地震 火災 想定 知識 教訓

首都直下地震 助かるためのキーワード

今後30年以内に70パーセントの確率で起きると予測されている首都直下地震。漠然と恐れるのではなく、どんなことが起こりえるのかを知っておくことが命を守ることにつながります。4つのキーワードと、内閣府の被害想定をもとに「発災後どんな被害・影響がいつまで続くのか」をまとめました。

目次

    火災旋風

    火災旋風とは

    首都直下地震のあとに発生する「同時多発火災」。火災による死者数は1万6000人と想定されています(冬の夕方、風速8mの場合)。都市の地震で起きる火災の1つに「火災旋風」があります。ときに高さ200mを超える巨大な炎の渦が竜巻のように家屋や人を吹き飛ばし、街を焼き尽くす現象です。

    単なる火災と違って、火災旋風は移動することもあり、風速60mにも達する凄まじい風で被害をもたらします。しかも火の粉を遠くまでまき散らし、もともと火種のなかったところにまで延焼を拡大させます。しかも、どの火災現場でも発生する可能性があり、動いていく方角を予測することは不可能とされています。

    火災旋風を研究する消防庁消防研究センターの篠原雅彦主任研究官は「首都直下地震の時に起きないとする理由は見当たらない」と言い、特に、人が密集する東京のような大都市では火災旋風の発生が大きな人的被害を招くおそれがあり、警戒が必要だと呼びかけています。

    火災旋風に襲われた過去の震災

    火災旋風は東日本大震災でも目撃されています。宮城県気仙沼市、震災から3日後に大規模火災が起きた内の脇地区。巨大な火の渦が突然、火災現場に現れました。

    気仙沼で発生した火災旋風 推定の高さ230m幅130m(目撃証言を元にイラスト化 作・宮井里夏)

    現場で消防活動に当たっていた男性は「燃えているものが渦巻いて空に向かってそのまま上がっていった…」と証言しています。

    「かなり太いですね… 蛇がとぐろを巻きながら、獲物を殺していくようにゆっくりと回っているような…」(火災現場から1.4km離れた気仙沼消防署から目撃)

    後に、消防研究センターが調査したところ、気仙沼に現れたこの火災旋風は、高さ230m、幅130mの巨大なものだったと判明しています。

    火災旋風はこれまで第二次世界大戦の空襲や山火事など世界各地で多数目撃されています。1923年の関東大震災では3万8000人が火災旋風で命を落としたとされています。地震発生の1時間後から34時間にわたって東京では110個の火災旋風が目撃され、横浜市では30個が目撃されています。
    人間や荷車、材木などを巻き上げながら2km以上を移動したケースもありました。

    大都市を襲う “黒い火災旋風”

    火災旋風には2つのタイプがあり、「炎を含む火柱状の渦」と「炎を含まない渦」があります。「炎を含まない火災旋風」も、やはり竜巻のような風で砂ぼこりや煙などを巻き込んで黒い渦になると考えられていて甚大な被害をもたらす危険性があります。

    火災旋風が発生するメカニズムは、大きな火災の上昇気流と周囲の風が影響し合うことだと考えられていますが、大規模な火災の風下側に「黒い竜巻状の火災旋風」が発生する場合もあります。しかも夜間は見えにくいため、接近していることに気付かず、深刻な人的被害を引き起こすおそれもあります。

    火災旋風からどう身を守るか
    火災旋風は未解明の部分も多く確実な対処法はないが、消防研究センターの篠原さんによると、過去の実例や証言をもとに、以下のような対策が考えられるという。
    • 延焼中の地域には近づかない。延焼が大きいエリアは風速の強い大きな火災旋風が発生する危険が高い。
    • 火災現場の「風下」側に行かない。※風の方角を知るには、火災で上がった煙の流れが手がかりになる。
    • 接近にいち早く気づくには、土ぼこりや煙が空に巻き上げられて辺り一帯の空が暗くなる、津波や大雨のような轟音が聞こえる、といった予兆に注意する。
    • 炎を含まない、黒煙状の火災旋風が近くまで来てしまったときは、鉄筋コンクリート造などの頑丈な建物に避難し、飛散物から身を守るために窓ガラスの側から離れる、あるいは頑丈な建物の物陰で身を小さくする。また、自動車や物置、電柱などは飛散する可能性があるので近づかない。竜巻からの避難と同様の対処法が有効ではないか。

    同時多発火災

    大地震が引き起こす 都会の同時多発火災 ~延焼運命共同体とは~

    内閣府の被害想定によれば、首都直下地震では被災地全体で約2000件の火災が発生し、そのうち約600件は消火が間に合わず、大きな火災になると推測されています。通常の消防の対応力をはるかに超えた「同時多発火災」が発生するおそれがあるというのです。

    火災はどこでも起きえますが、中でもリスクが高いと考えられているのが木造住宅が密集している、いわゆる「木密地域」です。木密地域は道幅も狭く、近隣の建物に火が燃え移りやすいのです。こうした木密地域が都心を取り囲むように広がっている東京では木密地域の面積が東京ドームおよそ2600個分(1万3000ヘクタール)もあります。

    木密地域で起こりうる延焼はどこまで拡大するのでしょうか。 東京消防庁がコンピューターを使った延焼シミュレーション研究を行っています。

    たとえば、木密地域の一つ、杉並区の住宅街で出火した場合。地震直後の消火活動が間に合わない状況を想定し、一軒の建物からの出火が周りの建物群にどのように延焼していくかを実際の住宅地図のデータをあてはめて詳細にシミュレーションしました。
    すると、最初の出火から76時間後、火災は1万3000棟に燃え広がりました。たった一件の出火が、これほど大きな被害をもたらすのです。

    内閣府の被害想定にある「焼失棟数マップ」 都心の被害はわずかだが周辺の木密地域で大規模火災が起こる

    このような、一件の火災で延焼に巻き込まれる可能性のある建物群は「延焼運命共同体」と呼ばれ、東京大学の研究では、東京には3000棟以上が燃える「延焼運命共同体」が70か所ほど存在することが明らかになっています。

    東京消防庁の延焼シミュレーション結果(一例)

    同時多発火災 過去の事例

    1995年の阪神・淡路大震災では235件の建物火災が起きました。その半分近い94件が延焼拡大によるもので、神戸市長田区などを中心に1万㎡以上が焼損しました。当時の長田区は木造家屋が密集していたうえに、地震で建物が倒壊・損傷したことが、さらに延焼拡大を助長したとも考えられています。

    また、木造家屋ではなくても、火災に強いはずの耐火造建物が地震の揺れで壊れて、本来の耐火性能を失ったために延焼を拡大させてしまった例もあります。

    神戸市長田区の密集地 延々と燃え続けた 1995年1月

    あなたも「逃げ惑い死」にならないように

    想定を上回る犠牲者が生まれる危険性も最新の研究で明らかになってきています。たとえば杉並とその周辺では、東京都の被害想定では400人余りの犠牲者が出るとさていますが、東京大学の加藤孝明さんの研究によれば、実際にはその10倍近い死者が出るケースがあるといいます。

    東京大学 加藤孝明さんはVRも使い火災からの避難行動を研究している

    その主な原因は「逃げ惑い死」。住民が避難する途中で火災に巻き込まれてしまう現象です。たとえば、住民が本来であれば火災から確実に助かることのできる「広域避難場所」に向かったとします。ところが避難場所のそばでは延焼が拡大。別な場所に引き返そうとしますが、後ろから大勢の避難者が押し寄せ身動きが取れなくなります。

    そうして「逃げ惑う」うちに炎にまかれ死傷するというケースがこれまで想定されていた以上に起こり得ることがシミュレーションを使った研究で分かったといいます。

    同時多発火災から身を守るには

    消防車500台近くを有する東京消防庁は全国一の消防力を持ちますが、これほどの同時多発火災が起こると消防力が追いつかない厳しい現実があります。建物の倒壊や渋滞で「消防車がすぐには来ない」と考えておくことも重要で、いざというときには、正確な知識にもとづいた判断が一人ひとりに求められます。

    火災研究の専門家、東京理科大学の関澤愛さんは「火の手が遠いうちでも、個々人が判断して広域避難場所へ逃げる必要がある」と言います。報道や防災無線で同時多発火災が発生しているかを確認し、目の前まで火が迫っていなくても早めに避難するという決断が命を守ります。

    専門家による心得
    • 木密延焼の大惨事を防ぐには「初期消火」が効果的。「自分の目の高さよりも低い火」であれば消火器を使って自分たちの力で消すという判断もありうる。火が目の高さを超えたときは天井に燃え移って一気に火が広がる危険がある。その場合は地域ごとに自治体が指定している「広域避難場所」へ避難する。
    • 避難のタイミングは、木造密集地域に住んでいるなら500メートル先に2本以上煙が立ち上がっていたら逃げるタイミングだと思うこと。
    • 避難する際には家のブレーカーを落としておく。不在時に壊れた家電製品から出火しないようにするため。
    • さまざまなケースが起こりうることを想定して、自分なりの避難ルートを事前に考えておくことも大切。地震時にビル街にいる場合など延焼の危険性が低い地域にいる場合は、無理に動こうとせず、その場にとどまったほうが安全。

    群衆雪崩

    帰宅困難者の二次被害「群衆雪崩」とは

    首都直下地震が起きた際、帰宅困難者は1都4県で800万人に達すると予測されています。そうした中、街にあふれる歩行者がなんらかのきっかけで引き起こす脅威…それが「群衆雪崩」です。

    発生するおそれのある場所は、歩道橋や地下街への入り口のような階段の近くや、急に道が細くなった路地など。歩行者が密集しやすいそうした場所で、ビルから物が落下するなど突発的な出来事がきっかけとなって群衆が一気に動きだし、誰かがつまずいて倒れたところに周りの人たちも雪崩を打つように折り重なって転倒する。下敷きになって押しつぶされた人は、最悪の場合は呼吸困難などで死に至ることもあります。

    一斉に帰宅すると群衆雪崩に巻き込まれる危険が

    よく耳にする「将棋倒し」という言葉、これは、1㎡あたりに3人から5人以上が密集し際、後ろの人が前の人を突き倒す形で「後ろから前へ転倒が拡大していく現象」のことです。そのさらに深刻な現象が群衆雪崩。1㎡あたり10人以上が密集したとき、前の人の転倒に、後ろや左右、多方向の人が引き込まれる形で「前から後ろに拡大していく」と考えられています。

    群衆雪崩の倒れこみ方

    過去の事故例

    大勢の人が集まる超過密エリアで発生する「群衆雪崩」。それによって命を落とした事例が国内外で報告されている。
    ・2017年、インドのムンバイにある鉄道駅の高架橋で群衆が転倒し22人が死亡
    ・2015年、サウジアラビアのメナーではイスラムの巡礼に訪れた2181人が死亡

    サウジアラビア西部メッカへの大巡礼に参加したイスラム教徒ら 2015
    負傷した巡礼者の手当てをする救命救急当局者ら

    日本でも2001年、兵庫県明石市で開催された花火大会の際、転倒で11人が死亡し247人が負傷、過去最大規模の群衆事故が起きています。

    当時の負傷者の証言「人と人の肋骨がこすれあってギシギシ音がしていた、圧迫で立ったまま失神する人もいた、突き飛ばされて人の背の高さにまで倒れた人が山になった。向いた顔の位置を戻すことができなかった…」(兵庫県立大 室崎益輝さんの論文より引用)

    この事故で亡くなった11人の内訳は、2人が70歳以上の高齢者、9人が小学生以下の子どもでした。また、負傷者の7割が女性で、体力的に劣る弱者が犠牲になりやすいと考えられています。

    「群衆雪崩」の圧力はどのぐらい凄まじいものなのでしょうか。大阪工業大学の吉村英祐さんが、明石の事故の2年後に当時の状況を想定した実験を行っています。幅1.3mの空間に被験者28人を収容し、壁を押しながら空間を狭めていきながら、被験者の体にかかる圧力を測定。その結果、最大270㎏もの圧力が発生し、1㎡あたり14人の密度に達すると、そこにいる3割以上が呼吸困難になることが分かりました。

    大都市の地震と群衆雪崩の発生リスク

    首都直下地震で800万人に達すると言われる帰宅困難者、その8割は都心に一極集中し、東京だけで650万人の帰宅困難者が出ると予想されています。

    首都直下地震における帰宅困難者の研究に取り組む東京大学の廣井悠さんは、発災直後に帰宅困難者が一斉に徒歩で帰宅した場合を想定し、そのとき都内の主要な歩道の混雑状況がどうなるのかを、コンピューターを使って詳細にシミュレーションしました。
    すると発災から1時間後、東京 丸の内で広範囲で過密状態が発生し、1㎡あたり6人以上という超過密エリアも生まれるという結果になりました。さらに新宿や渋谷、赤坂など、東京の至る所で危険な過密状態が発生する可能性が浮かび上がりました。

    都心部の歩行者過密エリア。廣井准教授のシミュレーションを元に作成

    群衆事故に巻き込まれないためには

    巻き込まれてしまったら、もはや個人の力では何もできない「群衆雪崩」。巻き込まれないためにどうすればいいのか。廣井さんが強く訴えるのは“地震が起きたら、帰ることより、帰らずに安全を確保すること”です。

    廣井さんは「東日本大震災の経験であのときは帰れたから大丈夫だと思っている人が多い」と指摘しています。

    しかし、東日本大震災の時は、地震発生が平日の昼間であったことや都心は震度5強程度だったため、東京では一度は運休した鉄道が夜には一部運転を再開するなどして、帰宅行動がある程度分散しました。しかし首都直下地震では、都心各地で同時多発的にもっと深刻な事態が起こると予想されます。群衆事故が発生するリスクは東日本大震災時よりも高いのです。

    事故が発生しやすい場所は、大きな道路と道路が交わる交差点や橋。駅も、地下街や周囲のビル街から出てくる人たちが集中するため危険な状態になりやすいといいます。

    地震発生時、外出先で群衆雪崩を回避するための心得
    • 駅には近づかない(駅は情報を求める人が集中しやすい)。特に高齢者や子ども連れは近づかない。
    • 原則は「帰らない」。安全が確保できる場所で待つ。地震後3日間は会社や学校、一時滞在施設で待機するつもりでいること。
    • 事前に家族と話し合い、家族の安否を確認する手段を確保しておく。家族と連絡がつけば職場や外出先から無理に帰らずに済むことがある。災害用伝言板やSNSなどの連絡手段を決めて訓練を。また、震災時は通信手段が一切使えなくなる可能性があることも話し合っておく。

    地震洪水

    地震が引き金で起きる水害 「地震洪水」とは

    地震洪水とは、河川の堤防が、地震による揺れや液状化で致命的なダメージを受け、川の水が市街地に流れ出す現象をいいます。

    2016年の熊本地震で最大震度7の地震が短期間に2回発生して以降、地震による堤防決壊の危険性を指摘する声が高まっています。被害が大きくなるおそれが特に高いのが、いわゆるゼロメートル地帯、東京東部や名古屋などに広がる地盤が海水面よりも低い土地を襲う地震です。

    堤防も地震で深刻なダメージを受けます

    例えば東京湾に面したゼロメートル地帯には176万人が暮らしています。普段は堤防で守られていますが、東京 江戸川区の元土木部長で現在は公益財団リバーフロント研究所で災害対策を研究する土屋信行さんは、堤防が地震の繰り返しで破壊される可能性があり、市街地は地震による被害を受けるだけでなく、同時に地震洪水にも襲われるおそれがあると指摘しています。

    しかもゼロメートル地帯は雨が降っていなくても浸水が一気に広がります。避難が遅れれば数万人の命が危ないといいます。東京都は現在、大地震発生に備えた堤防の補強工事を行っています。

    阪神・淡路大震災では地震洪水の危機が迫っていた

    1995年の阪神・淡路大震災では、大阪府を流れる淀川の下流域の堤防が大きな被害を受けました。2㎞に渡って高さが最大3メートル沈下するなど19か所、約5.7kmの区間で沈下や亀裂などが発生しました。堤防の基礎地盤の液状化が発生したためと考えられています。幸い、洪水や人的被害は発生しなかったこともあり、阪神・淡路大震災で堤防が崩れる被害があったことはあまり知られていません。

    阪神・淡路大震災で崩れた淀川の堤防

    地震と大雨の「複合災害」

    大地震が発生するタイミングが運悪く台風などで川の水位が高い時期だったり、あるいは地震で堤防が傷んだあとに大雨が降ったりすることも十分考えられます。このように、地震に別の災害が加わる「複合災害」では、より深刻な被害が起きます。

    東京理科大学の二瓶泰雄さんたちは、地震で堤防が傷み、のちの大雨でその堤防が決壊するケースに注目して研究しています。

    全国で発生した過去の地震と、水害で堤防決壊が発生した箇所の位置関係を分析した研究によれば、地震の震度が大きかった地点と、水害による堤防の決壊地点が重なるケースが多いといいます。

    メカニズムを調べるため、堤防と川を模した実験装置を使って“傷ついた堤防”に大雨に相当する水を流してみると、小さな亀裂でも水が侵入して“堤防内部”の土が一気に削られ、“決壊”することが分かりました。

    東京理科大学の実験

    もし、首都直下地震が、台風などで川の水位が高い時に発生し、都心近くを流れる荒川が決壊したらどうなるのか…。内閣府が水害を想定して公表した資料によれば、都心方向に流れ出た水は、地下鉄のトンネルにも流れ込み、17路線の81駅が水没状態になるとされています。(東京都では、地下鉄事業者と駅ビルや地下街の管理会社などを集めた浸水対策協議会を作り、いざというときに備えた具体的な浸水対策の策定を急いでいます。たとえば東京メトロは、地下トンネル入り口に非常時用の防水ゲートを設置するなど地下への浸水を防ぐ工事を進めていて、2027年度中の対策完了を目指しています)

    荒川の堤防が決壊した場合の被害想定マップ

    「速やかな避難を」 ゼロメートル地帯で始まっている意識改革

    ほとんどの地域がゼロメートル地帯にある東京 江戸川区では、ハザードマップで「ここにいてはダメです」と強い言葉で危機を呼びかけている。区内のほぼ全域に浸水のおそれがあり、しかも1週間から2週間に渡り水が引かないと考えられているためです。

    同じくゼロメートル地帯の東京 葛飾区では、住民が自主防災組織を作り、避難や救助に使う船外機付きのゴムボートを用意して地震による水害発生に備えています。

    自主防災組織の防災訓練 東京 葛飾区

    住民自身が自主的に避難行動を取る必要もあるが、ひとりでは迅速な避難が難しいお年寄りには、赤い旗を配り、避難するときに助けを求める目印として使ってもらう独自の取り組みも始まっています。

    赤い旗を配り避難の呼びかける 東京 葛飾

    たとえば2019年10月の台風19号は全国で大きな被害をもたらしましたが、葛飾区では避難勧告が出ていない地域でも7500人が自主的に避難しました。東新小岩7丁目町会会長の中川榮久さんは、今後さらに「災害の当事者意識」を地域に根づかせ、命を守る行動を各自がすぐに取れるようにしたいと話しています。

    発災後 いつ何が起きるのか

    2013年に内閣府が公表した報告書「首都直下地震の被害想定と対策について」。この報告書は30年以内に70%の確率で起こるとされる首都直下地震で首都圏や日本全体にどんな被害が発生するのかを、学術的な調査にもとづいてまとめあげています。2019年12月に放送したNHKドラマ「パラレル東京」は、その調査資料に加えて、最新の研究成果も織り込んで制作されました。

    ここでは内閣府の報告書にある被害想定の文章から主な項目を抜粋して紹介します。(これはあくまで2013年時点の被害想定です。その後、国や自治体、民間をあげた対策も進められています)

    報告書が想定した地震

    冬の夕方、風速8mで、マグニチュード7.3の地震が都心南部直下で起きたと仮定。
    震度分布はこちら

    発災当日の被害様相

    ▼震度6強以上の揺れにより、約17万5000棟が全壊。都心部を囲むように多数分布する老朽木造住宅、老朽ビルを中心に被害が拡大。

    ▼液状化による全壊は約2万2000棟。東京湾岸及び河川沿いの液状化しやすい地盤の地域を中心に被害が拡大。

    ▼倒壊等による死者は約1万1000人、また、建物倒壊等により閉じ込め被害が発生し約7万2000人の要救助者が発生。いずれも実数は当初不明。救急車の台数不足。

    ▼震度6弱以上エリアの火力発電所が運転停止。関東以外からの電力融通含めても供給量は需要の5割程度に減少。広域停電が発生。

    ▼上水道の断水、23区で5割、一都三県で3~5割。下水道も一部で使用不可。

    ▼固定電話 大半で通話不能。携帯電話は音声通話ほとんどつながらず。メール大幅遅延。一都三県の携帯電話基地局の数%~1割が停波。

    ▼ガス、一都三県で1~3割で供給停止。

    ▼一般道、震度6強のエリアで幅員5.5m未満の道路の5割以上が通行困難。2車線の道路は通行困難箇所発生。4車線道路では車線減少も機能を果たす。
    国道4号、17号、20号、246号、目白通り、外堀通り、環状7号から内側の道路で、緊急自動車・自衛隊車両以外が規制。規制のない区間では渋滞(時速5km以下)。 避難者があふれ右左折が困難に。

    ▼高速道路、都内で480か所、一都三県で620か所の軽微な被害。点検のため規制。震度6強のエリアでは不通の可能性も。

    ▼首都圏の鉄道、全線不通。JR、私鉄の震度6弱以上のエリアで500mおきの割合で軌道変形。

    ▼羽田空港、成田空港閉鎖。

    ▼帰宅困難者、23区内で800万人。路上にあふれた帰宅困難者で緊急輸送に支障。
    家族の安否確認を行う災害伝言ダイヤル171も登録が殺到し容量が限界に。

    ▼エレベーター閉じ込め多発。救出に少なくとも半日以上。余震等の発生で死傷者。

    ▼ターミナル駅には周辺地区から利用者が押し寄せる。混雑状況が激しい場合、集団転倒などにより人的被害が発生。

    ▼倒壊した家屋、工場や店舗などの火気、燃料など約2000か所で同時火災が発生。湾岸の危険物施設では爆発や有毒ガスが発生、環状6号から8号周辺の木造家屋密集地などを中心に延焼が拡大、消火活動は不可能、燃え尽きるのを待つ状態となり約41万棟が焼失。
    火災旋風が発生するおそれもあり最悪の場合、屋外で移動中の人が多数焼死する。火災による死者は累積1万6000人に上る。

    ▼被災地内外での買占めが発生し、コンビニ、小売店の在庫は数時間で売り切れる。特に飲料水は大幅に不足。

    ▼首都圏のガソリンスタンドの一部が倒壊、損壊等の影響を受け、営業が不能となる。
    被害がなくても大規模停電の発生地域において多くのガソリンスタンドの営業が困難に。

    ▼医療機関、膨大な数の医療需要発生。建物被害やライフライン機能支障、電子カルテの閲覧困難等により機能低下。

    ▼海岸保全施設や河川管理施設等では震度6弱以上の強い揺れや液状化により沈下、損壊する。

    ▼民間企業の本社が被災し、被災地外の支社等も含め、企業の事業活動が停止する。

    ▼省庁の職員及び国会議員が同時に多数被災し、一時的に国家の運営機能が低下する。

    発災翌日の被害様相

    ▼域外からの緊急交通路主要道路の啓開は半数。救助部隊の移動は限定的。

    ▼要救助者の状況悪化。生存率を高めるには72時間以内の救助が指標とされるが、膨大な救助件数になり、救助活動が間に合わず時間とともに生存者が減少する。倒壊した建物から救助された人でも挫滅症候群(長時間体を圧迫され続け解放後に起こる病態)により死亡する人が発生する。

    ▼電力は一部で供給再開も、通電時の電気機器や電気配線のショート等による通電火災が発生。
    停電継続。首都中枢機能を確保するため、都心部を除き、電力の需要抑制が行われる場合がある。

    ▼浄水場では非常用発電機の燃料切れが発生し、断水地域が拡大。下水道も一部で使用できない状態がつづき、大量の仮設トイレやマンホールトイレ等が必要に。

    ▼携帯電話基地局の非常用電源の燃料枯渇とともに機能停止拡大。一都三県で約5割(23区でも約5割)の基地局が停波。

    ▼発電機のない医療機関で機能停止。医薬品不足も発生。

    ▼高速道路と一般道について、災害対策基本法に基づく規制が本格化。高速道路は点検終了後、緊急車両のみ通行可。ただし地盤沈下などの影響が出た場合、その高速道路は3か月以上通行不能。国道は放置車両が交通を妨げ渋滞。広域的な停電の影響で信号などの交通管制に支障が生じ、手信号による対応が行われる。

    ▼大規模火災は継続。消防車の不足と現場への到着が追いつかないため、ほぼ消火不能の状態。

    ▼鉄道、震度6弱のエリアで復旧準備が進むが不通。震度5強以下のエリアで点検・補修後、順次運転再開。

    ▼羽田空港、緊急物資・人員輸送の受け入れ拠点に。

    ▼避難所・友人宅などへ300万人(都区部150万)の避難者発生。避難所に指定されていない施設への避難で災害対策に支障。避難スペース不足、水・食料も不足。

    ▼避難所で避難者と帰宅困難者の区別がつかず混乱が継続。帰宅困難者の健康悪化。

    ▼食料が大幅不足。被災者のニーズ把握困難。全国的に買い占め発生。

    発災から3日目の被害様相

    ▼域外からの緊急交通路主要道路はほぼ啓開も、いまだ救助部隊の移動限定的。救助を待つ生存者減少。

    ▼水道は首都中枢機能や災害拠点病院等の重要施設への供給に関わる管路復旧が進められる。

    ▼大規模火災 鎮火傾向。多数が広域避難場所から避難所へ。

    ▼被災地外からの商品供給など困難つづく。

    発災から4日目~6日目の被害様相

    ▼電力供給は、火力発電所が限定的に運転再開するも、停電率は一都三県で5割変わらず。都心部を除き計画停電などの需要抑制が行われる場合がある。

    ▼上水道の断水、23区でなおも4割。一都三県で2~4割。下水道も一部で利用できず。仮設トイレも不足し衛生状態悪化。

    ▼一都三県で携帯電話基地局の5割が停波したまま。移動用無線基地局の配備で限定的に回復。

    ▼高速道路、国道などの主要道路が緊急輸送道路として啓開が概成。深刻な渋滞は解消するも、首都圏全体で慢性的渋滞継続。民間企業の活動再開に向けた動きが本格化。

    ▼鉄道、不通路線はなおも不通のまま。被災地外に移動したい被災者多数はほとんど移動不可。復旧要員の絶対数が不足。

    ▼羽田空港からの緊急輸送本格化。ただし滑走路の液状化で復旧の長期化も。また空港までのアクセスの寸断で羽田空港孤立の懸念も。近隣のコンビナート火災の影響で離着陸に支障も。
    震度5強~6弱の余震で繰り返し閉鎖の可能性。

    発災から1週間後の被害様相

    ▼電力供給、一都三県で5割変わらず(9割回復までに1か月)。

    ▼上水道の断水、23区でなお3割。一都三県で2~3割(断水解消9割まで1か月)。

    ▼一都三県で携帯電話基地局の5割が停波したまま。

    ▼高速道路、一般国道の一部で規制解除(一般車両が通行できるようになるまで1か月)。

    ▼新幹線全線、地下鉄の一部で運行再開。在来線不通区間は不通のまま。バスによる代替輸送開始も需要をまかないきれない(1か月後でも復旧は60%)。新幹線で脱線発生の場合、復旧まで2か月。

    ▼道路、港湾等の交通インフラが復旧しても、物資を運ぶトラックの燃料が不足し、物資の調達、配送は困難。

    ▼避難所では、人的・物的資源の対応が遅れ、冬季はインフルエンザ等の蔓延、夏季は熱中症、脱水症状等の健康被害が拡大。