2021年11月12日
(聞き手:白賀エチエンヌ 田嶋瑞貴)
私たちが暮らす家。新型コロナの影響で、その家の在り方が「帰る場所」から「生きる場所」へと大きく変化していると言います。住宅メーカーはどう対応しているのか、大和ハウス工業の人事担当者に聞きました。
住宅メーカーってどういうお仕事をされているんですか。
骨組み、柱や壁などの建築の資材を規格化して工場であらかじめ製作、全国規模で住宅を建築してる会社のことを住宅メーカーと呼びます。
例えば、私たちの注文住宅の事業では、お客様との出会いからアフターサービスまで一気通貫して担当しています。
話し合いから販売後まですべて見ているんですね。
ちなみに、実は私たちはプレハブ住宅の原点となる商品を日本で初めて生産した会社なんですよ。
そうなんですか。
当時は木のカットから組み立てまで、すべて現場で行うのが日本の建築のノーマルな形だったんですが。
工場でできるものはあらかじめ工場で作ろうということを始めたんです。
ニュースについてですが、どうしてニューノーマルを選ばれたんですか。
新型コロナウイルスで常識や働き方、生活が一変したと思います。
当社もニューノーマルでの住まいの在り方を追求してきたので、この話題を選びました。
住宅メーカーにどういう影響があったんですか。
私たちも、最初の全国での緊急事態宣言の期間には全国の建設現場をストップしたんです。
全国ですか。
2020年度の決算では、それまで右肩上がりだった売り上げが下がってしまいました。
今はコロナとの向き合い方も徐々に慣れてきていると思うんですけれども。
ニューノーマルな時代にもうなってますよね。
そのニューノーマルな時代の住まいってどういうものですか。
家というのは多くの働く人にとって、これまでは「帰る場所」だったんじゃないかと思うんです。
帰って、くつろいで、そして寝る場所。
それがコロナで働き方が大きく変わって、家というものが学んだり働いたり、何か夢中になったり、年を重ねていくような場所になったと思います。
私たちは家というのを「帰る場所」ではなく「生きる場所」だと定義し直しました。
生きる場所ですか、家へのニーズも変化しているんですか。
これまで提案していた平均的な間取りよりも、プラス1部屋がほしいというニーズが高まっているようです。
そのプラス1は、やはりテレワークを踏まえてですか。
そうですね、家でも集中して仕事がしたいというニーズには防音の個室を作ったり、マンションの共有部をテレワークができるつくりに変えたりしています。
サービス面でも変わったことはありますか。
今までは展示場に来ていただいて、営業担当者とひざ突きあわせて一緒に家づくりをしていました。
それがコロナで、お客様に簡単に「展示場までお越しください」と言えなくなったんです。
そこで、WEB上で住宅の間取りや外観、内装を検討して、事前に情報収集をしていただいたうえで商談を進める方法を提案しました。
WEB上での商談はうまくいってるんですか。
がっつり営業をかけられるのが苦手な人も増えているので、非常に反響が多くて、うまくいっていると思います。
住宅以外の事業には影響って何かありますか。
物流施設も扱っていますが、このコロナ禍でお買い物に行けない中で、インターネットショッピングって全世界で増えてるんですね。
そういう意味で物流施設はニーズがさらに高まってきていると考えています。
なるほど。
一方でここ数年、非常に力を入れてホテルを建設していたんですね。
コロナ前はインバウンドが多くてホテルが足りないってことで、私たちもたくさん建設しようとしていました。
それが、今は外国人の方が日本に入ってこられないので、ホテル事業はどちらかというと打撃を受けています。
続いて建設DXですが、そもそも何なのでしょうか。
まず、建設業界が抱えるいくつかの深刻な課題を説明させてください。
1つは、人手不足。2つめは現在働いている職人さんの高齢化、そして、長時間労働です。
今55歳以上の方って、もう少ししたらリタイアされる。
そのあと建設業の担い手はどうなっちゃうのって、本当に深刻なんですね。
そうですね。
長時間労働も、働き方改革も待ったなしと、業界あげて取り組んでいます。
こういった課題を解決するためにはやっぱり最先端テクノロジーを活用していく。
つまり、建設のDXを推進していくのが不可欠なんじゃないかなと。
建設業でどのようにDXをしていくんですか。
私たちは主に3つの側面からDXを進めています。
まず、BIM=ビルディングインフォメーションモデリングと呼ばれているプラットフォームを全国の現場で導入していこうとしています。
BIM?
建物って、2次元の紙の上に書いた設計図をもとに3次元の建物を建てていきますよね。
そうではなく、最初から3次元の建物モデルを作って、そのモデルの中に材料やコストとかのデータを全部ひも付けます。
そして、設計から現場での施工、建物が完成したあとの維持管理、運用、すべて一気通貫で活用していくというプラットフォームなんです。
設計図を2次元から3次元に変化させるというのはすごく興味深いです。
でも、これがどう人手不足や高齢化の解決につながるんですか。
建物は設計する人とかコストを計算する人とか、たくさんの人がチームを組んでできあがります。
その情報が1つの3Dのモデルに全部詰まってる。
一元管理できて無駄がなくなるので、業務の効率化も進むのではないかと思います。
作業量が減れば必要な労働力も減っていくので、人材の不足も解決していきたいです。
無駄な作業工程が省けるという点で効果的なんですね。
2つ目は全国の現場の状況をリアルタイムでモニタリングしていく「スマートコントロールセンター」の導入です。
全国の現場にカメラとセンサーを設置して、職人さんはウエアラブルデバイスなどを着用してもらって、現場の状況や職人さんのバイタルデータが全部センターに届きます。
現場に行かなくても現場の状況が分かって、遠隔管理ができます。
なるほど。
3つ目は、測量や溶接などの作業を効率化するロボットやIoT機器の導入です。
現場の職人さんの負担を軽減したり、高齢の職人さんがいなくなってもカバーできるような取り組みをどんどん進めてます。
実際の効果はいかがですか。
まだ、設計段階はひととおりBIMで行える土壌がやっとできあがってきたというところです。
ただ、あまり時間をかけずに進めていきたいと考えています。
そうすると、やっぱりITに強い人材がほしいんですか。
デジタルに強い人材は大歓迎です。
ものづくりの業界なので、ものづくりを楽しみながらデジタルの観点を持って今までのやり方を改善改革していきたいですね。
街の高齢化って何ですか。
私たちは高度経済成長期に郊外にたくさん街を開発しました。
当時は戦後、人口が爆発的に増えて、家族も核家族化して住む家がないというのが社会現象だったんです。
そこで、都心から少し離れた山とかを切り開いて宅地に造成し直して街を作った、いわゆる住宅団地です。
私たちはそうした街を全国に61か所作りました。
61か所も。
でも、その街自体がどんどん老朽化しています。
当時30歳くらいの方々が入居してもう50年たってるので、その人たちも80歳、高齢化が進んでいるんですね。
SDGsの中で「つくる責任つかう責任」というゴールがありますが、手がけた街に対する責任が私たちはあると考えています。
街が高齢化するとどんな影響が出てくるんですか。
地域コミュニティーがどうしても希薄化していくと思いますし、空き家の問題もあります。
なるほど。
建物って住む人がいなくなると一気に老朽化が進むので、倒壊するおそれもあります。
そうすると治安の悪化にもつながる。
空き家がたくさんあると、その街自体の魅力も下がりますよね。
そうすると、街全体の価値も下がって若い世代が入ってこないという悪循環に陥ってしまうんです。
メーカーとしてどう対策しているんですか。
私たちは「再耕」と呼んでいますが、単に再生するのではなく、これから街をどうしていきたいか、住んでいる人たちのニーズを聞きながら新しい価値を持つ街に作りかえようとしています。
例えば横浜の団地では、住んでいる人たちがお茶を飲みながらみんなでゆっくりと会話ができる「お茶場」がほしいということだったんです。
なので、働いている方は全員住民の方というコンビニを設置し、横にはフリースペースがあってイベントを開催したりするコミュニティー拠点になっています。
その「再耕」の取り組みをどのようにビジネスにつなげていくんですか。
実はまだ何かもうけようとしてるわけではないんです。
ただ、この取り組みの中で住んでいる人たちから、また建物を建て替えたいとか今度はこういう建物を建ててほしいという要望をいただけるのではないかと考えています。
なるほど。
開発者として、私たちが開発した街に住む皆さんにハッピーになっていただきたいんです。
街がどんどん廃れていくのって、さみしいじゃないですか。
もっと魅力的な街にしていくことで、ビジネスのチャンスも増えていくといいなと考えています。
本日はありがとうございました。
ありがとうございました。
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