トンガ 大規模噴火と津波 何が起きたのかに迫る
2022年1月15日にトンガの海底火山で発生した大規模な噴火とその後の津波。
どんな噴火だったのか?
なぜ日本に津波が来たのか?
当時の被害状況は?
人工衛星の画像の分析や専門家への取材から見えてきたことをまとめました。
【2022年2月15日時点での記事です】
目次
【どんな噴火?】「数十年に1度」規模の噴火
噴火したのは日本からおよそ8000キロ離れたトンガの海底火山「フンガ・トンガ フンガ・ハアパイ」。首都ヌクアロファのあるトンガタプ島の北およそ65キロの場所にあります。
再生時間 0:18
大規模な噴火が発生したのは、日本時間の2022年1月15日午後1時ごろ。噴煙が一気に立ち上り、拡大していく様子は気象衛星「ひまわり8号」でも捉えられていました。
噴火の衝撃で白い輪のようなものが広がっていく様子も確認できます。
気象庁は当時、噴煙の高さは16キロに達したと発表しました。
再生時間 0:42
アメリカ大気海洋局の衛星「GOES」が撮影した画像では、噴煙の半径は最大でおよそ250キロに達しています。
噴火のメカニズムに詳しい東京大学の藤井敏嗣名誉教授は
と指摘しています。
そのうえで藤井名誉教授は
としています。
【どんな噴火?】驚くべき噴煙の「拡大速度」
東京大学火山噴火予知研究センター鈴木雄治郎准教授(火山物理学)は、衛星画像などを元に噴煙の広がる速度を分析。20世紀最大級とされるピナツボの噴火と比較しました。
<噴煙半径>
●フンガ・トンガ フンガ・ハアパイ
▽10分後 70キロ
▽20分後 120キロ
▽30分後 190キロ
▽40分後 210キロ
●ピナツボ
▽1時間後 140キロ
▽2時間後 210キロ
ピナツボでは噴煙の半径が200キロを超えたのは2時間後だったのに対し、今回の噴火はわずか40分で200キロに達しました。
噴火直後だけを考えると、大気への噴煙の流入率はピナツボを3倍程度上回るとしています。
鈴木准教授は
と話しています。
【どんな噴火?】少ない火山灰と軽石
フンガ・トンガ フンガ・ハアパイから、南に65キロほど離れた首都・ヌクアロファがあるトンガタプ島の様子を撮影した衛星画像では、噴火の後でも道路の境界線や住宅の屋根の色がわかるところもあります。
東京大学火山噴火予知研究センターの前野深准教授(火山学)は、降り積もった火山灰の量は数ミリから数センチ程度ではないかと指摘。
と話しています。
また15日の大規模噴火後の衛星画像には、軽石が漂流している茶色っぽい領域も確認できます。
(画像の黄色の矢印の部分)
海底火山が専門のタスマニア大学・池上郁彦さんによると、漂っている軽石の面積はあわせて数十平方キロ程度、沖縄県などに大量の軽石をもたらした小笠原諸島・福徳岡ノ場の噴火(2021年8月)の際の10分の1程度で「かなり量は少ない」ということです。
池上さんは
としています。
【どんな噴火?】火山島の大部分が消失 カルデラが陥没か
再生時間 0:15
(※動画は垂直方向を強調しています)
今回、大規模な噴火が起きたフンガ・トンガ フンガ・ハアパイは海底火山で、島として見えているのは、この火山の山頂付近にあるカルデラの縁の一部です。
池上さんによると、去年12月下旬から島の中央部で噴火が断続的に続いていたということです。
ことし1月に入って活動は低下しましたが、14日には比較的規模の大きな噴火が発生。
日本時間の15日の朝にいったん噴煙は停止したものの、午後になって今回の大規模な噴火が起きました。
人工衛星が1月7日に撮影した画像では、島の中央付近にある火口から白い噴煙が上がっています。
しかし比較的規模の大きな噴火が起きた後、15日午前に撮影された画像では、中央の陸地がなくなっています。
さらに、今回の大規模噴火後の18日に撮影された画像では、陸地はほとんど失われています。
池上さんは
と指摘しています。
【どんな噴火?】気候への影響はあるか
今回の大規模な噴火を受けて気候への影響も懸念されます。
1991年のフィリピン・ピナツボの大噴火では、噴火の影響で地球全体の平均気温が0.5度程度下がったとされ、2年後には日本でも日照不足で米の生産量が減少してタイなどから輸入する事態となったからです。
大気中のエアロゾルと気候変動の関係に詳しい九州大学応用力学研究所の竹村俊彦主幹教授によると、火山の噴火で「二酸化硫黄」と「火山灰」が大量に放出されると、地上に届く太陽光を弱めて地表付近の気温が下がるおそれがあるということです。
特に、高度十数キロより高い「成層圏」まで運ばれると、落下しにくくなって長期間大気を漂うため、影響が大きくなります。
竹村主幹教授によると、NOAA=アメリカ海洋大気局の人工衛星に搭載されたNASA=アメリカ航空宇宙局のセンサーのデータでは、二酸化硫黄や火山灰などの「エアロゾル」があることを示す領域(画像の赤い部分)は、最も高い場所でおよそ30キロの高さに到達していたということです。
ピナツボ噴火の際の高度40キロまでは達していないものの、エアロゾルが成層圏にまで達した可能性が高いということです。
一方で、海外の専門家からは、噴火で放出された二酸化硫黄の量は、ピナツボ火山の噴火の50分の1程度の量という解析の速報値も出ています。
今回は海底火山の噴火だっため、水を含んだ火山灰が高いところまで飛び出しにくくなったり、二酸化硫黄がある程度、水に吸収されたりした可能性があるとしています。
竹村主幹教授は
としています。
【なぜ津波?】注目される「気圧変化」
フンガ・トンガ フンガ・ハアパイでの大規模な噴火の後、太平洋の島々や沿岸部では津波が観測されました。
▽チリでは1.7メートル
▽アメリカ・カリフォルニア州で1.3メートル
▽アメリカ・アラスカ州で1メートルなどです。
約8000キロ離れた日本でも
▽鹿児島県奄美市で1.2メートル
▽岩手県久慈市で1.1メートルを観測しました。
一方で、トンガに近いミクロネシアの島々では10センチから30センチの津波でした。
(1月21日現在、トンガの島では局所的に15メートルという情報も)
再生時間 0:29
またトンガから遠い場所で津波が高くなった原因について、注目されているのが「気圧の変化」です。
フンガ・トンガ フンガ・ハアパイで起きた噴火は規模も大きく爆発的だったため、急激な空気の膨張などで周辺で気圧が変化し、それが「大気の波動」として広がりました。
気象衛星「ひまわり8号」とアメリカ大気海洋局の衛星「GOES」の撮影した画像を元に分析すると、噴火で発生した大気の波動が、同心円状に世界中に広がっていく様子がわかります。
【なぜ津波?】潮位変化は「大気波動」の時間と一致
大気の波動が伝わる速度はおおむね「音」と同じ速さで、波動が伝わった場所では気圧が低下したことが確認されています。
これが日本での津波到達の早さに影響したとみられます。
今回は通常の津波ならば、およそ8000キロ離れた小笠原諸島の父島まで到達するのにおよそ9時間かかると予測されていました。
しかし、実際に潮位の高まりが観測され始めたのは、噴火の7時間後にあたる15日の午後8時ごろで、予測より2時間ほど早くなりました。
これは大気の波動が日本に伝わった時間とほぼ一致していて、この大気の波動による気圧変化の影響で潮位が上昇したとみられています。
こうした気象現象によって起きる津波は「気象津波」と言われます。
【なぜ津波?】「プラウドマン共鳴」で高くなったか
さらに、潮位が高くなった理由について、津波や気象による海面変動を研究する鹿児島大学の柿沼太郎准教授は「プラウドマン共鳴」という▽気圧変化が起きる場所が移動する速度と▽気圧変化によって生じた波が移動する速度が近くなり、波が増幅されて高くなる現象が起きた可能性があると指摘しています。
こうした潮位の変化は「あびき」や「副振動」とも言われています。
今回、▽気圧変化をもたらした大気の波動は音の速さに近い一方、▽津波の速度もマリアナ海溝など水深の深い海域では音の速さに近づくため、柿沼准教授は「プラウドマン共鳴」が起きたと考えています。
【なぜ津波?】衛星が捉えた波の変動
ヨーロッパの地球観測衛星が噴火のおよそ13時間後に当たる日本時間の16日未明に取得したデータでは、噴火したフンガ・トンガ フンガ・ハアパイから北に100キロほど離れたトフア島の周辺に、半円状の波が広がっている様子がわかります。
波一つ一つの間隔は数キロから5キロ程度と、地震によって起きる津波よりはるかに間隔が狭いということで、津波や高波のメカニズムに詳しい京都大学防災研究所の森信人教授は
と指摘しています。
【なぜ津波?】日本の潮位変化“空気振動”が影響か
日本の沿岸で予想より高くなった津波のメカニズムは依然として謎が多く、研究が進められています。
津波のメカニズムに詳しい東北大学災害科学国際研究所、今村文彦教授の研究グループは、火山の近くで1メートル前後の津波が観測されていたことから、火砕流やカルデラの陥没など噴火が直接的に引き起こした津波があったと仮定しシミュレーションしました。
その結果、火山周辺の観測データとはほぼ一致したものの、日本の沿岸については第1波が到達する時間が実際より6時間前後も遅い結果となりました。また最大の潮位も2分の1から9分の1程度と大幅に低く、小笠原諸島の父島が実際の観測が90センチに対し30センチ、北海道根室市で60センチに対し20センチ。岩手県大船渡市では30センチの観測値に対して15センチ、和歌山県串本町で90センチに対し10センチとなりました。
シミュレーション結果と、日本における「早さ」と「高さ」の差について今村教授は、噴火による空気の振動で気圧が変化したことによる潮位の変化を考慮すると説明できる可能性が高いとして、今後、さまざまな分野の専門家と協力し解析を進める必要があるとしています。
今村教授は
と話しています。
【なぜ津波?】今回の津波 いまだ謎多く
今回の津波は、大気の波動による気圧の変化だけでなく、噴火に伴うカルデラの陥没や海底地滑りなど、海底の地形が変わったことで発生した波が、さらに津波を高くした可能性も指摘されています。しかし、火山周辺を調べないと分からないことが多く、謎の多い今回の津波について、多くの専門家が今後さらに詳しい調査や分析を進めることになります。
【気象庁の対応は?】今後も「津波警報」枠組みで情報発信
トンガの海底火山で発生した大規模な噴火で、気象庁はいったん「多少の潮位の変化があるかもしれないものの被害の心配はない」と発表しました。しかしその後、国内各地で数センチから1メートル余りの潮位の変化が観測され、北海道から沖縄の広い範囲に津波警報や注意報を発表しました。
一連の対応について気象庁は、観測されていた潮位の情報を迅速に発信できなかったうえ、注意報などの発表に時間がかかったなどとして、2月8日に当面の対策をまとめ公表しました。
具体的には海外で噴煙の高さが1万5000メートルに達する大規模噴火が起きた場合、地震に伴うものとは異なる「津波」が発生するおそれがあることや、海外で観測された潮位変化を伝えるほか、国内では潮位が基準に達した時点ですみやかに津波警報や津波注意報を発表するとしています。
同様の現象が起きれば被害が出るおそれもある。津波警報や注意報が発表されたときには地元自治体の指示などに従って避難をお願いしたい。
【被害状況は?】衛星で分析された島の被害
トンガでは複数の島で噴火や津波による被害が確認されています。国連の機関が公開した衛星の画像などで整理します。
(※1月21日までの国連資料より)
トンガタプ島
噴火した海底火山から南に約65キロ、首都ヌクアロファがあるトンガタプ島です。島の北西部で撮影したとされる写真では、ビーチだった場所で多くの木が倒れ、木の枝があたり一面に散乱するなど、変わり果てた様子となっています。
ノムカ島
噴火した海底火山から東に70キロほどの場所にあるノムカ島です。
左の噴火前の写真では、海岸沿いに緑色の木々や畑が広がり建物が点在しているのがわかります。
しかし、噴火後の右の写真では火山灰で一面灰色となり、住宅がなくなっているように見える場所もあります。画像を分析した国連の機関では、ノムカ島ではこれまでに50あまりの建物が津波の被害を受けたとしています。
マンゴー島
噴火した海底火山から東に75キロほどの場所にあるマンゴー島です。
この島では、島の北部の海岸沿いに住宅などが集まっていましたが、噴火後、建物はすべて津波によって押し流され、何もなくなっているように見えます。トンガ政府は「マンゴー島ではすべての家屋が倒壊。トンガ全土で3人が死亡、けが人も多数出ている」と発表しています。
エウア島
噴火した海底火山から100キロほど南のエウア島です。
噴火後の右の写真では、海岸沿いの建物や道路が被害を受けていることがわかります。
フォノイフア島
噴火した海底火山から東に85キロほどの場所にあるフォノイフア島。
噴火後は、島の南側の海に面した集落が火山灰に覆われていて、国連の機関は建物が壊れている可能性もあるとしています。
ウイハ島
噴火した海底火山から北東に120キロほどの場所にあるウイハ島。
噴火後の右の写真では、海岸沿いの集落の広い範囲に火山灰が積もって茶色っぽくなっていることがわかります。
ウォレバ島
噴火した海底火山から北東に120キロほどの場所にあるウォレバ島。
噴火後の右の写真では、海岸沿いの集落にある道路に火山灰が積もっていて、浸水の痕跡も確認できます。
国際部/吉元明訓 鈴木康太 田村銀河
社会部/宮原豪一 清木まりあ 老久保勇太
メディア開発企画センター/渡辺聡史
ネットワーク報道部/森田将人 田中元貴 金子紗香 藤島新也
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