2022年02月10日
(聞き手:小野口愛梨 梶原龍)
チャンネル登録者14万人、100万回再生の動画も。ちょっと話題のYouTubeチャンネル「BUZZ MAFF」。実は出演も撮影も編集も、すべて農林水産省の職員なんです。なぜ、農林水産省がネットに動画を?国家公務員YouTuberに直接、聞いてみました。
学生
梶原
YouTube見ました!農水省あるあるの動画、おもしろかったです。
あるあるの動画でバズってから、登録者がぐっと増えたんです。
農林水産省
白石さん
BUZZ MAFF(バズマフ)
農林水産省の公式YouTubeチャンネル。職員が出演、撮影、編集をこなし、農林水産物のPRや仕事の裏側を紹介。「出張の車で畑を見ると盛り上がる」など、農林水産省あるあるを紹介した動画は110万回以上再生されて“バズった”。
省庁が作っているパンフレットだと、なんだかキラキラしたことばっかり書いてありますよね。
それよりも実際に働いている人が言ったほうが、職場の雰囲気もつかんでもらえるかなと思ったんです。
結果的に僕らの仕事の内容に意外と興味を持ってくれる人がいるんだなと気づきにもなりました。
白石優生さん(24)
農林水産省 広報室に所属。入省3年目。九州農政局に所属していた時、YouTuberの募集に手を挙げ動画制作を開始。2021年から本省で公式YouTubeの運営も行う。
学生
小野口
白石さんは農水省の職員ですけど、YouTubeが担当ということでいいんですよね?
もともとは発信者の一人だったんですけど、今は「BUZZ MAFF」の運営や管理もしています。
他の担当の人たちから話を聞いてアドバイスするみたいな、マネジメント的なこともしています。
そうなんですね、農水省がYouTubeを始めたきっかけを教えてください。
それまでも農林水産省のTwitterとかFacebookとか、YouTubeもチャンネルがあって情報発信はしていたんです。
例えばプレスリリースをコピー&ペーストするだけとか、URL貼るだけとか、一方的な情報発信になっていたんです。
でも、これを若い人たちが見るのかと。
あー、なるほど。
で、当時の大臣が広報活動をすごく積極的にされる方だったんです。
「今、若い人たちの中でYouTuberっていうのがはやっているから、やりなさい」っていう無茶ぶりが来まして。
そこから1か月で体制を作って、2019年1月に始めました。
無茶ぶりですか。
農林水産省って全国の事業所も合わせると3万~4万人ぐらい職員がいるんですけど。
全員に対して「業務と並行してYouTubeをしてくれる職員はいませんか」っていう募集がありました。
僕は1年目で九州にいたんですけど、「やりますっ!」と手を挙げました。
なんで参加しようと思ったんですか。
すごく面白い取り組みだなと思ったのと、そもそも昔から目立ちたがり屋で(笑)
1年目の職員が農林水産省を代表して、自分のことばで情報発信ができるのはチャンスだと思って、すぐ「やります」って。
飛びついたのは直感的なものだったんですか。
瞬発力はすごく大事にしています。
迷った時にちょっとでもやりたい気持ちがあったら、絶対に手を挙げる。
今回のYouTuberもこれは面白いって思ってワクワクした気持ちがあったんで手を挙げました。
誰にでもできるように見えるかもしれないですけど、最初の一歩がすごく大きいと思ったんです。
最初の一歩を踏み出すのってけっこう難しいと思うんですけど・・・
チャンスって通り過ぎるのが早いんですよね。
回転寿司みたいなもので、来た時にちゃんと取らないと他の人に取られちゃうことがあって。
自分がやらずに他の人がうまくいってるのを妬む人間には絶対なりたくないんです。
やらない後悔が一番よくないと思うんです。
すごいです!
実際、どんな体制で動画を作っているんですか?
YouTubeをする人は広報室の肩書もつけて、そうすると仕事の時間をちゃんとYouTubeに使えるっていう仕組みです。
あとは業務時間の2割程度はYouTubeに使っていいですよって決まりも作っています。
仕事をしながらYouTubeもする・・・
はい、仕事の合間を縫ってYouTubeをします。
でも、両立できる人しか手を挙げていないはずなので、そこは大丈夫かなって感じですね。
実は2時間で作った動画がめちゃくちゃ再生されていたりするので、時間がないって言い訳もできないですよね(笑)
そうなんですね!
最初は本当に誰もうまくいくと思ってなくて・・・
動画の再生回数500回とかで、祝杯挙げてたようなレベルでした。
それがここまで見られるようになったんですね。
偶然もあるとは思うんですけど、一番最初に話題にしてもらったのが、ちょうど新型コロナで最初の緊急事態宣言が出たころでした。
花がどんどん増えていく動画なんですけど。
白石さんが九州農政局時代に作成した、花の消費拡大を呼びかける動画。マジメに呼びかける最中にどんどん花が増えていく様子が評判になり、100万回再生(2022年2月現在)。
卒業式とか結婚式とかが全国各地で中止になる中で花が全然売れなくて、全国の花農家さんが困っていました。
「この状況をYouTubeで発信しなさい」っていう指令がありまして。
でもその時まだチャンネル登録者数1000人もいってなかったんですよ。
えっ、そうだったんですか。
誰が見るんだろうって思いながらもその日に2時間ぐらいで作ったんですよ、あの動画。
自分たちが真面目に「花の需要が減ってます、皆さん買ってください」ってつらつら話している中で花が増えて、最後には満開になる。
見ました!
本当にしょうもないんですけど、それがすごいバズってテレビで色々紹介されたりして、90万回くらい再生されてですね。
それでやっと「BUZZ MAFF」っていうものが世の中に知られるようになったんです。
0が1になった瞬間でした。
なんで動画が見られたんですか。
国家公務員とか官僚ってすごく堅くて面白くないっていうイメージが世間にあって、それとは逆のことをしたから面白かった。
ギャップがウケた部分があると思います。
たしかに今まで、国家公務員ってどこか遠く感じていました。
そもそも国家公務員の人って組織が大きいので、代表して自分が顔出すっていうのは嫌がります。
間違いたくないからどうしても固い表現になっちゃって、それで面白くなくなっちゃってる。
僕らがしていることってその逆なので、新しいかなって思います。
たしかに!
「BUZZ MAFF」を成功例としてYouTubeを始める省庁や自治体があったり、ちょっとしたムーブメントにつながっていると思っています。
700本くらい動画を投稿したと仰っていましたが、バズるための工夫や苦労はありますか?
今はYouTubeの世界が本当にレッドオーシャンになっています。
考えつくすべてのジャンルで上位者がいる、何というか戦場みたいなところなんですよね。
その中でわざわざ農林水産省のYouTubeを見に来る理由を作らないといけないから、僕らしか作れない動画を作るようにしています。
例えば、「農林水産省あるある」って僕らしか作れないじゃないですか。
はじめしゃちょーさんもヒカキンさんも作れない、そういうものを作るようにしています。
なるほど、やっぱりバズることは大事ということですか。
そうですね、情報発信を考える指標って掛け算だと思っていて、1の内容でも100万再生されたらその効果は100万なんですよ。
で、めちゃめちゃ頑張ってメッセージ性を入れて10の内容だとしても、100回しか見られなかったら1000の効果しかないんです。
だったら、1の内容で100万再生された方がいいじゃないですか。
はい。
行政の情報発信だから再生回数はこだわらないとか、きれいごとは言っていられないですね。
だから、バズらせることを目的にしちゃいけないけど、目的達成のためにはバズらせないといけない。
そこ、難しくないですか?
そうですね、だから目的はちゃんとしています。
1つは「農林水産業を世界に向けて発信する」こと、それとそれを支える「農林水産省の仕事を身近に感じてもらう」こと。
その目的を達成するための手段として、ちょっとふざけてみたり、歌ってみたり、大臣にアフレコしてみたりする。
はい。
だから最初にバズった花の動画も、花を買ってもらうためという目的があったうえで、役人がやってこなかったようなポップな要素を入れているんです。
目的と手段をはき間違えると失敗しやすいと思うので、それは大事にしたいですね。
たしかに、炎上とかにつながりそうですね。
炎上は絶対できないチャンネルなので。
何でも流していいわけではなくて、まずうそは言っちゃだめ、数字はしっかり担当の人にチェックしてもらいます。
あとは一つの価値観を押し付けてもいけません。
なるほど、しっかりしているんですね。
あと、一番の炎上リスクって嫌われることなので、なるべく顔を出して自分の言葉でしゃべろうよって言っています。
安全な所から何かしようという魂胆は本当に嫌われます。
国家公務員だけど顔出しというリスクはまず背負わないといけない。
「BUZZ MAFF」で活躍しているYouTuberってほとんど20代なので、ネットに顔を出すことに抵抗がない人が多くて、それも良かったのかなと思いますね。
最後に白石さんにとって、バズるとは?
人の心を動かすこと!
僕らの想いを情報に乗せていきたいんです。
そういう意味で、バズるということは人の心を動かすことなんじゃないかなと思います。
白石さんがYouTuberとして活動する背景には、国家公務員の仕事の魅力を伝えたいという思いがあります。後編では仕事の実態をじっくり聞きました。近日公開します。
取材・編集:川瀬直子 加藤陽平 撮影:田嶋瑞貴
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