2023年03月08日
(聞き手:梶原龍 西條千春)
いまや企業の成長にとって必要不可欠ともいえるDX(=デジタルトランスフォーメーション)の推進。でも、国内では順調に進んでいるとはなかなか言い切れない状況にあるんだそうです。
VUCA(ブーカ)と呼ばれる未来の予測が困難な時代に、IT業界やコンサルティング業界を目指す上で知っておきたいニュースについて、野村総合研究所に聞きました。
「総合研究所」という社名から、コンサルティングなどをしているのかなと想像しましたが、事業の内容について教えてください。
弊社は、社会の課題を解決して未来の社会を作っていくことを目指す会社です。
確かに社名に「総合研究所」とあるので、コンサルやシンクタンクのイメージを持たれることが多いのですが、主な事業としては「ITソリューション」と「コンサルティング」の2つがあります。
なぜその2つなんですか?
もともとは別々の会社でやっていた事業だったんです。
でもコンサルはあくまで“ブレイン”。今では課題解決を実現する手段としてITという武器が欠かせないですよね。
そのため、30年以上前から一緒に事業を行っています。
今ではほかの会社でも、「ITもコンサルも」と言って取り組むようになりました。
どちらかだけではだめなんですね。ところで「ITソリューション」ってどんな仕事なんですか?
皆さんのイメージは「システムを作る」ことだと思うんですけど、単に作るだけではなくて、お客様のビジネスや業務を変えることを目的に幅広く関わっています。
例えば家づくりの場合、そこには家の設計を考える“建築家”、実際に家を作る“職人”、そして完成後のアフターサービスを行う“コンシェルジュ”の仕事がありますよね。
こうした一連の仕事すべてに関わるのが、ITソリューションです。
幅広いんですね。
ビジネスの課題を考える最初のところから、実際にシステムを運用、サポートするところまでたくさんのことをやらせていただいてるのが仕事の醍醐味です。
どんなところで役に立っていますか?
例えばコンビニの受発注システムや化粧品メーカーのWEBサービス、保険のシステムなど身近なところで活用されています。
もともとは金融の分野が中心だったんですが、コンサルという武器をうまく生かしながらお客様の課題にあわせて事業領域を広げてきました。
コンサルの人がITのことを知り、ITの人もコンサルのことを知って、強力なタッグを組むことが、これからますます大事になると思っています。
一つ目のキーワードは「DX」ですね。
皆さんは「DX」ってどれくらい知っていますか?
DXっていう言葉は最近よく聞くんですけど、具体的には説明が難しいです。
そうですよね。DXとは「Digital Transformation」の略です。
簡単に言えば、「デジタルの力やシステムの力を使って新しいビジネスを作っていこう、デジタル技術を武器にビジネスを考えていこう」というものです。
IT化、デジタル化って昔からあると思うんですが、DXは何が違うんですか?
これまでのIT化やデジタル化って、コスト削減とか品質向上とか、「業務の効率化」が目的だったと思います。
一方でDXは、「新しい価値の提供」を目指すものです。
新しい価値?
最近、サッカーワールドカップで三苫選手のVAR判定が話題になりましたよね。
人の目では正確にわからなかったと思いますが、デジタルの力で判定ができたものです。
こうしたDXによる技術革新が、今いろんな分野で進められています。
新しいビジネスにつながっているということですね。
最近では一企業のビジネスにとどまりません。
近年は脱炭素化や省資源化などに目が向けられていますが、こうした社会全体の課題もDXで変えていかないといけないですよね。
弊社ではこれをDXの新しいステージ「DX3.0」と位置づけて力を入れています。
具体的にはどんな取り組みをしていますか?
例えば山形県鶴岡市では「スマートシティ」の推進を支援しています。
まず第一歩として、市民がまちづくりの課題についてネット上でお互いに意見を交わせるようなプラットフォームを作りました。
目安箱や意見箱のように住民の声を吸い上げやすい仕組みを整えることで、市役所も住民のニーズをより把握しやすくなります。
まちのDXって難しそうですけど…。
誰も経験したことがないですし、大変だと思いますよ。
それでもこうした取り組みを進めることで、市民生活の向上や産業振興、定住促進など地域の課題の解消につながっていくと期待しています。
日本ではDXは順調に進んでいるんですか?
そうとも言い切れないんです。
企業ごとに独自に使い続けてきたシステムの複雑さ・ブラックボックス化が問題となって中々DXが思うように進まないケースがあり、いかにこれを実行するかが課題になっています。
困っている企業も多そうですね…。
実は、このままDXが進まないと、2025年以降、最大で毎年12兆円の経済損失が生まれるという可能性が、経済産業省によって指摘されているんです。
あと2年しかないですね…。
データをうまく使いこなせないと宝の持ち腐れになりますし、世の中について行けなくなってしまいかねません。
そうならないように、弊社としても引き続きDXのお手伝いが出来ればと思っています。
続いてのニュースワードですが、「VUCA」って何ですか?
「Volatility(変動性)」、「Uncertainty(不確実性)」、「Complexity(複雑性)」、「Ambiguity(曖昧性)」の4つの頭文字を並べた言葉です。
要するに、技術がどんどん加速度的に発達したり、金融リスクや地政学的リスク、パンデミックがあったりする中で、今後世の中がどうなっていくのかわからないという現代の状況を表しています。
どうしてこの言葉に注目しているんですか?
企業は通常、5年後10年後を見据えながら経営計画を立てて事業を行っています。
それが今のVUCA時代では、「5年前の計画でさえ時代遅れになってしまう」といった状況が、これまで以上に起こりやすくなっているんですね。
ビジネスに大きく影響しそうですね。
そうですね。こうした環境の変化に対応していくために、コンサルティングの機能を高めていこうという意識が高まっています。
例えば弊社では、コンサルに関わる組織の改編を毎年進めています。
DXに特化した部署や、あるいは最近注目のSDGsなどサステナビリティに特化した部署を新設するなど、企業のニーズにあわせて対応しています。
実際のコンサルティングのしかたも変わってきているんですか?
IT部門とコンサルティング部門が、部門やグループの垣根を超えて一緒に事業に関わることも増えています。
例えば「どこかにマイル」という航空会社のサービス。
通常の半額以下のマイルで、国内の“どこか”に行くことができます。
おもしろそうですね!
もともと、新規の航空需要につながる新しいマイルを活用したサービスを生み出したい、ただ需要をどう掘り起こしたらいいのかわからないという課題が航空会社にありました。
お客さんにワクワク感や新しい体験を提供できて、なおかつ需要もありそうだという調査結果も得られたので、新しいビジネスとして誕生した形です。
ほかにも、建設業界のDXを進めるため建設機械メーカーや通信会社などと一緒に会社を設立しました。
ほかの企業を支援するだけでなく、みずから事業を立ち上げたり投資したりもしています。
よりコンサルティングの力が必要になっている?
そうですね。今の世の中ではITの力も不可欠なので、ITとコンサルの力を組み合わせることがどんどん増えていくと思います。
コンサルって、これまでは「調査する役割」と「解決策を提示する役割」が求められていたと思うんです。
でも、先行きが不透明な時代だからこそ、今存在している課題に対する解決策を提示するだけでは不十分です。
その先を見据え、真の課題を見極めて提起するような「アジェンダシェイパー」、課題設定ができる人が求められると思います。
3つ目は「健康経営」を挙げていただきました。
企業の最大の資源って何だと思いますか?
人ですか…?
その通り、「人材」です。
人を働かせすぎるのではなく、心も体も健康で楽しく働いてもらうことが企業の持続的な成長に欠かせないというのが「健康経営」の考え方です。
ITやコンサル業界って、結構多忙なイメージがあります…。
よく学生からも聞かれます。
でも最近ではワークライフバランスの実現や多様な働き方を推進していて、在宅勤務や時短勤務、フレックスタイム制などをどんどん取り入れて働きやすい環境づくりをしています。
私もけさ、保育園に子どもを連れて行ってから会社に来ましたよ。
働きやすい環境が整ってきているんですか?
そうですね。弊社では「ワークライフバランス推進」のほかにも、「生活習慣病を減らす」「ストレスを減らす」「喫煙率を減らす」という目標を掲げて心身のケアに取り組んでいます。
健康づくりって意外と簡単ではなさそうですけど、どうやって実現しようとしているんですか?
例えば、こちらのアプリなんですけど。
アプリですか?
社員全員が使っているんですが、日頃の食事を記録したり、お酒を飲まない日を設定したりできます。
また歩数も記録されるようになっていて、「きょうの歩数は社内で何位です」といったようなこともわかるんです。
私もきょうの歩数を見たら部内で30人中25位だったんで、「もっと歩かなきゃ」と意識しますね。
遊び心がありますね!
取り組みの成果も出ているんですか?
運動習慣がある社員は2014年度には10%ほどだったんですが、2020年度には20%以上に増えています。
少しずつ健康意識が浸透しているのかなと感じています。
理系出身の社員が多そうですが、文系など専門性がなくても大丈夫ですか?
そうですね、ITにも結構文系出身の方がいますし、コンサルは文系も理系も半々です。
入社してから勉強したり先輩から学んだりすることが多いですね。
私もIT部門の仕事をしていましたが、学生時代は情報系専攻ではありませんでした。
いろんなバックグラウンドの人がいます。
学生にはどんな素養を期待していますか?
よく学生に伝えているのは、「何事も挑戦し続ける強い意志」と、「自分で考え、目標を立てて行動する力」の2つが大事だということ。
自分の意志で動くことが新しい価値を生み出すことにつながると思いますし、そういう方と一緒に働きたいですね。
あと何でもいいので、学生時代にとことんやりきったという経験をしてほしいです。
ただそれだけじゃだめで、その経験で自分がどう変わったのかを意識することも大切にしてもらいたいです。
ありがとうございました。
撮影:本間遥 編集:松原圭佑
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