機の開発を進めることになりました。
後継機は、日本の最高峰「富士山」にあやかり「富岳」と命名され、計算速度は最速で「京」のおよそ100倍と、世界トップクラスの処理能力を達成する見通しだということです。
「富岳」は2年後に運用が開始される見込みで、局地的な豪雨や竜巻の発生といった気象のより精度の高い予測や、医薬品の開発、自動車や航空機のエンジンの設計などへの活用が期待されています。
「京」はこれまで、国内外の大学や研究機関、200を超える企業などが活用し、宇宙観測や渋滞予測、新しい薬や素材の開発などさまざまな分野の研究に役立てられてきました。
膨大なデータを瞬時に処理する能力は、幾とおりものシミュレーションの作成や解析結果を3次元で映像化することを可能にし、特に防災分野の研究で活用が進みました。
このうち建物の耐震性の研究では、構造や築年数などに加え地盤のデータも一括して分析し、1棟1棟の揺れをつぶさに予測できる「次世代のハザードマップ」として注目されています。
また、いわゆる「ゲリラ豪雨」の研究では、上空の雨雲データなどを処理し、雨が降りだす前に豪雨の発生を予測する技術の開発に役立てられています。
スーパーコンピューター「京」の運用が停止されたことを受けて、「京」の名前を駅名に採用している神戸市内を通る「ポートライナー」は今後、名前を変更するかどうか検討したいとしています。
神戸市中央区にある「ポートライナー」の「京コンピュータ前駅」は、「京」が置かれた研究施設が近くにあることから、8年前の平成23年、駅の名前に「京」を取り入れています。
「京」は30日で役割を終え、2年後には後継機となる「富岳」が導入される予定で、「ポートライナー」を運営する神戸新交通は駅名をこのまま残すか「富岳」に変更するかなど対応を検討したいとしています。
神戸新交通総務課の金谷保和係長は「『京』があることで親しまれてきた駅なので、なくなることは残念です。まずは『富岳』の活躍に期待したい」と話していました。
NEWS UPスパコン「京」の後継機は「富岳」 世界トップクラス達成へ
ご意見・情報 をお寄せください