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これまでの災害で明らかになった数々の課題や教訓。決して忘れることなく、次の災害に生かさなければ「命を守る」ことができません。防災・減災につながる重要な情報が詰まった読み物です。

地震 教訓 知識

「こんな場所で…」となる前に “底なし沼”に備える

地中に沈み込むように埋もれた車体。最大震度6強を観測した新潟や山形などの地震で、山形県鶴岡市では、市中心部の駐車場が広い範囲で泥水につかりました。“液状化”です。
「あれ?液状化って、沿岸部の埋め立て地の話じゃないの?」いえいえ、実は海から離れた場所でも起きる危険性があるんです。「こんな場所で起きるなんて」となる前に。一度、身の回りのリスク、確かめてみませんか?(ネットワーク報道部記者 玉木香代子 國仲真一郎)

2019年6月に放送されたニュースに関連する内容です

目次

    どこで起きてもおかしくない!?

    若松加寿江さん

    「液状化の現場で住民の方に話を聞くと、毎回『こんな土地とは思わなかった』という話を聞きますね。どこで起きてもおかしくないと考えるべきです」

    そう指摘するのは、40年にわたって液状化の研究を続けている関東学院大学の理工学部元教授で、現在は工学総合研究所に所属する若松加寿江さんです。

    でも、液状化って、やっぱり沿岸部の埋め立て地で起こるイメージがありますが…?

    「そうとはかぎりません。川が近くを流れていたり、低い土地だったりするケースなど、たとえ埋め立て地でなくても液状化のリスクがあります」

    液状化が起こる条件について、若松さんは以下の3点を挙げます。

    ▽地下水の水位が高いこと
    ▽地下水より下に緩い砂を多く含む地層があること
    ▽強い揺れの地震が起きること

    裏を返せば、こうした条件がそろえば、どこでも起こりうるんだそうです。

    東日本大震災での液状化発生地点

    実際、東日本大震災の際には、東京湾沿岸の埋め立て地に加え、埼玉県や群馬県など海から数十キロ離れた場所でも液状化が確認されているということです。

    前回のオリンピックの年に…

    そして実は昭和39年、前回の東京オリンピックの年にも、“複合災害の先駆け”と言われるM7.5の地震が新潟市などで起きていました。

    次の写真は当時高校生だった竹内寛さんが撮影したものです。

    液状化で沈下し、ゆがんでしまった建物に津波が侵入。車も、深く泥土の中に沈み込んでいます。液状化被害が最も激しかった地域で撮影し、のちに学術的にも貴重な記録となりました。

    地盤が液状化して“泥の海”と化すと、街での被害が大きくなるうえに津波からの避難も阻まれてしまう。首都直下地震をはじめ大きな地震や津波に生かすべき教訓がすでに半世紀以上も前に指摘されていたのです。

    雨の時期はリスクも上がる

    茨城県稲敷市(東日本大震災発生時)

    また若松さんによると、雨の多い時期には地下水の水位も上がりやすくなり、強い地震で液状化が発生する危険性も高くなるといいます。

    さらには水道やガスなどのライフラインに影響があるほか、液状化した地盤がまるで“底なし沼”のような状態になることで、災害時の素早い対応も阻まれる危険性があると若松さんは指摘します。

    「広い範囲で液状化が発生した場合、道路がぬかるむことで、避難が難しくなったり、救急車や消防車といった緊急車両が通れなくなるおそれがあります。1秒でも早い対応が必要な災害時には、こうした影響は特に大きくなります」

    あなたの住まいは大丈夫?

    こうしたことを踏まえ、若松さんが対策への第一歩だと強調するのが、“自分が暮らす場所のリスクを事前に把握しておくこと”です。自分の暮らす場所のリスクを調べるのに有効な手段の1つが、国土交通省や自治体などが発行しているマップです。

    「ウチはダイジョウブ、そう決めつける前にホームページや行政の窓口で液状化の可能性を調べてほしい」

    こう呼びかけるのは、東京都の建築指導課。東京都は5年前から「建物における液状化対策ポータルサイト」を設けています。自分の住むエリアはどの程度液状化の可能性があるのか。住所を入力して、過去の地形図や今の地図を比較し土地の履歴を調べることができます。

    たとえば図のように、同じ場所でも、昭和10年代には水田が広がり、水田や池の部分に建物が建ち並び市街化されてきたことがわかります。

    また、地下水位や過去に液状化があったかなどさまざまな情報から、液状化の可能性が高い地域、液状化の可能性がある地域、液状化の可能性が低い地域、に色分けして示した「液状化予測図」も公開しています。

    リスクチェックのポイントは?

    一方で、こうしたマップを整備している自治体はまだ決して多くはないのが実情だと若松さんは指摘します。そして自分の地域に必要なマップがない場合、特に次のような場所に該当しないかをチェックして、液状化のリスクをはかる目安にしてほしいとしています。

    ▽数十年以内に造成された新しい埋め立て地
    ▽かつて川や池、沼などがあった場所
    ▽大きな川の近く
    ▽砂丘と砂丘の間に広がる低い土地
    ▽砂鉄や砂利を採掘した場所を埋め戻した地盤
    ▽谷を埋め立てた造成地
    ▽過去に液状化が起きた記録がある場所

    最後に若松さんは、こう話してくれました。

    「地中から起きる液状化は、土砂崩れや津波と違って、災害を起こす脅威の対象がふだんは見えない災害です。“青天のへきれき”の災害と言ってもいいかもしれません。被害を受けてから『こんな土地とは思わなかった』となる前に、一度自分が住む場所のリスクを確かめてみてほしいと思います」

    液状化が起こる仕組み

    地震が発生したときに地盤が液体状になる“液状化現象”。

    砂でできた地盤は通常、砂の粒子が結び付いて支え合っていますが、地震の発生で繰り返される振動で、地中の地下水の圧力が高くなり、砂の粒子の結び付きがばらばらになって地下水に浮いたような状態になります。これが“液状化”です。

    図にある液状化の状態になると、水よりも比重が重い建物が沈んだり、傾いたりします。地盤に亀裂が入ったり、水の比重よりも軽い下水道のマンホールなどが浮き上がる場合もあります。


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