2023年04月05日
(聞き手:小野口愛梨 藤原こと子)
人口減少による地域経済の衰退や、日銀の超低金利政策に伴う利ざやの縮小などを受けて大きな変革期を迎えている地方銀行。その現状やこの先の展望について、横浜銀行の人事担当者に聞きました。
そもそもなんですが、地方銀行の役割について教えてください。
メガバンクが大企業を中心に取り引きしているのに対して、地方銀行の取引先は地域の中小企業が中心です。
より地域に密着し、その土地の経済を支えることが私たち地方銀行の使命です。
新型コロナの感染が急拡大したときには、観光業や飲食業界を中心に、神奈川県の経済も大きな打撃を受けました。
そうした苦しい時にしっかりと手を差し伸べられることが、地域の企業から求められていることで、そこに地方銀行の存在意義があると考えています。
ひとつ目のマストなニュースは「地方創生」ですね。
なぜこのニュースを選ばれたんですか?
地域経済が活性化されれば、企業が増えて雇用が生まれます。
そして、雇用が増えて地域に住む人が増えれば、新たに住宅が建って、お店もできていく。
はい。
そうなると、銀行の仕事も増えて、最終的には銀行の利益としても還元されていくわけです。
当行の主な営業地盤である神奈川県・東京都の場合は人口が増えている地域もあるので、まだ恵まれた環境にあると言えるかもしれません。
ただ、人口減少が急速に進んでいる地域における地方銀行では、経営を取り巻く環境がどんどん厳しくなってきています。
こうした中、なんとか地域を元気にしていこうということで、地方創生に力を入れているんです。
もともとの地方銀行の役割とも共通しますね。
あとは、日銀の超低金利政策によって日本が金利が低い状況が続いていることも、地方創生に力を入れている背景の1つです。
銀行から企業にお金を貸す際に得られる利息収入は銀行にとって収益柱の1つでした。
金利が低い状況だと、お客さまにとってはお金を借りる際の金利が安く済む一方で、銀行は従来のお金を貸す仕事をやっているだけではなかなか収益があがってこない時代になってきました。
経営基盤を強化するために地方銀行どうしが経営統合するというニュースをたびたび耳にします。
外部環境がどんどん厳しくなっている中、従来の銀行ビジネスから幅を広げ、収益柱を増やしていく過程では、同業どうしで競合し続けるのではなく手を取り合って効率化していきましょうという思いが通じ合った際に統合が実現します。
具体的にはどのようなメリットがありますか?
新しいシステムの開発をするにしても、2つの銀行が共同して行う方が投資コストを低く抑えることができますし、同じような場所にある店舗を見直すこともできます。
それぞれの銀行のノウハウや強みを相互活用して付加価値の高いサービスを実現したり、競合していないエリアを補完し合うことも可能になります。
地方銀行どうしの統合や提携はこれからもますます進んでいくと思いますね。
横浜銀行は2023年2月、同じ神奈川県内に本店を置く「神奈川銀行」の株式の公開買い付けを行い、完全子会社化を目指すことを発表している。
地方創生って具体的にはどんなことをしているんですか?
例えば、神奈川県三浦市では地元の不動産会社などと協力して、古民家を改装し、宿泊施設にする事業に取り組みました。
宿泊施設を目当てに外から人が来てくれれば、地元の観光業にとってもメリットが生まれますからね。
このほか、ATMコーナーに生鮮品を販売するボックスを設置して地元の特産品の販路拡大を支援する取り組みを行ったりもしています。
お金を貸すばかりが仕事じゃないんですね。
他にも、学生さんの起業支援や、取引先企業どうしを結びつけるビジネスマッチングなどもしていますよ。
マッチング?
企業にとって、よく知らない会社といきなり取り引きを始めることは勇気がいることです。
でも、銀行はそれぞれの会社と取り引きがあって財務状況を把握したうえで紹介していますから、安心感をもって取り引きを進めてもらえるわけです。
なるほど、銀行だからできることなんですね。
続いてのニュースはフィンテック。あまり馴染みのないことばですが、どんな意味でしょうか。
フィンテックというのは、金融=ファイナンスと、技術=テクノロジーを掛け合わせて新しいサービスを生みだすことです。
身近なところで言えば、皆さんスマートフォンを使ってお金を誰かに送ったり、支払ったりすることはありませんか?
よくあります。コンビニでの支払いをスマホで決済したり。
そのようなキャッシュレス決済はフィンテックの代表的な例の1つですね。
銀行の窓口でも、以前は口座開設や住所変更届などの手続きには、お客さまが手書きした書類の提出が必要でした。
現在は店頭に設置しているタブレット端末へ入力するだけで手続きができるようになっています。
事務手続きの時間が減ることでお客さまの待ち時間も少なくなったり、ペーパーレス化による環境への配慮にも繋がります。
お客さんにとっても、銀行にとっても良いことなのですね。
あとはお客さまに金融商品を紹介する際に、アンケート結果に基づいてAIがその人に最適な商品を提案してくれるようになっていたりもします。
一方でデジタル化が進んでいくと、高齢者の中には利用しづらくなったと感じる人もいそうです。
確かにそうですよね。
そういったことを軽減するために、専門の案内係を配置している店舗もあります。
交通費をかけて銀行に来ていただかなくても、すべての方が同じサービスをいつでも、どこでも受けられるようにしていきたいと思っています。
フィンテックが進んでいくと、もしかすると10年先や20年先には、銀行に来店されるお客さまがいなくなっていたり、ATMが姿を消していたりするかもしれません。
窓口が必要なくなっちゃうんですか?
銀行の役割が確実に変わってきているということですね。
これまで、銀行の支店というのはキャッシュポイント、つまりお金のやりとりをする場所でした。
それが今は、地域のお客さまの困りごとや相談ごとを聞いて解決に導くコンサルティング業務の拠点としての役割に重きが置かれるようになってきています。
3つ目は人的資本への投資ですね。
先ほどのお話ではフィンテックによって人の仕事が減っていくようなイメージだったので少し意外な感じもします。
今も昔も変わらず、銀行員にとって大切なのは人間力です。それはデジタル化が進んだとしても同じです。
例えば、中小企業の経営者が後継者不在で事業を継続するか悩んでいたとします。そんな時にわたしたち銀行員は悩みを本音で相談できる相手でなくてはいけないと思っています。
人の懐に飛び込むということはAIにはできませんからね。
特に地域の人たちとの関係を築きながら仕事をする地方銀行にとって、人を育てていくことは重要なテーマなんです。
なるほど。たとえば、どのような取り組みをされているんですか?
銀行員のキャリアアップって一昔前までは、みんな支店長を目指しましょう、といったような画一的なものだったと思います。
ところが、最近ではデジタル・ITについて専門性を高める人がいたり、より高度なソリューション提供ができるプロ人材を目指す人がいたり。
同じ銀行員でも、人それぞれにキャリアの選択肢が増えてきています。
いろんな道があるんですね。
多様な「人財」を育てるために、兼業・副業や外部出向などキャリアを築くうえでの機会も充実させています。
新卒採用でも専門コース採用をスタートさせていますし、ぜひご自身のキャリアを主体的に描いていってほしいと思います。
それと、キャリア形成の支援だけではなく、いろんな人材が活躍できるように改革に力を入れています。
プライベートを大切にしながら仕事を両立しやすいように、託児費用の補助や、産育休の取得前後のキャリア形成支援も充実させています。
男性の育児休業の取得率はことし2月時点で100%です。
100%ですか!
あとは、ワークライフバランスの充実に取り組む中で、女性の活躍の場も広がってきています。
支店長というと以前はほとんどが男性でしたが、いまは30人を超える女性支店長が活躍しています。
仮に結婚や配偶者の転勤などを機にほかの地域に転居することになった場合でも、その転居先の地方銀行に就職ができる「地銀人材バンク」という仕組みもあります。
結婚、出産後のキャリアも描けるというのはうれしいですね。
ほかにも、別の部署へ異動の希望をみずから申し出ることができる公募制度や、一度当行を退職した人に戻ってきてもらえる「アルムナイ採用」といった仕組みもつくっています。
一度辞めても、また戻ってきていいんですね。
退職していったん別の会社に移り、そこでの他流試合や越境学習を通じて、新たな力を身に付けてきてくれることを期待しています。
最後に地方銀行で働くことの魅力について教えてください。
1つの地域にとことん向き合い続けて、その地域で人間関係をつくっていかれるところに大きな魅力があると思います。
その地域とともに泣き笑い、自分も同じ場所に根ざして一緒に成長していくことができる。これが地銀の仕事のだいご味です。
それと転居を伴う異動がほとんどないことも、安定した生活環境を求める人にとっては魅力的かもしれませんね。
どんな人材が求められているんでしょうか?
変革期を迎える地方銀行に必要なのは、柔軟な発想で新たな価値創造に意欲的、かつ成長意欲・コミュニケーション能力の高い人材です。
銀行は形のない商材を扱う仕事ですから、一人ひとりの人柄も重要です。
全員が同じタイプである必要はありませんので、それぞれの個性を最大限発揮していただければと思いますね。
ありがとうございました。
撮影:佐藤巴南 編集:廣岡千宇
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